ひとつの終わり
「それじゃあ、いってきます」
そう言ったきりだった。
人にはいろんな顔があって、あの人に見せる顔とこの人に見せる顔は、取り繕わずとも違っていて、君が僕に見せていた顔は、君の一部でしかなかった。僕が君に見せていた顔も、一部でしかなかったはずだけど、君がいなくなった途端、僕はいつもどんな顔をして過ごしていたかを忘れた。
手を伸ばせば触ることができたのに、掴むことはできなかった。それでも時間をかければ君の底に届くんじゃないかって期待して、明日も、明後日も、って、縋った。そうしているうちに君は、あのドアから出て行った。最後の背中も、最後の声も、まだここにある。
臆病で儚い目をしていたよね。心のうちも見せてくれた気がしていたけれど、それは本物だったのかな。本物だったから、居なくなってしまったのかな。
もう届かないのなら、最後にもう一度、全部に縋ってみたらよかった。ふいに見せる暗い目も強がりな笑顔も、全部がどうしようもなく、多分、
好きだった。
ぜんぶ、独り言だった たま。 @ypnjniyo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ぜんぶ、独り言だったの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます