都市伝説探偵 最後の事件

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都市伝説探偵 最後の事件

「ついに追い詰めたぞ、【】!」


 ここは袋小路ふくろこうじになっている。

 もう、やつに逃げ場はない。


 だというのに、やつはすずしい顔を一向いっこうくずそうとしない。

 余裕よゆう綽々しゃくしゃくといったふうで、ただ私のほうを見つめてくる。


 いのちいをする素振そぶりもない。

 それどころか、出会ってからというもの、ただの一度もやつは口を開こうとはしなかった。

 あれだけたくさんのウワサをばらまき、世を混乱におとしいれてきたというのに、

一体どういうことなんだろうか。なにか目的でもあるんだろうか。


 やつとの邂逅かいこう以来、こうして何度も追う・追われることをくりかえしてきたが、そのたびに、やつの実像がぶれていく。


 どうも、しっくりこない。

 話に聞いていたやつとは、別人だ。


 しかし、それももうどちらでもよかった。

 どうであろうと、今ここでやつをとらえれば、すべて明らかになる。


 そう、すべてがうまくいくのだ。


「おそらくお前はこう思っているんだろう。

 『私をとらえて、あまつさえ消しでもしてしまえば、都市伝説から生まれたお前自身も消えてなってしまう。そんなことができるはずがない』とな。

 それは、おそらくそのとおりなんだろう。

 私は都市伝説探偵。

 ある都市伝説によって生み出された存在だ。

 だから、その都市伝説をつかさどる【】が消えてしまえば、きっと私自身も消えてしまうのだろう。

 だが、それでも私は、探偵なのだ。

 都市伝説を追い、その存在を否定する探偵だ。

 すべての元凶である【】を見過ごすわけにはいかない。

 たとえ、それで私自身が否定されようともかまわない。

 それこそが、私の役割であり、私の生きる目的だからだ」


 そんな私の言葉に、ようやくやつは反応を返した。

 やつは、その頑なだった口を、ようやく開いたのだった。

 そして、独り言のような言葉をあたりに響かせた。


「私はここを知っている。

 ここは『書かれたことが本当になる場所』。

 あなたや私にとってはまぎれもない現実だけど、そうじゃない人たちもたくさんいるの。

 ここを【】が、たくさん、ね。

 ここは、そういう場所。

 ここに描写されたことは、すべて本当になってしまう。

 ここで話したことは、すべて本当になってしまう。

 だから、迂闊うかつには話せなかった。

 でも、もう大丈夫」


「……なにを言ってるんだ、わけがわからないぞ。それが例のウワサってやつなのか?」


「わからなくてもいい。

 でも聞いてほしい。

 私はずっと、あなたのことを待っていた。

 あなたが私を追ってここまで来てくれるのを、ずっと待っていた。

 そして、それがあらわれるのを、ずっと待っていた。

 そしてようやく、そのときがきた。

 が、ようやくあらわれてくれた。

 これでやっと、を終わらせることができる」


「書きにきてくれる? 私たち? 一体なんの話をしているんだ!」


「【友達の友達私たち】は、ひとりじゃない。

 たくさんの私たちがいて、それはどんどん増殖ぞうしょくしていく。

 いろいろな作者の手で新しい都市伝説が作り出され、その度に私たちも生み出されていく。

 そして、私たちは【都市伝説の混沌】となって、この世を飲みこんでいく。

 でも……私はそれが嫌だった。

 人々を苦しめるのは、もういやだ。

 だから、あなたに協力してもらったの。

 ここならば、私の願いも叶う。

 みんなの夢が叶えられる。

 なんだってできる」


 そう言って、やつは上を向いて、に向かって、大きく口を開いた。


「わた――」


「待て!」


 私は、思わず声をあげていた。

 理解はまったくと言っていいほど追いついていなかったが、それでも私はやつを止めた。

 私の身体に流れる都市伝説探偵の血が、私を突き動かしていた。


 私には、やつがこれからなにをしようとしているのかがわかっていた。

 だからどうしても、先に言わなければならなかった。


「それは違う!

 私たちを救えるのは、私たちだけだ。

 たとえ、私たちが都市伝説から生み出されたものだったとしても、この世に生まれたことに変わりはない。

 この世に生まれたものとして、この世を救うのが私たちの使命だ。

 もし【外の人たち】なんて存在がいるとしても、その力にすがるのは間違っている。そんな存在に、自分たちの未来をたくすのは間違っている。

 この世界に生きてもいないものたちに、私たちの運命をもてあそばれてたまるものか!

 だから、私たちが言うべき言葉は、こうなんだ!」


 私は、ありったけの声で叫んだ。


「もう俺たちのことは放っておいてくれ!

 俺と、この【】は、もうお前たちの思いどおりには動かない。

 都市伝説を作りたいなら作ればいい。

 ただし、俺と、この【】が、すべての都市伝説をあるべき姿に戻してやる。

 もう苦しみなんて生ませない。

 俺は――俺たちは、ふたりで一つの、都市伝説の探偵だ」


 もしここが『書かれたことが本当になる場所』なのだとしたら、私の言葉も本当になるはずだ。

 だからもし【私たちを読む外の人たち】なんていうがいるのだとしたら、これだけは伝えておこう。


 残念だが、この物語はここで終わりだ。

 ここから先は、他の誰でもない、私たちが書く新しい物語が始まるのだから。

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