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姫宮フィーネ

frg-1: 生活するモノリス : Beyond Watch

家に帰ると、なんか世話好きの美少年だか美少女だか何だかいて、という導入の物語は見たことがある。

いわゆるお約束であった。

そういう展開があったらいいな、と思わないわけでもない。

疲れがそう考えさせているのだろう、と肩を回して、我が家の扉を開ける。

手探りで照明のスイッチを入れると、それは、いた。

いた、というよりは、あった、が正しい。

高さは1.5m程度、比率1:4:9の黒い板。

「モノリスだ……」

いたずらにしては手が込んでいる。

どういう理屈かはわからないが、床からわずかだか浮いているではないか。

骨を武器にして暴れたいところだがそんなものはない。

あったところで体力も気力もない。

あるのは連日の残業からくる疲れだけだ。

わずかに残っていた気力も、先の突っ込みで使い果たした。

さっさと風呂に入って、寝るに限る。

食事は非常食で済ませればいい。

そう思って、おれは風呂場に向かう。

そして、おれは風呂に湯がはってあるのだろうか、と疑問に思った。

湯船につかりながらなのでシュールでしかないが。

風呂からあがって、部屋に戻ると、いい香りがした。

部屋を見回すと、玄関近くにたモノリスは台所にあった。

テーブルの上には味噌汁、鮭の塩焼き、ごはん、漬物がおいてある。

これは、押し入れの中などに誰かが潜んでいるのではないか、と背中に冷たいものが流れる。

突然、着信音が響いた。

緊急の呼び出しか、と咄嗟に電話に出ると、

「さむしんぐわんだほー」

と中性的な合成音声が聞こえてきた。

「モノリス、お前だったのか」

「いえす」

即答だった。

そもそも、あのモノリスは架空の存在だ。

なぜ、この家にいて、風呂に湯をはったり、食事を作ったりしているのだ。

いったい、何が目的だというのか。

聞きたいことは山ほど――

「食事がさめる。ぱさぱさのご飯はおいしくない」

真っ当なな指摘をいただいた。

奇妙な共同生活はこうして始まった。

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