【信太郎16歳、紗礼13歳】今日、暑いね。
「お兄ちゃん、今日、あっついね」
「そうだな。うわっ、最高気温35℃だって。そりゃ暑いわけだ」
「暑いね」
「だなぁ」
「ねぇ、あっついの」
「同感」
「そうじゃないでしょ!」
急に大きな声を出され、
「何だよ」
エアコンの設定温度は27℃にしてある。だから、まぁ、一応涼しいは涼しいはずなのだが。
「何か冷たいのないの?」
「冷たいの? あるかなぁ」
そう言いながら、読みかけの本に栞を挟んで立ち上がる。
さすがにもうジャグは用意されていないが、冷蔵庫の中には麦茶が入っている。
「麦茶ならあるけど」
「麦茶かぁ~。なーんか弱いなぁ」
「弱い?」
「もっとさぁ~、つぅ~めたいやつ、ほしいなぁ~」
「もっと冷たいやつ?」
ならばもうアイスしかないだろう。
そう思って冷凍庫を開けてみたが、冷凍食品の類しか入っていない。
そうだ、昨日食べたんだった。――
「アイスないぞ」
「えぇ~!!!! 何でないの!!!!」
「昨日紗礼が最後の一個食べちゃったんだろ」
「やだやだやだやだ~~~!!! さーのアイス~!!!!」
「だから、最後のアイスは紗礼が……」
「お兄ちゃぁぁあああん!!!」
足をバタバタさせてそんなことを言われれば、信太郎にはもう選択肢など一つしかない。つまり――、
いまからアイスを買いに行く、という。
「仕方ないなぁ。お母さんにお金もらって買って来るから」
店で事務仕事をしていた母親のところに行くと、買い置き分も頼むと言われ、多めに金をもらった信太郎は、店の自転車を借りて近くのスーパーへと向かった。コンビニの方が近いのだが、スーパーの方が安い。
「買って来たぞ」
「やったぁ! 何買ってきたの~?」
いそいそと紗礼が腰を上げ、信太郎を出迎える。
しかし、外の熱気をまとったままの信太郎に近付くのは嫌らしく、一定の距離をとっている。
「カップのバニラとチョコチップのやつと、それからソーダバーだろ。それからアイスチョコ最中、練乳イチゴ氷と、レモンシャーベット、あとは抹茶のやつと――」
「私、抹茶きらーい」
「抹茶はお母さん用だよ。それとこっちの白くまはお父さんの。食べるなよ」
「食べないもん。お兄ちゃんはどれなの?」
「俺は何でも良いよ」
「それじゃ、私、どれにしようかなぁ~。あ、コーンのやつあるじゃん! お兄ちゃんナイスチョーイス! じゃ、私これ~」
「はいはい」
「そんでぇ~、お兄ちゃんはこれね。練乳イチゴ」
自分のアイスをさっと選び、なぜか信太郎の分まで勝手に決めると、紗礼はそれ以外のものをぱっぱと冷凍庫に入れてしまった。
「何で俺のも決めちゃうんだよ」
「えっへへ~、そしたら、こっちも食べれるじゃん? 私、賢いっ!」
「賢い……のか?」
「良いでしょ? お兄ちゃん、いちご好きよね?」
「まぁ、それなりには」
ソファに並んで座り、テレビをつける。
バラエティの再放送である。
「紗礼、食べないのか? こっちの」
「ちょっと待って。もうちょいこっちの食べてから」
「早くしてくれよ。俺も食べたいんだから」
そう言いながら、スプーンを紗礼に向ける。
「食べてて良いよ」
「良いのか? それじゃ、紗礼の分の取り皿を……」
「良いって良いって。兄妹なんだもん、気にしないよ、私」
「そう言われても……」
「気にしなーい、気にしなーいっ。あははー」
紗礼はあっけらかんと笑った。
しかし――、
「いや、俺は気にするからな」
信太郎は気にするのだった。
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