どんないきさつで出会おうが、どんな経緯をたどろうが、人と人が結びつき、かけがえのない関係を築く姿には、読者の心をとらえる力があると思います。本作はそういう作品です。
はじめはコメディタッチで進むのかと思いきや、少しずつ愛の分量が増えるにつれてやるせない想いの方が重量を増してきます。ひとを本気で思うとはこういうことだったかも知れない、と、いつの間にかどこかへ置き去りにしてしまった心を刺激されるようです。そして同時に、ここまで強く互いを大事に思える関係を羨ましくも感じます。
ぎゅっと胸をつかまれるような状況でもユーモアを絶やさない、その緩急の巧さも引き込まれる理由のひとつでしょう。
愛情を確かめ合うシーンはとても美しいです。そこにあるのは幸せの高揚感です。眉をひそめる類のものではありません。少なくとも一個人の読者としてそう思いました。
相手の幸せを思うことと自分の幸せとを秤にかける辛さ、難しさを、この作品の登場人物はとても分かりやすく、ぴったりとはまる表現で語ってくれています。でもその苦しみも純粋であればこそ。読者はおそらくこのお話のわき役たちのように、思わず彼らの背中を押したくなるのではないでしょうか。
非常にあたたかく、溢れるような豊かな気持ちになる読後感です。
互いに自分の人生に迷いを抱いていた、二人の青年。
本作は二人が出会い、奇妙な形で契約を締結するところから物語が始まります。
決まりきった人生に乗っかっていくことに疑問を抱いていた柊。
不自由はないけれど自由もない人生に囚われていた樹。
互いに惹かれ合い恋慕うようになるのはBLだから当然……なのですが、本作の素晴らしいところは、人との出会いでそれぞれの人生を見出していく過程です。
互いを大切に思い、互いの人生のために全力を注ぐ。
仮にBL要素がなかったとしても、若者たちの輝ける青春ストーリーとして完成されていたのは間違いありません。
だからこそ、BL目当てでない方にもぜひ読んでいただきたい。
人生を切り拓くための大きなヒントを、必ず得られるはずです。
タグの通り、これは「男×男」という関係性が描かれている。その一方で、やはりタグの通り、「BLで括らないでほしい」のだ。何故なら、これは現代社会が抱えるジェンダーの問題であり、性的マイノリティの問題であり、人間愛の物語だからだ。そして会社の在り方や、職に就く意義さえも含んでいる。
主人公は高学歴ながら、ガソリンスタンドでアルバイトをしている青年。そこに会社副社長の美青年が現れることから、物語が始まる。主人公と副社長は、ある契約を結び、距離を縮めていくが、副社長には婚約者がいた。そして主人公に牙をむく副社長の崇拝者。そんな中、副社長が以前恋人を失っているという事実が明かされる。互いを必要とし、大切に想っているのに、何故か主人公は副社長の元を急に去ってしまう。そんな中、副社長は婚約者と会っていた。美人だが人のことを想えなかった婚約者も、主人公に感化され、別人のようになっていた。
主人公と副社長。その父親である社長。秘書。婚約者。美容師。上司と部下。それぞれが自分の大切な人を見つけ、自分の道を見つけ、不器用ながらも人を想い、幸せを願う。その葛藤を、男性同士の恋愛という形で描いている。
そして、主人公が副社長に渡したUSBメモリーには、副社長の会社を救うデータが入っていた。それを知った副社長は、秘書とある計画を実行する。
他人が他人を本当の意味で思う時、進むべき道が現れる。
一気読み必至の、純愛人間ドラマ。
是非、是非、ご一読ください。
作者は変態さんです。
フィクションを書く以上、想像力を駆使することは当然ではありますが、それだけでは限界があります。読者にリアリティを嗅ぎとらせられるものに仕上げるためにはやはりそれなりの実体験がなければ書けないものです。
前置きはさておき、ですが、私はノーマルな部類に入る人間で、BLものは苦手と言いますか、これまであまり読んだことがなかったんですね。なんだか背筋が寒くなる思いをするというか、ケツの穴がキュってなるというか……。
そんな私が最後まで目を離さず、クリスマスにラストを見届けようとしてしまったのが今作です。本当の事を言ってしまえばやはり、要所で背筋が凍りつきましたし、そのあとトイレにも行きましたけど、それでもやはりこれは最後まで読まねばならない、そんな強い気持ちにさせられるお話でした。登場人物のベクトルがいろいろな方向を向いているのですが、それぞれに味があるんですよね(ちなみに私は野田さんが好きでした)。
私同様ノーマルな皆さんも、この「未知の世界」を是非、覗いてみてください。
この物語を “二人の「変人」の同性愛ストーリー” と書き表すと、ずいぶん変わった物語のような印象を受けるかもしれません。
けれども、この物語は “誰かを愛するということ” の喜びや苦しさを、誰もが深く共感できるように極めて普遍的な視点で繊細に描いた珠玉のラブストーリーなのです。
そもそも、主人公となる二人の「変人」である柊くんと神岡さん。
確かに彼らは常人とはかけ離れた要素を持ってはいますが、その “変わっている” 部分が非常に魅力的。
そんな彼らならば性別関係なく誰もが魅了されてしまうのも納得です。
個人的には超エリートで類まれなる美しい容姿をもった神岡さんが、天真爛漫な色気を存分に漂わせつつも少年のような純粋さも垣間見せ、さらには細やかな気遣いと包容力の高さを見せながらもベッドの上では情熱的でちょっとSになるという、そんな人が傍にいたら絶対に惚れてまうやろ的なパーフェクトヒューマンである点もこの物語を読み進める推進力となりました!←熱意
そんな神岡さんのハートを撃ち抜いた柊くんもまた、賢い猫のような男の子で、魅力的なのです。
お互いへの思いを深め合いつつも、このまま馴れ合いで関係を続けてはいけないと自分を強く戒めていて……。
そんな柊くんが出した答え。
それを受け入れられずに再び自暴自棄となる神岡さん。
二人を支える周囲の人々。
孤独を抱えた彼らが、前へと進み始める瞬間。
全てのシーンがとても繊細に描かれていて、後半は誰もが彼らの愛を応援したくなっているはずです。
本作品はエンターテインメント作品でありながらBLというジャンルを越え、誰かを愛する気持ちがとても美しく純粋なものであることを強く訴えかけてくる、全ての大人におすすめしたい名作です。
かわいい魅力を持った柊くんと、素敵な魅力を持った樹さん。
突然めぐり合った二人のラブストーリーなのですが、一筋縄ではいきません。同性同士であること、社会的位置を持つ樹さん、その美しい婚約者。樹さんに恋する男性も現れて、波乱万丈の展開です。
後半は涙と共に拝読しました。
私事ですが。先日保護した猫さんがいて。数週間一緒に過ごしました。首輪をしていたので色々な機関に連絡し、様々な迷い猫掲示板に投稿しました。かいあって飼い主さんが見つかったのですが。保護猫さんは元々私の家族ではなかったのですが、急に二度と会えなくなって。どうすればいいいのか分かりません。どうしようもないのですけれどね。聡明な柊くんを飼い猫さんに例えてはいけませんが、あの猫さんも柊くんのようにIQの高い猫さんでした。猫さんが鳴く幻聴が襲います。部屋のあちこちに猫さんがいた気配。
そんな喪失感を、リアルに追従させていただいた作品でした。
いっぱい泣いて、すっきりしました。ありがとうございました。