第2話 傘

姉というのは卑怯である。


この考えは生涯変わることはないだろう。


何故か? 理由は至極単純。


私よりも早く生まれたというだけで何故か命令口調だし、何かと贔屓されて優遇されてるのもいつも姉。


下らないと言われるかもしれないが、生まれた日からこの方、毎日毎日こんな事が続けば無視も出来なくなってくる。


親が悪いのか周囲の人間が悪いのか…

まあこんな調子だからこそ姉の上司気分も頷ける。


逆の立場なら私も姉みたいになっていただろう。

もちろん、理解したからといって卑怯という考えが無くなるわけではないのだけれど。


「楓、一緒にお昼食べよ」


部活仲間に誘われて校舎の裏へと移動する。

考え事をしてたらいつの間にか十二時を回っていた。


ひんやりと冷たいベンチに腰を掛けながらお弁当の蓋を開ける。

ぎっしりと詰まったおかずには私の好きな食べ物のオンパレード。

相変わらず安直だなー。


「今日もお姉ちゃんの手作り? さすが凛先輩、しっかりしてるね」

「しっかり? …優、悪いことは言わないから早く病院行った方がいいよ」

「ひどい!? なんで!!?」

「なんでってそりゃ…」

「…?」

「…いや何でもない」

「何それ!?」


尚もギャーギャー騒ぐ優。


私は優の事を思って言わないんだよ?


家ではズボラな姉ではあっても、その容姿と均整の取れた体型から男はもちろん女子からも人気が高い。


お姉ちゃんを知らない人、特に年下なんかには憧れの的なのだ。

そして、この私の友人もその憧れている者のひとりである。

ならば、言わないのが友人というものではないだろうか。


夢見る少女は、夢を見るから輝くのだ。


 「はあ…いいなー楓には如月先輩みたいなお姉ちゃんがいて」

 「んー…優はそうやって言うけどさ、実際嫌なことも多いよ? 姉妹喧嘩だってするし、基本お姉ちゃんとは気合わないしさ」

 「それはお姉ちゃんが居るからそう思うんだよ。それに急に如月先輩がいなくなったら楓だって寂しいでしょ?」

 「いやそりゃそうだけど…その言い方はちょっと卑怯だよ」

 「はははゴメンゴメン。でもやっぱり憧れちゃうな。私先輩を見るのも好きだったけど、楓と会話してるの見るのも好きだったんだ。口数の少ない先輩が楓と喋ってる時だけ笑ってるんだもん。妹のこと心底可愛がってるのがわかるくらい」

 「……そうかな?」

 「そうだよ。で、実は楓もお姉ちゃんの事が大す―――て…これもしかして雨?」


優が手の平を上に翳す。

小さな雨粒が数滴、手の平で踊る。


見上げれば、太陽は隠れ雨雲が空を覆い尽くしていた。


「…ほらね、やっぱり卑怯だ」

「え、何が?」

「ううん、こっちの話し。―――あっ! 監督が呼んでる。午後の部活は中止だね、これは」


この見透かしたような感じ。

上から目線の親切が私の心をざわつかせる。


素直になれない自分が悪いのか、はたまたぶっきらぼうな姉が悪いのか。


まあでも、お礼ぐらいはしなくちゃいけない。


夕飯は姉の好きなものでも作ってあげようか?


そんな事を考えながら、私は優と共に雨の中を走り抜けた。

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