幽霊救急110番の視界不良

ちびまるフォイ

幽霊が見える人の救急除霊

「はい、こちら幽霊ダイヤル110番。

 幽霊ですか? お風呂ですか? それとも、わ・た・し?」


『幽霊が出たんです! それ以外に電話かける理由なんてないでしょう!!』


「わかりました。まずは状況を教えてください」


『えっと、今、俺は裸ネクタイで、深夜アニメをテレビで見ています!』


「いえ、幽霊の状況です」


『カーテンの隙間からちらっと見えたんです!

 今は怖くて見れません!! どうにかしてください!』


「こちらとしては、あなたのほうが怖いですよ。

 勇気を出してみてみてください。それで幽霊の度合いがわかります」


『……わ、わかりました』


しばらくしたあと、また興奮した様子の男が電話口に戻ってきた。


『うわぁぁぁぁあ!! めっちゃ見てます!! めっちゃ覗いてる!!

 なんにも悪いことしてないのに!!

 ちょっと裸でハッスルしていただけなのに!!』


「幽霊は女性ですか? 男性ですか?」


『美人です!!』

「女性ね」


スタッフは電話を受けながら入力作業を進めていく。


「服装は?」


『だから裸ネクタイだといったでしょう!!』

「幽霊のです!」


『白い和服を着ていました! ザ・幽霊みたいな感じの奴です!!』


「それは危険ですね……すぐに幽霊救急を回します。

 あなたの住所を教えて下さい」


電話口の男は慌てた口調で住所を告げると、スタッフはすぐに幽霊車に乗り込んだ。


『あの、あの! いつ来てくれるんですか!?

 もう怖くて怖くて、トイレにもコンビニにも行けないんです!』


「あと10分ほどで到着します。落ち着いてください」


『10分!? そんなにかかるんですか!?

 その間に呪殺されたらどうするんですか!!

 こんな格好で死ぬなんて嫌ですよ!!』


「いや、その恰好は自業自得でしょ……」


男は恐怖と恥の板挟みで今にも正気を失いそうな気配がある。


「いいですか、落ち着いてください。窓やドアは開けないで。

 覗いているということは幽霊はまだ外にいます。

 家の中なら安全ですから、動かないように」


『ずっと見られる恐怖を味わえっていうんですか!?』


「部屋の四隅に塩を持ってください」


電話口から男のガサゴソという音が聞こえる。


『塩を置きました』


「今、あなたの部屋に塩の結界が張られています。だからしばらくは安心です」


『あっ! あっ! 塩がっ!! 塩が黒ずんでいってます!!』


「なんですって!?」


『コショウになっちゃいました!!』


「それは……S級幽霊ですね……!!」


『そんなに恐ろしい幽霊なんですか!?』


「ドSってことです」

『なるほど』


ドS幽霊ともなると、恨みつらみや怨念はM級よりもねちっこくしつこい。

現地に到着して除霊するのもこちらへの反撃は免れない。


「今、あなたの家に向かっていますが、到着までに幽霊を弱らせてください」


『そんなの無理ですよ!? 霊感なんてないし!!』


「大丈夫、私の指示に従ってください」


『わ、わかりました……』



「では、まず子供用のビニールプールを部屋の中央においてください」


『はい、準備しました』



「次にプールに水と塩を入れてください」


『水と塩ですね……はい、OKです』



「スクール水着でプールに入ってください」


『入りました。本当に効果あるんですか?』



「最後に、スマホでお経を流してください」


『プールの意味は!?』


「あるんですよ。普通にお経を流すよりもスク水の変態の絵面で

 除霊効果に気持ち悪さと除菌力が加わわるんです」


『逆に幽霊が怒ったらどうするんですか!!』


夜の闇を走る幽霊救急のカーナビがやっと目的地付近だと示した。


「もう到着します、安心してください。……もしもし? もしもーし!」


電話口から男の声が聞こえなくなった。

もしかしたら、本当に幽霊を怒らせてしまったのかもしれない。


幽霊救急はなおいっそうスピードを上げて問題のアパートに向かう。



ドン!!


派手な音とともに車はアパートに到着した。

暗くて何も見えないが、アパートから発せられる恐ろしい霊気は感じた。


「すさまじい霊気……! すぐに除霊をします!!」


除霊スタッフは手際よく除霊AEDをセットしてアパートを除霊した。

霊気のうねりが消えたことを確認した。


「これでよし。では帰りましょう」


幽霊救急は帰り道でガタンと大きく縦に揺れた。そして、幽霊所へと戻った。




後日、あのアパートは元々いわくつきの物件だったらしく

アイドル育成スマホゲームで課金した若い女性がサービス終了のショックで自殺したらしい。


その強い怨念があのアパートを覆っていたのだと、wikipediaに載っていた。


「これで一件落着ね」


安心したのもつかの間、また幽霊電話が鳴った。



「はい、こちら幽霊ダイヤル110番。

 幽霊ですか? お風呂ですか? それとも、わ・た・し?」


『ゆ、幽霊です! 幽霊がっ! 私をずっと見てるんです!!』


若い女はパニック一歩手前の状態でヒステリックにまくしたてた。


「すぐに幽霊救急を手配します。そちらの住所を」


『○○町、△△番地 ■-×です!!』


「かしこまりました……ん?」


入力していてスタッフは気が付いた。ここはすでに以前除霊し終わった場所だった。


「私としたことが、除霊不十分だったのかしら、いやそんなことはない。

 あのとき、確かに霊圧が消えたのをちゃんと確認したし……」


『とにかく早く来てください!!』


原因究明もかねて幽霊救急を前以上にすっ飛ばしてアパートに到着した。

外には不安そうな女がすでに待っていた。


「外に出たら危険ですよ! なにやってるんですか!」


「部屋にいると怖くてたまらないんです! 早く除霊してください!!」


アパートを埋め尽くす凶悪な霊気を感じる。

車が到着するなりますます霊気を増していた。


「こ、これは……!」


「どんな幽霊なんですか!? どんな幽霊か教えてください!!」

 




「不安になって外に出たところ、救急車にひかれて重傷を負い

 帰り際に再度ひかれて命を落とした、裸ネクタイの男の霊が見えます……!!」

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