第2話

不意に、後ろの茂みからガサッという音がした。


涼は、あわてて涙をぬぐうと、身を硬くして振り返る。


そこには褐色がかった長い髪をお下げに結い、制服らしいブレザーと

チェックのプリーツスカート着た少女が立っていた。


抜けるように白い肌と、パッチリとした瞳。

唐突に、祖母の家にあったビスクドールを思い出した。


「お前、誰だよ」

涼の鋭い声に怯えたような顔をする。

「誰だよ」

繰り返された言葉に、消え入りそうな声で

「みぃちゃん…」

と答えた。


「どっから来た」

涼が睨みつけると、ゆっくりと離れを指差す。

弔問客の連れて来たガキが迷い込んだのか?


―――――今は、誰とも口をきく気分じゃない。


「あっち行けよ」

うるさいハエを追い払うように、手をひらひらとさせた。


みぃと名乗った少女は、小首を傾げると、涼の横に並ぶように腰を下ろした。


「聞こえなかったのか。あっちに行けって言っただろう」

威嚇するように声高に言っても、動じることなく大きな瞳で涼の顔を覗き込んだ。


「お兄ちゃん、泣いてるの?」

不意をつかれ、言葉に詰まった。

「おめめが、うさぎさんになってるよ」


手の甲で目元をぐいっと擦ると

「うるせぇ」

と呟いた。


「どこか痛いの?

 それなら、みぃがおまじないをかけてあげる」

「…?」


”みぃ”と名乗った少女は小さな手を涼の前にかざすと、歌うように言った。

「痛いの痛いの飛んでゆけ。遠ぉい、お山に飛んでゆけ」


そう唱え終えると徐に、ブレザーのポケットから小さな硝子のビンを取り出す。

中には、色とりどりの粒が詰まっていた。


「何だよ、それ」


涼がたずねると、みぃは嬉しそうに微笑み、囁くように言った。

「『お星さまの欠片』。これを食べれば、嫌なことがみんな消えちゃうの。

 ばあやが流れ星を捕まえて作ってくれるのよ」


小さな指でコルクの蓋を開け、一粒取り出した。


「はい、どうぞ」

みぃに促され、涼はおずおずと手を差し出した。


掌の上を転がる『お星さま欠片』を指で摘むと目の高さに持ち上げてみた。


ただの金平糖にしか見えないけど…

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