勇者のいないこの世界に、潜る
- ★★★ Excellent!!!
この作品には唯一無二の世界が在ります。
綿密な世界構築が成されている作品に出会うと、私の場合は小説を読むというよりは、その世界に深く潜っていくような感覚になります。
空気感や重力までも変わってしまったような、そんな奇跡のような体験。
この世界に潜ったときにまず感じたのは、壮大なスケール。
いわゆるどこにでもあるファンタジーや、そのコピペではない。完全なるオリジナルワールド。
そしてこの世界の中にも神話があり、我々が考える神々とはまた違ったものが存在するのです。人の成り立ちもまた同じ。
世界は丸くない。空の上にはまた海が広がる。それが何階層にも及ぶ、多重平面世界。
そしてストーリーが進めば進むほど、この世界の深さに圧倒されます。まだここから転じるのか。まだ先が有るのか。そうやって世界に飲み込まれていくようです。
そんな壮大な世界の中で、主人公や周りの人々はあらゆる決断を迫られ、逼迫した状況の中、自分で考えた最大のベターを選んでいきます。そう、ベストは選べません。相手にしたものがあまりに強大だから、立ち向かうには多くの犠牲が必要になるのです。
魔女の弟子、魔人、王子、語り部と魅力的なキャラクターたちが、己の宿命をまっとう、またはその運命に立ち向かって行きます。
神も悪魔も魔法も剣もあるけれど、伝説の勇者はいません。
宿命を背負っているとはいえ、ただの魔女の弟子——サリヴァンが主人公です。
それでも彼は立ち向かいます。
身分も性別も年齢も関係ない。立ち向かうための覚悟を決めたときは、カッコイイものです。
この世界で生きるすべての人たちは、みんなカッコイイと思いました。
壮大なスケールの世界観。カッコイイキャラクター。
ファンタジーを読む動機は、充分用意されている作品です。
あとはその身を投じるだけ。
この深い深い世界の中へ。
覚悟を決めた読者は、カッコイイものですよ。