2年8組32番 鰐 修斗

田山海斗

2年8組32番 鰐 修斗

4月5日

二年生になったし新しいことを始めようと思って、日記をつけてみることにした。どうせ続かないが飽きるまでやってみよう。


4月6日

さっそく昨日は書き忘れた。そもそも書くことを思いつかない。なにを書けばいいのだろうか。毎日毎日同じような日の繰り返しで面白いことなんてない。


4月8日

何かあった時だけ書くことにしよう。今日はそれだけ。なにもなかった。


4月13日

新しい友達ができた。はたなかとおる(漢字しらない)というやつだ。去年仲のよかったやつらとは離れたので、今年はボッチかと覚悟していた。はたなかもギャレンが好きらしい。キーホルダーを付けていたので声をかけた。なかなか面白いやつだ。


4月14日

帰りにはたなかとカラオケに行った。ギャレンのopを熱唱した。はたなかは歌がうまい。でもバカにしないで僕の歌を聞いてくれる。楽しかった。


4月18日

さすがになにも無さすぎるので思ったことを書く。僕の名前は鰐 修斗。姓は気に入っているけど名前は嫌い。お父さんがサッカーしてほしいからってシュートにしたらしい。意味わからん。やめてほしかった。からかわれてしかたがない。


4月23日

可愛い女の子を見かけた。一年生のようだ。かわいい。


4月24日

今日も見かけた。かわいい。


4月25日

今日花ちゃんは水泳部だった。一年も本格的に始まったから気付いた。初めて水泳部でよかったと思った。


4月26日

先生に新入生の指導を任された。これで今日花ちゃんに近づける。


4月27日

今日花ちゃんに先輩と呼ばれた。嬉しい。周りに気を配れるいい子だ。


4月28日

畑中は休みだった。つまらない一日だった。


5月2日

畑中は調子が悪かったらしい。もう元気だった。


5月4日

畑中の影響でなろうを始めた。たくさん読まれたらいいな。世紀の大傑作を書いてやる。


5月5日

トオルと平二と翔太とTRPGをしてみた。畑中は他のと初対面で心配したけど大丈夫だった。ハマった。ルールブックを買おうか。でも高い。


5月6日

小説はサイコホラー路線でいこう。昨日のゲームの影響だろう。読者を狂気の底に陥れてやる。


5月8日

気付けばこの日記も1ヶ月もった。珍しい。


5月10日

狂気の表現がまだまだ足りない。よく変わってるとか言われるし書けると思ったんだけど。勉強が必要だ。


5月12日

今日花ちゃんが名前で呼んでくれた。かわいすぎる。天使だ。


5月13日

今日花ちゃんかわいいなぁ。名前を呼ばれるとフワフワする。もっとお話したい。


5月14日

読者が増えない。やっぱり狂気が弱いんだ。勉強しなくては。リプレイ動画を観ようか。


5月16日

今日も今日花ちゃんはかわいかった。もふもふしたい。いやさすがにキモイ。これは誰にも見せられないな。


5月17日

進路指導があった。OBの話を聞いたら点数上がるのならいくらでも聞くわクソが。


5月20日

やっぱり伸びない。原作小説も読んでみようか。


5月22日

猫を拾った。名前はコテツにしよう。昔したゲームから取った。かわいいなあ。特に牛乳をぺろぺろとお皿から舐めとるところとか。


5月26日

原作小説がとても面白い。もう二冊読んでしまった。なんとなく作家としてレベルアップしている気がする。


5月28日

ダメだ。あの狂気を再現できない。いや再現するのが違うのか。


5月30日

最近透のことを書いていない。読み返して気付いた。特別なことでは無くなったということか。なんとなく嬉しい。


6月1日

たぶん一番嫌われてる六月になった。でも僕は六月が好きだ。誕生日でプレゼントをもらえるから。


6月3日

今日花ちゃんに告白した。お願いしますと返してくれた。夢のようだ。まだ信じられない。嬉しすぎる。これ以上書けない。


6月4日

一緒に帰った。かわいすぎる。もふもふはまだ早いか。僕の優しいところに惹かれたとか言ってくれた。かわいさがやばい。離れたくない。


6月5日

かわいすぎる。毎日が楽しい。手が触れたのがドキドキしてしまった。


6月6日

飲みかけのジュースを一口くれた。そういうの気にしないのかと思ってたら真っ赤になってた。かわいいなぁ。


6月7日

ブクマが増えた。彼女ができて表現の幅が広がったかな。明日は映画に行く。


6月8日

内容を聞かないで観に行ったがガチホラーだった。まじで怖かった。怖すぎていつの間にか今日花ちゃんの腕にしがみついていた。かっこ悪いことをした。でも、狂気表現には役に立ちそうだ。


6月9日

誕生日だ。皆にシックスナインの日とか言われたがよくわからなかった。今日花ちゃんに言ったらビックリしてた。もっと早く言って欲しいと怒られた。明日プレゼントをくれるらしい。


6月10日

おしゃれなネクタイピンをくれた。今日から毎日付けよう。ちゅーとか処女とか期待しなかったと言えば嘘になる。でも嬉しかった。大切にしよう。


6月11日

今日花ちゃんばっかり書いていたけどコテツの世話もしっかりしている。今日花ちゃんに写真見せたらかわいいと褒めてくれた。キャットタワーを注文しようか。通販サイトを見てみよう。

今日花ちゃんのことは少し控えよう。今日花ちゃんのかわいさを書いたらキリがない。


6月13日

久しぶりに透と遊んだ。別のTRPGをした。友達はやはりいいものだ。


6月15日

ブクマを外されていた。悲しい。今日はなにもする気が起きなかった。今日花ちゃんと透には悪い事をした。明日謝ろう。


6月18日

僕自身が狂気に染まったことがないのだから分からないのだ。色々してみよう。


6月20日

手始めにリスカをしてみた。一番有名な自傷行為だから。しっかり下調べした上でしたから死なずにすんだ。まだピリピリするがよく分からなかった。


6月23日

首を吊った。演劇用のすぐほどける結び方を何回も練習してからした。すごく苦しくて死にそうだったけどぎりぎりロープをひっぱれた。でも狂気は分からない。


6月25日

発狂のやり方を調べていたら透に怒られた。小説のネタだと言ったら「体を張らなくてもいいだろ」と言われた。透なら分かってくれると思っていたのに。ブクマが減ったヤツの気持ちなんて分からないだろう。適当に返した。


6月26日

今日花ちゃんにも怒られた。死んで欲しくないと言われた。僕だって死にたくない。でも心配させるのはかわいそうだからもっとしっかり下調べしよう。


6月29日

なんとなくイライラしたので大声で笑ってみた。狂気の勉強の一環だったけど怒られた。住宅地だからさすがにまずかった。それにそれ程でもなかった。


7月1日

ありきたりな狂気ばかりしていた。これは良くない。僕の求めるものは静かな狂気だ。わざとらしすぎる。反省。


7月3日

もう2ヶ月たったのか。こんなに続けるのは水泳以外だと初めてかもしれない。少し嬉しい。


7月4日

タイムを更新できた。ずっとスランプだったからすごく嬉しかった。今日花ちゃんも褒めてくれた。


7月7日

今朝は怖い夢をみた。内容は覚えていない。けど涼しかったのに起きたら汗でびっしょびしょだった。今夜もみるのだろうか。


7月8日

今朝もみた。何かから逃げていたような気がするけどよく思い出せない。今日花ちゃんに通話してみようか。そしたら安心出来そうだ。


7月9日

だめだ。夢をみる。怖くて仕方がない。内容は分からないのに怖いことは覚えている。寝たくない。


7月10日

寝不足だ。寝たくないし寝ても五分くらいであの夢で起きてしまう。怖い。


7月11日

ねむたがねたらゆめをみる。ねむりたくない。まわりにはだいしょうふといったがいいわけない。つらい。


7月20日

今朝は、夢をみなかった。久しぶりに熟睡できた。幸せだ。薬も効かなくなってきたところだったので、どうしようかと思っていたところだ。


7月21日

日常が楽しい。透とか、他の子とも話すのが楽しい。今日花ちゃんには、変な小説を書いていたからだと怒られた。僕もそう思う。もうやめよう。


7月22日

毎日が楽しい。睡眠とは、本当に重要なものだったのだ。ぐっすり眠れることが、こんなにも幸せなことだったなんて。


7月25日

そういえば、コテツを見ていない。家族の誰も知らない。ほぼ放し飼いだから、そのうち帰ってくるだろう。久しぶりに遊ぼうと思っていたのに。


7月26日

もしかして、あの夢とその頃の気持ちを書けば狂気小説になるのだろうか。いややめておこう。


7月27日

昨日から、あの夢のことを考えてしまって離れない。夢のことが出てきた本もあったし、いい線行けるのでは。


7月29日

気がついたら、もう一度あの夢をみたいと考えている。怖いのに、その先にあるものへの好奇心が抑えられない。狂気の一つの在り方を見出せるのでは、と期待してしまう。だめだ、今日花ちゃんにも透にもまた怒られる。


7月31日

明日から夏休みだ。宿題はもう済ませた。遊び放題だ。透たちとTRPGの約束もした。今日花ちゃんとデートもする。タイム更新目指して部活もがんばりたい。実質最後の夏休み、楽しみたい。


8月1日

諦めきれない。せっかくの夏休みなのに、小説が気になってしまう。明日からまた書こう。


8月2日

狂気の勉強も再開しよう。そうすれば、またあの夢をみられると思うから。


8月5日

全然みられないし、狂気も深まらない。こんなのじゃ、世紀の大傑作には到底およばない。もっともっと狂気が欲しい。そのためには、あの夢をみなくては。


8月6日

コテツを殺していた。寝不足で何も考えられなかった頃に殺していた。鉈で首を切って近くの川に捨てていた。気付いた時には、涙があふれてきて自分を殺しそうになった。でも、きっとこれは狂気なのでは。ペットはホラーでも重要なファクターになるものだ。だから着眼点は間違っていないと思う。


8月7日

コテツの死はムダではない。おかげで筆が止まらなくて、困るくらいだ。それにこれだけすれば、あの夢も。


8月10日

TRPGを前のメンツでした。pvpのゲームだったから、目先が変わってとても面白かった


8月11日

昨日遊んだ分取り戻そうと思っていたが、全く進まなかった。pv数も増えない。もっと狂気に染まらなくてはいけないのか。でも愛猫を失う以上に、狂気に浸れることなんてなかなかないだろう。


8月13日

野良猫を殺した。今度はしっかりと意識があった状態で。捕まえて、トンカチで何度も叩いた。最初は暴れて反撃してきたが、だんだん静かになった。途中で、軽い硬いものを柔らかいものの上から叩く感触が、面白くて楽しいと感じていて、冷静になって怖くなった。自分でも頭おかしいんじゃないかと思った。それこそが狂気なのか。いいものが書けそうだ。


8月15日

だめだ、だめだだめだ。だめだだめだだめだだめだだめだ。二日と持たない。関係の薄い野良猫の頭蓋を砕いた程度じゃ、全然足りない。満たされない。


8月16日

ついに部の歴代の記録で一位になれた。先生に言われた時は、嬉しすぎて変な声出してしまった。今日花ちゃんに、かっこいいところ見せられてよかった。


8月17日

またTRPGをした。すっかりみんなハマってしまった。罠にはめるのが楽しすぎる。


8月18日

透を殺した。親友をこの手で殺した。今回もしっかり覚えている。あの、肌をかき分け深く深く肉に入っていく包丁の感覚も、覚えている。顔が、驚きから痛み、それから絶望と恨みに変わっていくその過程も、ありありと思い出せる。これなら書ける。最高傑作が。

足がつかないように細心の注意をはらったが時間稼ぎ程度のものだろう。早く書き上げないと。


8月19日

すぐにバレて、町中大騒ぎだ。事件なんて何も無い田舎町だ、黒い噂だらけだ。これなら大丈夫。執筆を続けよう。


8月20日

物取りの犯行に見せかけたのが上手くいったのか、幸いにしてまだ警察は来ていない。小説の方は着々と進んでいる。まるで透が、中で動かしてくれているようだ。


8月21日

警察が来た。友達に話を聞いて回っているらしい。いじめのことや、人間関係、家庭環境なんか聞かれた。きっちりと答えておいた。一時はどうなるかと思ったが、まだ猶予はあるらしい。


8月22日

今日花ちゃんと、カラオケに行った。久しぶりで、あまり上手く歌えなかった。今日花ちゃんは、めっちゃ音痴だった。ビックリ。50代の点数が表示されるモニターを見て、なんて声をかけたらよかったのか。あんまり点数は気にしてなかったから、助かった。


8月25日

見落としてた宿題があった。読書感想文は得意だから半日で終わったけど、絵とかだったらやばかった。小説も大詰め。もう少しで完成する。なんとか夏休み中に書き上げたい。


8月27日

あと一押しなのに、すんでのところで完成しない。上手い表現が思いつかない。透助けて。


8月30日

また警察が来た。仲の良かった人に、話をもう一度聞いて回っているそうだが、絶対嘘だ。確実に、僕に目星を付けてきている。早く早く。このままじゃ間に合わない。狂気が足りない。


8月31日

今日花ちゃんに貰った。練習中の事故に仕立て上げた。彼女が準備運動をサボりがちなのも、それでも練習は人一倍していることも、みんな知っている。大丈夫。まだ書ける。

さすが恋人はいい供給源になった。これこそ、僕の求めたもう一押しだ。


9月1日

ついに完成した。先程投稿した。履歴もログも何もかもハードディスクごと粉々にした。復元出来ないように、元パソコンの粉を町中にばらまいてきた。これで、僕の小説は完成だ。完璧だ。たとえ僕が死んでも、投稿されているのはただの小説。R指定の表現も、規約違反もしていないから、サイトが潰れない限り、残り続ける。自分で言うのもなんだが、人類の最高傑作だ。素晴らしい狂気を表現できた。これもコテツと透と今日花ちゃんの


違う

ちがう





ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ

僕が表現したかったのはこんなありきたりな狂気じゃなかったはずだ。そうだ静かなる狂気を僕は求めていたんだ。死だの恐怖だのの生ぬるいものじゃない。もっと根本的に核酸の欠片から染み出してくるような狂気じゃなきゃだめなんだ。何が夢だ。何がコテツと透と今日花ちゃんだ。こんなありふれた狂気クソの役にも立ちゃしない。

こんなことのために生きてきたんでも死んできたんでもない。所詮僕はこの程度のものだったのだ。よく分かりもしない狂気なんぞに気をひかれているかのように演じた大根役者だ。散々付き合わせておいてこんなゴミしか出来なくてコテツと透と今日花ちゃんには謝らないと。

いや違う。今度こそだ。今度こそ狂気を表現してみせる。細胞全てが嘔吐するような冷たく静かな狂気を。そのためにはもっと補給しなくてはいけない。足りない。ただの死程度では到底賄えない、満たされない。七つの大罪の八つ目九つ目ぐらいしないと。胸いっぱいのご馳走が欲しい。欲しい。取りに行こう






「次のニュースです。昨晩、██県███町で大量殺人事件が発生しました。近隣住民の話から、容疑者は高校生ほどの青年で、駅前の広場に居た男女、合わせて9名の足を包丁で切りつけ、広場の中央に集めた後、ガソリンをかけ火をつけた模様です。その後炎を見つめながらスマートフォンを操作していたところ、警察が到着するも、『ご馳走はここにはない!』などと叫び、自らも炎の中に飛び込みました。搬送先の病院で、全員の死亡が確認されました。次のニュースです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

2年8組32番 鰐 修斗 田山海斗 @kaito2000

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ