frg-3 竜舞う空
南極上空に直径数百メートルの穴が出現した、というニュースを子供のころに見たことがある。
空に真っ黒とも紺ともいえる球体が浮かんでいる光景はとても不思議だった。
その球体の表面が突然、波打つと黒いしぶきをあげて、それが姿を現した。
黒い、竜だった。
竜が球体から抜け出して、南極の凍てつく空に羽を大きく広げ、咆哮するまでの時間はすべてがスローモーションに見えた。
実際、出現から咆哮までの時間は3秒程度だ。
その後のブレスで南極調査隊の基地を吹き飛ばすまでの時間を入れても10秒もない。
この世のものではない存在の美しさと、その力におれは生まれてはじめて畏れという感情を抱いた。
「ADFは秘密主義だ、という意見もありますがあなたはどう思いますか」
竜の生体探知能力を欺くため、外部から完全に隔離されているコックピットではよく声が聞こえる、とおれは思った。
ここでは外の景色どころかエンジンの音すら聞こえない。
機体表面には各種カメラ、センサーが設置されており、それを専用のフライトスーツとヘルメットで感じ取る。
それをやるのは戦闘時だけで、こういった移動中にはしない。
「やはり、黙秘ですか?」
ただの遊覧飛行で終わらせるのは惜しい機会なのだというのはおれにもわかる。
ここでの戦いがうまくいきすぎて地球側にはその実態が、雰囲気が伝わっていない。
上司からそういった事情もあって今回の取材を受けたときは、馬鹿な、とおれは思った。
毎日のように戦闘の詳細や階級や所属などにとらわれない幅広い隊員のインタビューが広報サイトに掲載されている。
ほかの媒体でも同じようにやっており、クローズドだとは思ってもいなかった。
「いや、秘密主義だとは思わないな」
「しかし、地球では竜との戦いは忘れられかかっています」
「おれたちがいい仕事をしている、とは思ってくれないのか?」
「それは、難しいのです」
「対竜戦で得た技術は民間に転用されているだろう?」
この機体に搭載されているフィードバック機能は、バーチャルリアリティーテクノロジーの発展に大きく貢献したという。
「調べないと、わかりませんよ」
やや、同情気味の声だった。
「そうか」
インパクトが足りないか、と続けようとして、アラートにさえぎられた。
「どうかしたんですか?」
「小型の竜が防衛ラインを越えてきた。おれたちの機が一番近い」
「民間人を乗せて!?」
「誓約書は書いただろう。おしゃべりはおしまいだ。行くぞ」
高機動モードに切り替えると、視界が一気に開けた。
機体が見ている景色が見えるこの時がおれは好きだった。
あの竜に近づけたように思えるからだ。
2基の推進器が炎を噴き上げ、竜のように咆えた。
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