嫉妬すら覚える作品

 重厚で良質なストーリーにそれぞれ個性のあるキャラクター達、壮大かつ繊細なまでに完璧に構築された世界観。
 まるで海外ドラマや映画でも見ているような気分になりました。

 賞金稼ぎのジャック・マーフィーはある事件をキッカケに過去の真相に触れる。
 巨大な陰謀のもとに隠されていた過去の真相を知り、ジャックは復讐者として動き出します。

 練りに練られたこの重厚なストーリーは、海の如きが深さが、麻薬の如き中毒性があり引き込まれます。行き当たりばったりの構成ではこの領域はおろか足元に立つ。いや足跡を辿ることすら出来ないでしょう。少しずつ見え隠れする『謎』に心を掴まれ、読む手が止まりません。
 そしてその魅力を存分に発揮してくれるのが、キャラクター達。
 会話一つとっても、まるで映画のワンシーンのようなダンディーでカッコイイやりとりに思わず見惚れてしまう。

 更に視点の移り変わりも絶妙です。
 各視点が本当に良いタイミングで変わるので、各々がその時どんなことを思い行動しているかがよくわかります。
 登場人物たちがそれぞれの信念のもと行動し、それが交わった時物語が一つずつ前に進んでいく。この構成力は正に圧巻の一言です。

 正直嫉妬すら覚えてしまう。
 私はこの領域に至ることが出来るのか、同じ作家という肩書きを背負っているというのに何故ここまで違う。
 悔しさのあまり読んでいて歯を食いしばりました。
 このようなレビューも書きたくはなかった。
 これ以上に差がついてしまえば、もう永久に追いつくことなど出来ないだろうから。

 しかしそれでもこのレビューを書いたのは、この作品があまりにも魅力的すぎるからです。
 私の心は鷲掴みにされました。
 それはまるで、心臓を直接握られているかのよう。
 
 その深淵の如き叡智に、私は嫉妬とともに心からの尊敬を送ります。

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