主人公リョマは、ホントにヒドいヤツです。
「えげつなー」
でも、どんなに狼藉を働こうと、そこに虫唾の走るようなイヤラシさがない。
むしろ美しい。
…実際に接したらそんなこと言えないだろうけど。
自分の規範というモノを貫いてるんです。
ただ、その規範が、所謂社会の規範とは必ずしも一致していない、ということで、リョマは紛れもない「悪党」。
かなり危ない橋を渡ってるけれど、自分の規範と領分をわきまえてる。
わきまえてる、が、その上で遠慮というモノがまるでない。
つまりコレ、ピカレスクの王道。
しっかり振り切った面白さ。
コツコツ当てに行くのでも、ヤケクソに大物狙いで大振りするのでもなく、
自分のフルスイングをしっかり振り切ってる。
だから爽快で面白い。
まだ読んでないそこの方、読まなきゃ損だよ!
まだ読んでなかった昨日の俺、早く読め!
“将棋”ほど公平で奥深いゲームはない。
年齢も、性別も、性格も、運も、言葉でさえも関係ない。
ただ強い者が勝つ、という単純明快な戦い。
それがたとえ“異世界”であっても。
言葉も文化もわからない。そんな世界に放り出されたら、普通の人間はそこで“詰み”だ。
でも、その世界には“将棋”があった。
笑えるくらい口の悪い主人公の一人称の語りが、不思議なほどにクセになる。
主人公が異世界で好き勝手に生きている様子をずっと見ていたくなる。
本当に強いのは、自分の中に譲れない芯を持っている人間だ。
それに気付いたとき、クズなはずの主人公のことを、いつの間にか好きになっていた。
将棋のことがわからなくても楽しめるので、おすすめです!
互いに金を賭けて将棋を指す裏の世界のプロ棋士、それが『真剣師』。本作の主人公、榊竜馬もそんな真剣師の一人。ある日代打ちとしていつものように大勝負に勝った竜馬だが、相手の八百長を断ったからか、あるいは態度があまりにも無礼すぎたからか、数日後トラックにはねられて殺されてしまう。
これで死んだかと思った竜馬は例によって異世界に転生してしまうのだが、彼にはチートな能力もなければこの世界の言葉すらわからず、野垂れ死にまったなしだ。しかしこの世界には彼にとって有利な条件が揃っていた。なぜか将棋が流行っているのだ! 子供の頃から将棋の腕一本で生きてきた竜馬にとってこれは何よりのチート!
かくして始まる異世界での真剣師のサクセスストーリー。
とことん礼儀知らずで言葉が通じなくても無理やり自分の意志を押し通し、将棋の強さこそが全てと考える竜馬は紛れもない人格破綻者。しかしこの破綻者が言葉も通じぬ相手を関西弁で罵りながら次々打ち破っていく姿が実に小気味いい。
ルールは一緒でも戦型の名前が『仮面舞踏会』と異世界風にアレンジしてあったりするのもいい味を出していて非常に楽しい一作だ。
(「アナログゲームの世界」4選/文=柿崎 憲)