【信太郎5歳、紗礼2歳】けっこんするの!

「にいに、さーちゃんね、けっこんするの!」

「そうなんだー」

「あのね、けっこんって、しってる?」

「ぼくしってる。パパとママみたいなやつ!」

「そうだよ」


 いま保育園では『けっこん』がブームのようである。

 とはいえ、もちろん幼児の口約束なので、一ヶ月、いや、一週間、何ならその翌日にはお相手が変わっていることも少なくない。

 ただ、とにかく「けっこんしようね」「うん」と言葉を交わせばそれで良いのである。

 

「さーちゃんね、あおくんとー、コウくんとー、りゅうくんとー、それからー、パパとけっこんするの!」

「すごーい、たくさんけっこんするんだね」

「そうなの!」


 すごいと兄に褒められて、紗礼さあやは得意気だ。鼻の穴を膨らませて胸を反らせている。


「にいにはだれとけっこんする?」

「ぼくはー。うーんと、どうしよう」

「まなちゃんはー?」

「まなちゃんかぁ」

「みいちゃんとかー」

「みいちゃんかぁ」

「るるちゃんとかー」

「るるちゃんかぁ」

「もう、にいに! ちゃんときめて!」

「え~? こまったなぁ。それじゃぼく、まなちゃんと、みいちゃんと、るるちゃんとみーんなけっこんする!」

「ママは?」

「ママも!」


 ようやく結婚相手が決まったので、信太郎しんたろうもこれで安心だとばかりににっこりと笑った。



 その日の夕食時、2人は、複数との婚姻は認められていないこと、また、親との婚姻も認められていないことを両親から告げられた。残酷な事実である。


 結局、1人に絞ることも出来ず、2人の『けっこん』はそのままうやむやとなったのだった。


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