第4話

いきなりみぃの肩を乱暴に掴むと、がくがくと揺らした。


豹変した涼の態度に、みぃは怯えた顔をした。

その瞳に恐怖の色が浮かび上がる。


涼の手には、陶器で出来た、白いうさぎの根付が握られていた。


「これをどこで拾った?」

みぃの目の前に突きつけるようにして問い詰める。

「…拾ったんじゃないよ」


やっと聞き取れる程の、小さな震える声。

細められた涼の目は、怒りの為にぎらぎらと光っていた。


「盗んだのか?」


その言葉を聞くと、今まで怯えていたみぃは

涼の胸を力いっぱい突き飛ばした。

思いがけない反撃に軽くよろめく。

「盗んだんじゃないわ!」

涼の顔をキッと睨んだ。


その凛とした表情に思わず気圧される。


「じゃあ、どうしたんだよ」

「向こうのお部屋にいたおば様にもらったの」

そう言うと、離れを指差した。


誰だろう?母さんの部屋にいたのは…


「そのおばさんって、どんな人だった?」

少し語気を緩めて尋ねる。


みぃは、ちょっと考え込むような仕草をした。

「えっと、白いお着物を着た、綺麗なおば様よ」

白い着物?

今日、着物を着ている客は沢山いるけど、それは皆黒だ。


―――――ここには喪服を着た女しかいない。


『嘘つくな』そう詰め寄ろうとした時、みぃの口から信じられない

言葉が零れた。


「うさぎさんの絵が描いてある、お着物を着てたわ」

うさぎ柄の白い着物。


涼にも見覚えがあった。


「なぁ、そのおばさん、離れで何してたんだ?」

「探し物。

 お草履が見つからないんだって。

 それが無いとお出かけ出来ないって、困ってたの。

 だからね、みぃも一緒に探してあげるって言ったら、いい子ねって。

 それで、そのうさぎさんをくれたのよ」


母さんだ!


涼の黒い瞳から、大粒の涙が溢れ落ちた。

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