あとがき

本作を書こうと思ったきっかけは、朝日新聞に載っていたシリア内戦に関するレポートを読んだことにある。

大学生だった私とそう歳の変わらない若者たちが記者に対して語っていた。彼らは芸大や音大、美大などで学んでいたが、内戦の影響で学ぶことを中断させられた。教科書を持っていることが見つかると殺される危険もある中、必死に教科書だけは奪われまいと隠し、それでも「芸術だけが生き甲斐だった」「いつかこの国を芸術の力で復興させたい」と語っていた。

日本は幸せなことに、七十年以上戦争というものを経験していない。こうした平和の中にあって、文学や音楽、芸術という文化的なものは生き甲斐というには大げさな感じがする。消費される「モノ」としての芸術と、彼の国での「生きる支え」としての芸術。その差異に、私は善悪以前のもっと根源的な皮肉や哀しさを感じずにいられなかった。

作中に登場人物たちが語る「私はただの数字に還元されたくない」というのも、パレスチナ難民の一人が取材に対して語ったものである。百や二百という死者の数字の向こうには、それぞれの人生があって喜びや哀しさがあった。そんな当たり前のことは、豊かさの中にあって取りこぼされていく。私はそういう現実に対して、何もできない。

同じ人間であるのに死んでゆく人たちと、こうして今日も明日も平和に生きていくことが当たり前であると「思っている」私たちについて、何か気づくきっかけになれば幸いである。

また「ホザンナ」とは本来のヘブライ語では切実な響きを持った懇願の意味で使われる。キリスト教内の典礼では全く異なる神を褒め称える言葉として使われている。

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hosanna 三津凛 @mitsurin12

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