第5話
うさぎ柄の白い着物は、母さんの一番のお気に入りだった。
握り締めた根付を見る。
脇腹に赤い梅の絵が描かれているのは、母さんのうさぎ。
涼はポケットから同じ根付を取り出した。
おれのうさぎは浅黄色。
まだ、母さんが元気だった頃。
親子3人で行った、伊豆の土産物屋で買ってもらったものだ。
「涼ちゃんとお母さんは、同じ卯年生まれだから、お揃いで
持っていましょうよ」
そう言って、浅黄のうさぎを渡された。
今思えば、あれが最初で最後の家族旅行になってしまった。
最初の頃は、ランドセルにぶら下げていた根付だが、同級生から
”うさぎなんて、女みてぇ”とからかわれ、付けるのを止めてしまった。
母は少し寂しげな顔をしたが、何も言わなかった。
病に臥して以来、母の根付は枕もとの文机に仕舞われたままだった筈。
「おい!」
突然大きな声を出され、みぃの小さな体がびくっと震えた。
「母さ…そのおばさんは草履が無くて困ってたんだな?」
みぃが黙って頷く。
「なぁ、一緒に探そうぜ」
「えっ?」
「ついて来いよ」
涼は戸惑った顔をしているみぃに背を向けると、裏庭へと駆け出した。
あわてて後追いかけるみぃ。
「ちょっと待ってよ、お兄ちゃん。お草履がどこにあるのか知ってるの?」
「知ってる」
短く答えた。
草履の在り処を知ってる。
おれが隠したんだから…
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