胸に刻む呪い
後日、池月先生は警察へ自首をした。その事実に誰もが驚きの声を上げており、明里に関しては口を大きく開けて五分ほど固まっていたぐらいだ。
「イケちゃん先生が犯人だったなんて……私ショックだー」
「あんな優しい先生が……今でも信じられないわ」
「み、蜷川君と堀田さんは知っていたんですよね?」
「まあ、ね」
池月先生が屋上からいなくなった後、私は蜷川と話し合い、明里達には今日まで黙っていようと結論付けた。先生が自ら決着を付けようとしているのだから、周りの自分達が不用意に口にすべきではない。自然に伝わってくるのを待とう、と。
「んもう、ずるいよ由衣。私も呼んでよね。私だって直接イケちゃん先生に伝えたいことあったんだから」
「ごめん。でも、あんまり人を呼ぶのもどうかな、と」
「まあ、妥当な判断だったと思うわ」
「あ、あと七瀬さん達も大丈夫だったんですよね」
退院した七瀬さんと星野先輩は良好とのことで、来週には部活動に戻るそうだ。神島先輩についても、最初は怯えていたものの、事の顛末を伝えたら憑き物が落ちたように普段通りに戻ったらしい。
「でも、脅迫されていたとはいえ、七瀬さんの件を実行したのは神島さん。りっぱな傷害事件よ。彼女も退院したら罪を償うべき」
「そ、そうですよね」
「脅迫されていたんですから、少しは同情の余地もあると思うんですが」
「いーや。私は許さない」
いや、別に明里が許す許さないはどうでもいいから。
「さて、と。でもこれで事件の方は解決ね。問題は……」
「七不思議の方、ですね」
私の言葉に全員が頷く。
セイタン部への依頼である七不思議の呪いの解除。私達はまだ体育館とプールの不思議の答えを見出していない。
「それに加えて池月先生からの願いも入ったのよね。たしか、桜の木の不思議を守る、だったっけ?」
「はい」
「具体的にどうするの?」
「それを今から考えるんでしょ」
「い、一番は元の内容に戻すのがいいと思うんですが」
「でも、それだと先生の友達が七不思議に入らないから」
「七不思議に入れて尚且つ貶されないように? ただでさえ七不思議が恐れられているのに無茶じゃない?」
無茶だろう。だが、それでも私達はやらなければならない。
「七不思議の呪い解明に呪いの保護。相対する内容でかなり難しいわね」
「でも、投げ出したくありません」
「そうね。先生の、そして先生の友達のためだもの」
「や、やりましょう」
「セイタン部、ファイ! オー!」
私達四人は腕を上げて気合いを入れる。
「うへへ。奈々様、どこまでも付いていきます」
蜷川はまた水樹奈々のCDを愛でて一人別世界に飛んでいた。
「キッショキッショキッショ!」
「また三回言った!」
当然だ。体の中を虫が這いずり回るような嫌悪感が駆け巡ったのだから。
「祐一、まだ余韻離れないの?」
「いや、ライブの余韻はもう引いている」
「だったら何でまだ?」
「アホか。今回の事件解決は奈々様のおかげだぞ? これが愛でずにいられるか」
「いや、いらなくね?」
「ああ~、もう離したくない。ずっと奈々様に癒されたい」
いつまで水樹奈々水樹奈々言ってんだこの野郎! お前が依頼受けたんだろが! セイタン部の仕事しろやぁぁぁ!!
「明里ちゃん、金槌持ってる?」
「金槌? 持ってないですけど、何でです?」
「CD割る」
「さて、七不思議をどうまとめるか話し合おうか」
一瞬にして蜷川が真面目モード。さすが伊賀先輩。脅しで蜷川の扱いはお手のもの……いや、違う。目がマジだ。マジで割ろうとしてたぞこの人。
「やはり桜の木の不思議の内容は現状維持だな。前の不思議よりも魅力がある」
「死体が埋まっているというよりは、ぶら下がっているという方が怖いわよね」
「で、でもそれだと星野先輩達のように言う人も出る可能性があるんじゃ」
「そうだな。だから、少し変えるのはどうだ?」
「どういう風に?」
「例えば、【中央広場ノ桜ノ木ニジョシセイトノ首吊リ死体ガブラ下ガッテイタガツギノ不思議ヲサシシメス】など」
「それだと桜の木だけ手掛かりを残すみたいで目立たない?」
「例えば、だ。これを採用するつもりはない」
その後もあれやこれやと案を出し合うが、中々納得できるものは出てこなかった。
「む、難しいですね」
「ああん、もう! 後回しにしようよ! 今日は体育館かプールのミーティングしよう!」
「逃げるなよ、明里」
「だって、答え出ない議題にいつまでも時間掛けたら無駄じゃん」
「一理あるわね」
「伊賀先輩まで……」
「今すぐ出すべきでもないし、今日の夜に体育館かプール調べている時にでも話し合いは出来るでしょ?」
「まあ、そうですが」
「決まり! さぁ、始めよう! 学園七不思議の思い出!」
……んん? 思い出?
「明里。何、思い出って?」
「えっ? だって、池月先生が言ってたんでしょ? 七不思議は白峰学園を思い出として残すためなんだ、って」
「言ってたけどさ、でも思い出は違くない?」
「そうかな~。だってさ、生徒の胸にいつまでも刻むわけでしょ? それって一種の呪い、って捉え方も出来ない?」
ポカーン。
明里の台詞に私達全員が口を開けて呆けていた。
「えっ、あれ? 私、なんか変なこと言った?」
「いや……それいいんじゃない?」
「うん。いいわね」
「わ、私も良いと思います」
「採用だな」
明里を除いて、四人が顔を寄せて話し合う。
「となれば、七つ目の不思議を田島香那にするか」
「元に戻るってこと?」
「それもありじゃない? いっそのこと、祐一の推理をそのまま七不思議に入れてみたらどう?」
「な、なるほど。桜の木が唯一女子生徒と表現しているところを鍵とするわけですね」
「お~い。皆、何話してるの~?」
耳には届いているが相手にはしない。
「特に問題はないけどさ、それって私達の後輩に向けた解答だよね? となると、今私達が挑んでる七不思議の七つ目は?」
「それはたぶん、その生徒個人の思い出の場所となるんだろうな。先生が言っていたように、六つ目までは学園のメインの場。残り一つは自分の場。それを組み合わせることでその人個人の思い出が完成だ」
個人の思い出。卒業アルバムとは違う、自分だけの思い出。それが白峰学園七不思議の真の姿。
「異議がある人?」
「ありません」
「わ、私も」
「よし、これでいくぞ」
「ちょっと~、私も入れてよ~。仲間外れにしないで~」
「明里」
「うわ~ん、やっと反応してくれ――」
「あんた最高」
「えっ? うへへ~、誉められちゃた~……でも何に?」
「よ~し、今夜も学園に侵入するわよ!」
「イエッサー!」
気合いを入れた私達は教室を後にする。
「えっ、えっ? 移動するの? ちょっと、皆待ってよ~!」
廊下に出ると明里が慌てて荷物をバックに仕舞い込んでいるのが感じ取れた。窓から肌寒い風が頬を撫でたが、まったく気にすることもないぐらい今の私は清々しい気分だった。
さぁ、残りはあと二つ。挑もうではないか。
白峰学園七不思議の
了
セイタン部 ~学園七不思議の怪異~ 桐華江漢 @need
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます