第7話 あんだけ食べといて良くそんな話しできるね

「ごちそうさま。また来るわ店長さん」

「あいよ」


不愛想な店主が不器用に返事をする。


お姉ちゃんはラーメンを食べ終わった後、替え玉を注文して更に残ったスープでおじやにして食べていた。

終始見てるだけだった私は退屈だったが店主にしてみたらきっと嬉しかったことだろう。不愛想だと思っていた顔もつい頬が緩んでしまうのを押さえていただけなのかもしれない。


私たちは屋台を出ると近場のスーパーへと入った。


今日の目的はジムだけではない。

お母さんが失敗して空にした冷蔵庫の補充も重要な任務である。


姉が食材を手にしながら喋りかけてきた。


 「楓、夜なに食べたい? 私的には天ぷらが食べたいから〝冷やしうどん〟なんか良いなって思ってるんだけど」


 「あんだけ食べといて良くそんな話しできるね…」


 姉が健啖家であることは知ってはいても呆れてしまう。


 よくあんだけ食べておいてそんなことが言えたもんだ。


 「アンタが食べ無さ過ぎなのよ。大体運動やってる奴がラーメン一杯でお腹いっぱいっておかしいでしょ? もっと食べなさいよ、おごりよ? 母さんの」


 「知ってる! っていうか私だってもっと食べたいけど我慢してるの!」


 「なんでよ?」


 「太る」


 「はあああ? 太る? だったらまた動けばいいじゃない。頭悪いんじゃないの?」


 「言い過ぎでしょ!?」


 ホント腹立つ! なんなんだこの姉は。


 まさかまだ怒ってる? 


 心が黒いから乳首まで真っ黒なんじゃないですか?


「…なんか言った」


「いえなにも…」


「そ、ならいいわ。で、何が食べたいの?」


「ん~特に無いけど…って、今日もお姉ちゃんが作るの?」


「当り前じゃない。母さんには任せられないわ。まずい夕飯で一日をしめたくないもの」


「ひどい言い草なのは気になるけど…今日はいいよ? もともと私が作るつもりだったし」


これは本当だ。


朝お母さんと話していた時も直接任されている。部活が無いんだからこれぐらいやらないと。


「いいっていいって。大体そんなこと言ったら父さんなんて道場から帰って来ないじゃない。父さんこそ何もしてないわ」


「でしょ? あの人と一緒にされたくないからやるって言ってるの」


「アンタこそひどい言い草ね。…じゃあ好きにしたら? 手伝うから」


「いやだから…」


「嫌なの?」


「…………」


ホントわざとやってるんじゃないかってくらい鈍感だなこの人は。


これはアレだよ…あれ。


本当はお礼みたいなものなんだよ…日頃のさ。 


最近部活で忙しいからお弁当はもちろん夕飯なんかもお姉ちゃん任せだし。


さすがに姉妹といえど、おんぶにだっこじゃ申し訳ないしさ。恩ぐらい返させてよ。


……なんて言えないけどさ。


「別に嫌じゃないけど…」


「じゃあ手伝うわ」


「だから…」


「ああーもううっさい!!」


姉が私の額を指で弾く。


「イタッ!」


その場でうずくまっていると姉がふんぞり返って宣言する。


「ホント聴き分けがないわねアンタは」


「だって…」


「だってじゃない! アンタは助けられて当然なの。妹なんだから」


姉はそんな理屈にもならない只の事実を言ってのける。


姉はうずくまっている私を置いて先に行く。


「フフ……何それ」


くだらない。くだらない。


そんな分かりきった事を言っただけで説得したとでも思っているのだろうか?


これだから私は素直になれないのだ。


「もう待ってよお姉ちゃん! 荷物半分持つよ!」


理屈が通ってれば心を動かされるとは限らない。


こんな簡単な自分が嫌になるが、それでも認めるしかないのだろう。


真っ直ぐで純粋で一直線なその言葉が―――


何故だか凄く嬉しかったのだから。

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私の妹(姉)が可愛すぎる! 内田 薫 @wanda7

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