【信太郎28歳、紗礼25歳】結婚するの!

「お兄ちゃん、私、結婚するの」

「ぅお! マジか! ……マジか?」


 地元の信用金庫に勤めている紗礼さあやが、実家にふらりと立ち寄って、そんなことを言い出した。

 両親はディナーショーのチケットが当たってしまい、信太郎しんたろうの妻が送りに行っている。なのでいま、この家には2人きりである。店じめは跡継ぎである信太郎が務めた。


「マジかって何よ。私だって、結構良い年なのよ?」

「良い年って25だろ? 俺の周りじゃ早い方だけどな」

「自分だって結構早く結婚した癖に! 私だって出来るだけ早く結婚したいの!」

「まぁその辺は自由だけどさ。ていうか、彼氏いたんだな」

「失礼な! います! 彼氏くらい!」

「ごめんって。でもなぁ、紗礼が、なぁ……」


 もごもごと続きを誤魔化す。

 せっかくのおめでたい話なのだ、水を差すこともあるまい。

 

 お前のわがままに付き合える男がいたんだな、とはまさか言えなかった。


 まぁ、肉親とはいえ、自分だってその『わがままに付き合える男』ではあるのだ。世界は広いのだし、そんな奇特な人物もいるのだろう。


「今度連れて来いよ。父さんと母さんには言ってるんだろ?」

「言ってない」

「何でだよ! 何で俺に先に言ったんだよ!」

「え~? まずお兄ちゃんの反応見てからにしようかなって」

「何でだよ!」

「だってさぁ、お兄ちゃんって、私の良き理解者っていうかさぁ」

「そうかぁ?」

「お兄ちゃん、いつでも助けてくれるし、何でも言うこと聞いてくれるしー」

「まぁ、それはそうだけど」

「嬉しいことは一番に報告したかったの」

「……お、おう。そうか」


 そんなことを言われりゃ。


 信太郎の頬は自然と緩んでしまう。


「――それで? どんなヤツなんだよ。『妹はやらん!』って殴ってやる」

「うっふふー、あのねぇ……」


 紗礼は良くぞ聞いてくれたと瞳を輝かせ、嬉々として身を乗り出した。



「お兄ちゃんに似てる人!」


 幸せそうな顔でそんなことを言われたら、「妹はやらん!」なんて殴れないじゃないか、と信太郎は苦笑した。


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国見兄妹の【むかし】と【いま】 宇部 松清 @NiKaNa_DaDa

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