3行で昔話を解説しなきゃ、金は払えない!

ちびまるフォイ

ぎゅぎゅっと圧縮昔話

「結論から言おう。私はすこぶる急いでいる」


「はぁ、なにをそんなに急ぐ必要が? 予定でもあるんですか」


「予定はない。ただし寿命はある。

 毎日毎時間毎秒、私は自分の命の時間を削って生きている。

 だから無駄な時間を作りたくないのだ」


「なんか……人生つまらなそう……」


「そういう勝手な価値観のレッテルを張るのは時間の無駄だ」


「それで、俺に何をしろと?」


「昔話をしてほしい」



「……は? 夜、寝つけられないとか?」


「眠れない子供じゃないんだ。そういうわけではない」


「じゃあどういうわけですか」



「私はこれまで時間を惜しんで人生成功するための勉強と、

 時間を有効活用するためだけに時間を費やしてきた」


「なんとなく察してました」


「そのかいあって、いい大学、いい会社、いい人生のパートナーを見つけられた。

 だが、昔話だけは時間の無駄だと切り捨ててきたんだ」


「ピンポイントな取捨選択……」


「取引先でも昔話で説明する人が多くて話が理解できないと困る。

 相手の言っていることが真っ先にわからなければ時間の無駄になる。

 だから、君には昔話を話してもらいたい」


「まぁ、こっちはお金さえもらえればなんでもいいですけど……」


ちょっと変わったビジネスサラリーマンに急かされるように男はうなづいた。

リーマンは持ってきたアタッシュケースを、1億円でも見せるかのように開けてみせた。


「どれでもいい、内容を教えてくれ」


「え、ええ……?」


とりあえず手に取ったのは桃太郎。


「じゃあこれで」

「はじめてくれ」


「この物語は、えっと、おじいさんとおばあさんが――」


「待て」


急にリーマンは手のひらを出してストップのハンドサイン。

男はまだ冒頭のくだりすら教えてないので驚いた。


「なにか問題が?」


「長いんだよ。言ったはずだ、時間はないと」


「でも、これでもまだ冒頭ですよ」


「3行で収めろ」


「3行!?」


「でなければ、報酬は払えない」


「わかりましたよ……」


男は絵本をパラパラとめくり、3行で解説することに。


「桃太郎!!


 1、桃から生まれる!

 2、仲間集める!

 3、鬼倒す!


 以上!!」



「なるほど。この昔話は仲間と協力する大切さを教えているのか。

 君、なかなか要約スキルが高いようだ。短いながら、内容を理解できた」


「それはよかったです……」


「じゃあ、次」

「まだやるの!?」


「次はこれを頼む」


今度はリーマンが本を差し出したので、男は本をざっと読んで3行で説明する。


「マッチ売りの少女!!


 1、マッチが売れない!

 2、妄想スタート

 3、死ぬ!


 以上!!」



「なるほど。これは不況に陥った時の人間の極限心理を描いた作品か」


「な、なんか違うような……。もっと悲しくもハートフルな昔話ですよ」


「じゃあ次はこれだ」

「またぁ!?」


次の絵本を受け取り一気に内容を把握し、3行で解説する。


「赤ずきんちゃん!!


 1、はじめてのおつかい!

 2、オオカミと遭遇!

 3、腹から救助!!


 以上!!」


「なるほど。これは、分別が付かないまま行動することの危険性と

 最後まであきらめない大切さを教えている作品か。

 しかし腹からとは……昔話はグロテスクと聞いたが、本当だな」


「エイリアン的なイメージしてますよね……」


絵本にはオオカミのお腹からポップに登場している姿が描かれている。

おそらくリーマンが想像している映像とは絵柄からちがう。


「で、次はどれを読むんです?」


「待て。問題がある」

「でしょうね」


桃太郎くらいしかちゃんと内容を理解してもらってない気がする。

やはり教訓を学ばせるのに3行では限界があった。


「3行では長い」


「えええ!?」


「1行で説明しろ」


「鬼か!!」


「私には時間がないと言ったはずだ。

 君の編集技術なら3行にできたものを一言に圧縮することもできるはずだ」


ここで断ってしまえば、報酬がもらえないかもしれない。

男はリーマンの要求を受け入れて、差し出された絵本を一言で解説することに。


「鶴の恩返し!!」


「ふすま開けるな言うたやろがぁぁぁぁぁ!!!!」



「浦島太郎」


「玉手箱開けるな言うたやろがぁぁぁぁぁ!!!!」



「舌切りすずめ」


「つづら開けるな言うたやろがぁぁぁぁぁ!!!!」



「なるほど!! 昔話の内容のちがいはわからないが、

 伝えたいことはなんとなくわかったぞ」


リーマンはオチだけ聞いて納得したようだった。


「それじゃ次は……」


「待ってください。実はもっと圧縮できる方法があるんです」


「なんだって? 君、それは本当か」


「ええ、これまで1つの物語ずつでしたが、今度はちがいます。

 もっともっと、たくさんの昔話を一気にまとめることができます」


「そんなこと本当にできるのか!

 それができるならますます時間が圧縮できるじゃないか!!」


「ただ、ちょっと準備するまでに時間が必要です。いいですか?」


「もちろんだ! 準備が終わったら教えてくれ」


リーマンは嬉しそうに別の作業を行って時間をつぶした。

これ以上にどれほど圧縮できるのか楽しみになっている。



「お待たせしました!!」


男が声をかけた。


リーマンのもとに1つのファイルが届く。




【昔話.zip】



中にはいくつもの昔話がまとめて圧縮されていた。

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