【後書き・参考文献】



 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

 全体の後書きです。


 子どもの頃から民話や昔話は大好きでしたが、最近は、今まで以上に民話の魅力にとりつかれています。

 『掌の宇宙』では、自分にとって馴染みのある地方の話を中心に、知識を整理するつもりで書きました。すると、今度は他の地域の民族(俗)や物語が知りたくなり、調べる楽しさにはまってしまいました。

 ですから、これは本当に、作者が楽しみで書いた作品です。


          *


第一話『南海の女王』(インドネシア・ジャワ島)

  不勉強なことに、インドネシアが世界最大のイスラム国だと知らなかったのです。日本より人口が多いということも。ヒンズーや仏教伝来の歴史もあり、本来の(?)民話や神話をさがすのに苦労しました。

  日本の竜宮城を思わせる海の女王の神話に、燕の巣を獲る少年の物語を合わせました。


第二話『エーリアの火』(アフリカ・コンゴ民主共和国)

  エーリアの火の民話が素敵で、是非小説にしたかったのです。ところが、調べれば調べるほど、この国の状況に気持ちが塞ぎ、「こんなものを書いていいのだろうか…」な気分になってしまいました。

  かの国の未来が明るくなりますよう、祈りをこめて。


第三話『恋するウナギ』(ポリネシア諸島・サモア独立国)

  蛇はいないがウナギはいる。南東の神話のおおらかさが大好きです。日本だと若い女性はたいてい人身御供にされますが、あちらではちゃんと守ってもらえます。


第四話『ドリーム・タイム』(オーストラリア・アーネムランド)

  資料を調べているうちに、この話の舞台となった地域は無人になってしまいました。文化はそれを保存し伝えようとする人がいなければ消えてしまうということを、痛感しています。


第五話『カメレオンと虹の女王』(アフリカ・南アフリカ共和国)

  アパルトヘイトの歴史は有名ですが、この国に暮らす人々のことを殆ど何も知りませんでした。長大な叙事詩の雰囲気が少しでも伝わることを祈りつつ。


第六話『湖の星』(南米・ブラジル連邦共和国)

  ブラジル先住民の民話や神話は、南米の他の地域にくらべれば、まだ保存されていると感じます。ハチドリが登場する民話や、ジャガーの登場する創世神話が素敵です。オオオニバスの登場する物語の美しさに惹かれました。


第七話『タック・タック』(南米・ペルー共和国)

  現在伝えられているペルーの民話は、殆どが欧州・キリスト教の影響をうけています。先住民の信仰や世界観が、比較的残っているものを選びました。


第八話『獅子と少年』(アフリカ・カメルーン共和国)

  イスラム教の影響はありますが、ライオンと子どもが一緒に暮らすなど、現地の雰囲気の伝わる話を選びました。体の傷は消えても言葉による傷は消えないということや、友情の在り方について考えさせられる民話です。


第九話『マヌタラの卵』(チリ共和国イースター島)

  マヌタラは軍艦鳥だという説もありますが、この作品ではセグロアジサシ説をとりました。

  西欧人のもたらした天然痘や奴隷狩りによって、一時は島民が絶滅寸前まで追い込まれたイースター島ですが、現在は先住民の文化を見直す活動が行われています。鳥人儀礼をテーマにした話の中にマケ・マケの神話をいれた構成は、第一話・第二話と同じです。

  

最終話『星の航海士』(ポリネシアン・トライアングル)

  羅針盤やGPSのなかった時代、ハワイイ諸島やポリネシア諸島、イースター島に渡った人々は、潮流や渡り鳥の飛ぶ方向や、夜空の星の位置をたよりに船を操作しました。伝統航海術の航海士マウ・ピアイルック氏と、彼の師にあたるチェチェメニ号船長ルパック氏をモデルに、その航海術の伝承儀礼について書きました。


          *


 当初、沖縄やフィリピン、ハワイイ諸島のお話を入れようと考え、資料を集めていました。ところが、これらは全て北半球なのです。南半球・海洋編と書いた以上、明らかに北半球なのは……と思い、除きました(カメルーン共和国だけは、赤道付近の北半球です)。しかし、素敵な民話が沢山ありますので、ご興味がある方は、是非読んでみて下さい。

 今回は、予想以上に資料収集に苦労しました。絶版になっていたり図書館になかったり、欧州やキリスト教の影響が強かったり……。書いている間に該当地域の集落が消失したり、紛争が始まったりして、愕然としました。

 文化は人々の努力で復興しますが、一方で簡単に消えてしまいます。現地の悲惨な状況を知って落ちこんだ時期もありますが、私の活動が彼らの「文化を残す、伝える」一助になればと願っています。


 題名の『Shakin' The Tree』は、セネガル出身の歌手ユッスー・ンドゥールの同名曲からです。「樹を揺する」とは、「変革を促す」という意味。社会を変えていこうという呼びかけです。

 今回も、一次・二次資料を多く使いました。歴史・民俗・言語学的考察が不充分で間違っている部分の責任は、私個人にありますことを、お断り申し上げます。


 お読み下さり、ありがとうございました。お気に召して頂ければ、幸いです。



 

                    作者 拝



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【参考文献】


『文化人類学―カレッジ版』 波平 恵美子 編 医学書院

『文明の衝突』 S.P.ハンチントン 集英社

『人類がたどってきた道―”文化の多様化”の起源を探る』 海部陽介 NHK出版

『アジアの先住民族』 解放出版社 編 解放出版社

『社会人類学―アジア諸社会の考察』 中根 千枝 講談社学術文庫

『「英雄」伝承の世界―神話と歴史のはざまをゆく』 鈴木 道子 中日出版社

『インドネシア』 水本 達也 中公新書

『世界の民話(22) インドネシア・ベトナム』 小沢 俊夫 編訳 行政出版

『インドネシア民話の世界~民話をとおして知るインドネシア』 百瀬 侑子 つくばね舎

『インドネシア群島民話集』 横山 幸夫 編訳 文芸社

『インドネシアの民話集・サブ島のベロド』 和知 幸枝 優しい食卓

『インドシナ王国遍歴記―アンコール・ワット発見』 アンリ・ムオ 中公文庫

『生命の森の人びと―アジア・北ビルマの山里にて』 吉田 敏浩 理論社

『オセアニア―海の人類大移動』 国立民族学博物館 編 昭和堂

『南島の神話』 後藤 明 中公文庫

『「物言う魚」たち―鰻・蛇の南島神話』 後藤 明 小学館

『海を渡ったモンゴロイド―太平洋と日本への道』 後藤 明 講談社選書メチエ

『ハワイ研究への招待―フィールドワークから見える新しいハワイ像』 後藤 明 他編 関西学院大学出版会

『海のモンゴロイド―ポリネシア人の祖先を求めて』 片山 一道 吉川弘文館

『星の航海術をもとめて―ホクレア号の33日』 W.クセルク 青土社

『ホクレア号が行く―地球の希望のメッセージ』 N.トンプソン 他 ブロンズ新社

『Tarzan特別編集 〈ホクレア号〉について語ろう!』 金城 昌芳 他編 マガジンハウス

『楽園考古学―ポリネシアを掘る』 篠遠 喜彦 他 平凡社

『ポリネシアン・トライアングル~古代南太平洋の文化と伝統』 M.スティングル 著 佑学社

『古代南太平洋国家の謎~ポリネシアン・トライアングルの伝説を追う』 M.スティングル 著 三修社

『イースター島を行く―モアイの謎と未踏の聖地』 野村 哲也 中公新書

『写真でわかる謎への旅 イースター島』 柳谷 紀一郎 雷鳥社

『失われた文明を求めて』 木村 重信 KBI出版

『オセアニア神話』 R.ポイニャント 青土社

『物語 オーストラリアの歴史~多文化ミドルパワーの実験』 竹田 いさみ 中公新書

『多文化国家の先住民~オーストラリア・アボリジニの現在』 小山 修三 他編 世界思想社

『ムツゴロウ世界動物紀行 ニュージーランド・中国編』 畑 正憲 SB文庫

『アボリジニの世界~ドリームタイムと始まりの日の声』 R.ローラー 青土社

『アボリジニー神話』 K.L.パーカー 青土社

『世界の民話(23) パプア・ニューギニア』 小川 超 編訳 行政出版

『生命の大地~アボリジニ文化とエコロジー』 D.B.ローズ 平凡社

『隣のアボリジニ~小さな町に暮らす先住民』 上橋 菜穂子 筑摩書房

『精霊たちのメッセージ~現代アボリジニの神話世界』 松山 利夫 角川選書

『ユーカリの森に生きる~アボリジニの生活と神話から』 松山 利夫 NHK出版

『木の実の文化誌』 松山 利夫 他 朝日選書

『オーストラリアの花100』 相原 正昭 他著 阪急コミュニケーションズ

『世界をささえる一本の木―ブラジル・インディオの神話と伝説』 ヴェルデ=マール再話・絵 福音館書店

『ペルー・ボリビアのむかし話』 加藤 隆浩 偕成社

『ペルー・インカの神話』 ハロルド・オズボーン 青土社

『インカ皇統記』 インカ・ガルシラーソ・デ・ラ ベーガ 岩波文庫

『インディアスの破壊についての簡潔な報告』 ラス・カサス 岩波文庫

『インカ帝国史』 シエサ・デ レオン 岩波文庫

『アステカとインカ 黄金帝国の滅亡』 増田 義郎 講談社学術文庫

『インカとスペイン 帝国の交錯』 網野 徹哉 講談社学術文庫

『インディオの道』 アタウアルパ・ユパンキ 晶文社

『人と思想 ラス=カサス』 染田 秀藤 清水書院

『インカを歩く』 高野 潤 岩波新書

『マチュピチュ―天空の聖殿』 高野 潤 中公新書

『アンデス 食の旅―標高差5000mの恵みを味わう』 高野 潤 平凡社新書

『ジャガイモのきた道』 山本 紀夫 岩波新書

『ラテンアメリカ楽器紀行』 山本 紀夫 山川出版社

『雲の上で暮らす アンデス・ヒマラヤ高地民族の世界』 山本 紀夫 ナカニシヤ出版

『アンデス、祭りめぐり』 鈴木 智子 青弓社

『アンデス、奇祭紀行』 鈴木 智子 青弓社

『アフリカでケチを考えた―エチオピア・コンソの人びとと暮らし』 篠原 徹 筑摩書房

『森に生きる人―アフリカ熱帯雨林とピグミー』 寺嶋 秀明 小峰書店

『西アフリカ おはなし村』 国立民族学博物館 編 梨の木舎

『語りつぐ人びと・アフリカの民話』 江口 一久 他編 福音館文庫

『カマキリと月・南アフリカの八つのお話』 福音館文庫

『アフリカの神話と伝説』 キャサリーン・アーノット 東京図書出版

『ライオンの咆哮のとどろく夜の炉辺で―南スーダン、ディンカの昔話』 ジェイコブ・J・アコル 青娥書房

『新書アフリカ史』 宮本 正興 他編 講談社現代新書

『「野蛮」の発見―西欧近代のみたアフリカ』 岡倉 登志 講談社現代新書

『武装解除―紛争屋の見た世界』 伊勢崎 賢治 講談社現代新書

『フォトジャーナリスト13人の眼』 JVJA 編 集英社新書

『NHKスペシャル・アフリカ 21世紀―内戦・越境・隔離の果てに』 秦 正純 他編 NHK出版

『漂泊のルワンダ』 吉岡 逸夫 牧野出版

『アフリカを食べる』 松本 仁一 朝日文庫

『アフリカで寝る』 松本 仁一 朝日文庫

『カラシニコフ』 松本 仁一 朝日新聞社

『カラシニコフⅡ』 松本 仁一 朝日新聞社

『アフリカ・レポート―壊れる国、生きる人々』 松本 仁一 岩波新書

『ルポ 資源大陸アフリカ~暴力が結ぶ貧困と繁栄』 白戸 圭一 朝日新聞社

『経済大国アフリカ―資源、食糧問題から開発政策まで』 平野 克己 中公新書

『たまたまザイール、またコンゴ』 田中 真知 著 偕成社

『ムツゴロウ世界動物紀行 アフリカ編』 畑 正憲 SB文庫

『カラハリの失われた世界』 L.V.デル・ポスト ちくま文庫

『アフリカの黒い瞳』 L.V.デル・ポスト 思索社

『内奥への旅』 L.V.デル・ポスト 思索社

『エーリアの火~アフリカの密林の不思議な民話』 加納 隆至 他 どうぶつ社

『アフリカ神話』 J.パリンダー 青土社

『アフリカの民話』 R.D.アブラハム 編 青土社

『アフリカの創世神話』 阿部 年晴 紀伊國屋書店

『アフリカ創世の神話―女性に捧げるズールーの賛歌』 M.クネーネ 人文書院

『アフリカ文化探検―半世紀の歴史から未来へ』 田中 二郎 京都大学学術出版会

『アフリカ大陸37カ国ガイド』 旅行人編集室 旅行人

『地球の歩き方・インドネシア』 「地球の歩き方」編集室 ダイヤモンド社

『地球の歩き方・タヒチ イースター島/クック諸島』 「地球の歩き方」編集室 ダイヤモンド社

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Shakin' The Tree 石燈 梓 @Azurite-mysticvalley

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