どうかみなさん、私と一緒にこの圧倒的世界を旅してください。そして魂を心臓ごとわしづかみにされる感覚を味わってください。このレビューを読んでいるみなさんと一緒に、読んだ後の気持ちが洗濯機みたいにぐるぐる引き込まれて出られなくなるような感覚を共有したい。ぜひ共有させてください!そんな作品です。
廃墟と鉄さびと汚れたコンクリートと黒い鳥と真っ赤な外套。すべてを象徴する冒頭シーン。
触れがたい「過去」の痛みを愛でるかのように旅する主人公のアリサや、彼女をとりまく少女たちの渇き。
彼女たちの強さは、もちろん腕力に基づくものではないし、秘められた能力とか莫大な魔力とかでもない、愛とか恋とかいう簡単な言葉でもない。それでも前へ、明日へ、未来へ駆り立てるものが何なのか、「情念」なのかな、と思ったりします。
生きていれば心がある。揺れ動く。傷つく。喜ぶ。激しく破裂する。愛する。当たり前なんですけど、今はもう生きていないものにもかつては心があった、そんな過去を再生する機械を手に、淡々と語り継いでゆく旅。
何かを倒して世界が救われる安直なカタルシスを得る物語ではなく、むしろ救いがないからこそ、救いに代わる赦しとか、今を生きることで前に進む、そんな再生の物語だと感じます。
最後に、独特の文体について追記しておこうかなと思います。
地の文章にセリフが混じるのを自由間接話法と言います。語り手、書き手、ではなく登場人物がその視点のまま語る臨場感のある表現と思います。改行も分けられているし、正確にはちょっと違うかなと思うんですけど、世界観に没入してゆくとそんな些細なこと「いちいち口に出していうことじゃない」とか思えてきます。何と言うか地に足がついたというか、地の文に足がついているというか(うまいこと言ったつもり)、一続きの画面の中にあるように思いました。
改めてレビューする機会を、こっそり読んでるだけの読み手だった私に与えてくださったコンテストに感謝します。
屍肉漁りと揶揄されるスカベンジャー、アリサが散弾槍を片手に戦争で滅んだ世界を旅しながら過去を一時的に覗ける再生機で、 “先客” となった原因を盗見みし、それを遺物として拾い上げていく物語です。
酷たらしく血生臭く退廃的で悲壮感満ちる世界。死がすぐ隣にある社会の中で擦れながらも純粋さを残し、情熱という幻想を捨て藻掻き生きる少年少女達。
汚く淡く儚く生きる者達。
生きる欲にまみれた者達
死をどこかに置いてきた者達
美学を持ち崇高に生きる者達
その全てをグロテスクな現実が等しく死を与えていく過程を見事に美しく描き切っていると感じます。
とてもポストアポカリプスと一言で言い表せるものではありません。
素晴らしい作品に出会う事が出来ました。
読み始めた時、血まみれのマチェットが読者の頭に浮かんで続きを読むのを躊躇う人もいるかもしれないが、お願いだから続きを読み進めてほしい。読み進めるうちに気づくはずだ。その淡々としていながら残酷でグロテスクな描写は、この世界において目を背けるにはあまりにも普遍的でそこら辺に転がっている空き缶のようにありふれたものなのだと。
この作品はコーマック・マッカーシーの描く荒野でパサパサに乾いた血だまりの中に、ドミトリー・グルホフスキーの地下鉄の冷たさと人間の飽和しぶくぶくに膨れ上がって腐り始めた末世が溶け合い、そこに繊細で弾いたら壊れてしまいそうな情念、信義、哲学が逞しくも醜く、儚く生き足掻いている。
人間同士の生存競争とも言えるポストアポカリプスのこの世界において、登場人物たちは何であれ自分の中に情念、信義、あるいは哲学などといったものを持っている。それは人を支える柱かもしれないし、あるいは枷であるかもしれないが、そうであるからこそこの人々の生きざまがより一層、濃密なものとなっている。それは末世において役に立たないものであったり、倫理観を銃弾と一緒にどこかへぶっ飛ばした血まみれのものであったり、あるいは感傷的とも懐古的とも言えるようなものであったりもするが、それら一つ一つがその人物にとって大事なものであることに変わりはない。
散弾槍をぶっぱなせば腕や足が吹き飛び、人食いが怪しげな肉を焼き、ろくでなしの人でなしがそこら中にいる中で、人はその柱や枷を縁として生き抜こうとする。それが主人公を含めた登場人物たちが、この過酷で残酷な世界で生きているのだと実感させてくれる。私にはそれがとても美しく見える。
まず初めに、吹き溜まりで光るモノを見つけたような気分でした
綺麗事ではどうしようもないシビアさ、誰もが自分や誰かのために奪い与える、どちらにも事情があり、それゆえにやるせない気持ちになる苦い味
これはポストアポカリプス特有の登場人物たちの自由意志の少なさがそれを強調しおり、難しいテーマを上手くまとめられていたと思います
現実においても、こうしないと自分や身内に損害が及ぶ、しかしそうすると、他の誰かが割を食う、という苦渋の選択を迫られる場面があります
この世界の登場人物はそれぞれのやり方で、この選択に折り合いを付けたり、気持ちをぶつけたりして、とても人間臭さのあるキャラクターたちでした
中でも異彩を放つのが、アリサの父親、こんなどうしようもない世界で、自分の掲げる信条に忠実な姿は美しいと同時に気味悪さを持っている、そして、この父親の存在があるからこそ、物語に奥行きが生まれていると思います
文章に関しては、目から鱗で、多くの人が使う「」を一切使わず、けど、しっかり登場人物たちが会話している
「」を一切使わないことで、登場人物たちも世界や背景の一部として溶け込んでおり、場面を切り取ってるのではなく、世界を描写しているように思えました
また、グラデーションで話が展開するため、滑らかに話が追え、すみからすみまで、物語に浸れました
長文になりましたが、最後に改めて、この作品に出会えたことに、感謝をしたいと思います
本当に面白い話をありがとうございました