最終話 女性とちゃんと向き合えない? 何か問題でも?
後のことは蛇足だろうけど、軍予備校に入ってしまったら、身体錬成で疲れすぎてろくに書く気も起きなくなるだろうから、備忘録的にメモしておく。
マザーは忘れずねねさんに謝りに来た。もっともマザーは、僕達のところに来た次の日から重整備に入るらしく、アイドリングタイムでのおしゃべりが目的だったらしい。
重整備に入れば、次に会えるのは2年は先だという。
ねねさんは謝罪なんて無駄ーって暴れてたが、マザーはそれを制して、ちゃんと謝ってくれた。そして僕達は時間が経つのも忘れておしゃべりをした。
また会える日が待ち遠しい。
テロリストは、地球のオーストラリア大使が代表して引き取りに来た。
そうマザーが教えてくれた。
大使がなんとしても彼女らをケイナンで死刑にさせないと粘りまくったそうで、最終的に中古セツルメント3基と、特定品目での関税引き下げなどと引き替えになったらしい。
「殺すより遙かにお得」になったから引き渡したそうな。
彼女達の身体データをとりまくったので、次はそうそうは入り込めないから大丈夫とマザーは言っていた。
偽フェンテスについては、マザーは教えてくれなかった。まあ知ってどうすることもない。
フェンテスさんはかなり状態がよくなってきたとのこと。
ミリーさん、フェンテスさんとは時々メッセージをやりとりしている。
爆発物解体班のゲイリーさんには一度だけ、軍予備校に行くことになりましたとメッセージを送った。返ってきたのは、警察も考えてみないか? 考えが変わったらいつでもメッセージをくれというものだった。
病院の主治医の先生には、忙しいので直接の挨拶は遠慮すると言われてしまった。
けれど、
「君が示してくれた活躍によって、長期冷凍睡眠者の社会復帰への道は大きく開かれた。それがなによりの喜びだ。軍への入隊が叶って、活躍することを期待する。ただし戦傷と戦死で私の仕事を増やすのは、絶対に避けて欲しい」
そう釘をさされてしまった。
移民弁護士さんには直接会った。相変わらずお尻が好きな人だった。
弁護士料については、3割のみ請求となった。
「もうけそこなったが、依頼人が幸せなら、それはそれでいいってものさ」
そう言って彼は笑っていた。
来た時は殺風景だと思えた帰化承認待機地区のマンションも、いざ離れるとなったら名残惜しい感じがした。来た時にうっとうしく思った「騒音」も、自分が「騒音源」になってしまえば、気にしなくなるのだから我ながら現金だと思う。
僕達は、軍予備校のあるセツルメントに移ることになった。
今日は部屋を明け渡す日だ。
マンション1階の管理センターで、AI相手に最終手続きをして、キータグを返す。
それで僕とねねさんは、ここの住人でなくなった。
「どうしたの?」
「……短い間だったけどさ、なんか名残惜しくてさ」
彼女は僕の手に指を絡ませてきた。
「また、遊びにこよう?」
「そうだね、デートでこよう」
うなずきあって、僕達は通い慣れた道を歩き出す。もうしばらく来ないだろうと思うと、変哲のない道でも、なにか違って見える気がする。
「さよなら」
僕は町にそっとつぶやいた。
男性ニュースキャスターはいらだっていた。もちろん望む映像が撮れないからだ。
ケイナンは今日も活気にあふれている。核ミサイルでセツルメントを一基喪失したっていうのに、暗い顔はどこにもない。キャスターは男性カメラマンとの打ち合わせを重ね、本局が望むような映像を撮るしかないと腹をくくり、素材を探した。
いた。視界に気弱そうな東洋人と彼に不釣り合いな美しいガイノイドが手をつないでいる。
キャスターは本局の女性編成局長の顔を思い浮かべていた。
彼女の心をくすぐるような絵を撮れば、もうケイナンくんだりまでとばされずに済む。
「じゃあ、例のあれでいくぞ」
カメラマンがOKサインをだし、ニュースキャスターとカメラマンは、不釣り合いな二人に近寄っていった。
「やあ、僕は地球のNBSキャスターフォアマン。ちょっと取材をしたいのだけどいいかな?」
気弱そうな青年は、ガイノイドと目線を交わし、首を縦に振った。
「名前を教えてくれるかな?」
「E式で空閑悠人です」
「OK、ミスタークガ。ところで君は人間の女性と経験はあるかい?」
東洋人の青年は首を横に振った。
キャスターは内心でにやりと笑う。
「ふむ、では君は女性を知らないわけだが、そんな君がロボットにのめり込んで、女性に向き合わないのは、情けないことと思わないか?」
東洋人の青年は驚いたような顔をして、キャスターは内心で満足した。
その表情をカメラマンはしっかりと撮影している。
「君はいわば機械で自分を慰めるのに夢中になってるだけで、魂をもった女性としっかり関わろうとしていないわけだ。それは人としてどう思う?」
青年はすこし長めに考え込み、そして口を開いた。
「情けないとは思わないな。人としても問題ない。だって僕はブライドロイド、ねねさんのパートナーだから。ねねさんのパートナーをちゃんとやれてないほうが情けないよ」
「?」
キャスターの脳内が疑問符に埋め尽くされる。
「それに僕は、人間女性のパートナーじゃなくて、ブライドロイドであるねねさんのパートナーなんだ。僕が愛すべきはねねさんで関わるべきはブライドロイド達。だから僕は人間の女性を知らなくても問題ないし、女性としっかり関わらなくても問題ない。ここには女性いないしね」
カメラマンもキャスターも、青年の言葉を理解できなかった。
けれど青年は、ガイノイドを抱き寄せ、カメラに向かって二人の困惑に構わず、続けた。
「つまり、僕は人間の女性のパートナーではないから、女性とちゃんと向き合えない? なにか問題でも? というわけさ、ね、ねねさん?」
と、どや顔で振り返った青年の顔をガイノイドが猛然と引き寄せ、唇をしっかりと重ねる。 そのまま青年とガイノイドは長い長いキスを始めた。
そしてキャスターとカメラマンは、青年の言葉の意味をかけらも理解できずに、不気味さを感じながらその場を去るのだった。
Fin
女性とちゃんと向き合えない? なにか問題でも? 月見山 行幸 @Tsukimiyama_Miyuki
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