最終話 おかしな二人

 翌朝。掃除やなんかもそこそこに、英嗣を起こしに寝室へと向かった。無造作にノックをして、返事も待たずにすぐにドアを開ける。

「英嗣。起きてー」

 シャーっと勢いよくカーテンを開け、朝の日差しを部屋一杯に入れる。

「なんやねんなぁ……」

 ゴシゴシと目を擦り、不満そうに膨れている顔は子供みたいだ。

「正月ぐらい、ゆっくり寝かせぇや」

「お正月だから、二人の時間を大切にしようよぉ」

 英嗣の不満顔に負けないように甘えた声で言い返すと、あほかっ、と返されてしまった。

 終いには、さっさと掃除せいや、と怒られる始末。

 あれれ? 私ってば、英嗣の彼女になったんだよね?

 だって言ってたよね、何でこないな泣き虫好きになったんやろ、って。

 脅迫じみてるって、これくれたじゃん、これ。

 貰った胸元のチャームに触れる。

 昨日だって、ちゅーしたよね?

 感触を思い出すように、唇にそっと指を置く。

「なにしとんねん」

 そんな私の姿を見て、英嗣は訝しげな表情をしている。

「好きだよね?」

「ん?」

 半分探るように、半分からかうように訊ねた。

「私の事、好きだよね?」

 すると、きょとんとした顔のあと、真っ赤になって、「どあほっ!!」と叫ばれてしまった。

「そういうんは、ちゃんと仕事済ませてからにしろ」

 照れ隠しをするように、バサッともう一度布団の中に潜り込んでしまった。

 そんな仕草がおかしくて、わざと叫んでやった。

「おかしな女が大切でしゃーないんやー」

 英嗣の真似をして、口元に手をやりわざとらしく叫ぶと、慌てたように布団から顔を出し焦りだす。

「もおっ、ええってー!」

 照れて叫ぶ英嗣に、ケタケタと声を上げて笑った。

「何で好きになったんやろー」

 もう一度物真似をして叫ぶと、ベッドから出てきて抗議する。

「こないな泣き虫ってーのが、抜けとるやないかいっ。この、泣き虫女がぁっ」

「泣き虫じゃないもんっ」

 今度は、私が抗議する番だ。

「うるっさいは、泣き虫がぁっ。また、洟出てんで」

「出てないよぉっ」

 グイグイッと鼻先をつままれながら、私たちの幸せなやりとりが朝の日差しの中続いた――――。

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おかしな二人 花岡 柊 @hiiragi9

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