frg-1-c 生活するモノリス : Beyond Watch

玄関を開けると、天井の暖色照明を浴びて神々しく輝くモノリスがいた。

「ただいま」

「おかえり」

モノリスの声がスマートスピーカーから響く。

買い物袋を流しの近くにおいて、

「約束のものは買ってきた」

「風呂がわいてる」

「ありがとう」

これで風呂に入っていると、いい感じに料理ができあがっているのだから、至れり尽くせりだ。

適温の湯船につかりながら、溶けかかっている入浴剤を手のひらに載せる。

炭酸の吹き出す感覚がくすぐったい。

しかし、ここまでしてくれることにモノリスにとって何の意味があるのだろうか、と肩まで浸かって、

「ここまでよくしてくれる理由はなんだ……?」

問いの声が浴室で反響する。

「取って食おうというわけでもないだろうし」

そもそも、取って食いたいのなら、いつでもできる。

今、この場でばつんと電球が切れるように意識が途切れてもおかしくはない。

きっと、抵抗どころか、攻撃されていると認識もできないだろう。

考えてもしょうがないので、湯船からあがる。


食卓にはシンプルだがバランスのよさそうな料理が並んでいる。

焼き鮭、具沢山の味噌汁、きんぴらごぼうの小鉢、炊き立てのご飯。

「いただきます」

というこちらをモノリスは反対側から見ていた。

「いつもありがとう」

「これは好きでやっていることだから」

「好きでやっていることか」

話しながら食べるのは行儀が悪いか、と思いつつ、箸の動きは止めない。

ほぐした鮭の身に醤油をかけて、それを米の上にのせると、醤油と鮭の香りが広がる。

それを口に運んでゆっくり噛む。

うまい。

「わたしは、あなたことをずっと見てきた」

過去の発言から照らし合わせてそうなのだろう、と考えながら嚥下する。

温かいお茶を飲んで一息。

「しかし、見ているだけでは満足できなくなった」

「そんなに俺の人生は退屈か?」

「そうではない」

即答だった。

「わたしはあなたが生まれてからの行動が、生き様が好き」

彼は、ストレートな言葉に箸をおくと、聞く姿勢をとった。

「その生き様に自分を織り交ぜたらどうなるのか。それを見たくなった。だから、こうしている」

「自分は、楽しいと思っているよ」

「わたしも、楽しい。少しだけど、でも、新しい変化」

「日々は細々としたもので成り立っているんだ。わずかな変化が大きな変化を招くことだってある」

ジャンキーな食生活で健康診断に引っかかったりな。

「教えてもらえないと思ったよ」

「言葉にするのに時間がかかった」

瞬時に何でもできるモノリスがそんなことで悩むとは、と内心で微笑みんでから食事を再開する。

先より格段とおいしく感じられた。

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リポジトリ 姫宮フィーネ @Fine_HIMEMIYA

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