物語の一節や作家の発言をここまで引っ張り出せるだろうか。
私には出来ません。
何度も文字をなぞり、その意味について考証し、感じ入った人にしか、数十万、数百万字の中から「引用」なんてものは出来ないと思うのです。
そして、展開される郷倉さんの考え、感想、面白い発想。
本と人とが絡まるとはこういうことを言うのだと、実感しました。
本から文がさらさらと這い出して手先に絡んでいくように、文字が体から離れ落ちた場所から芽が出るように、本が人を作っていく様子が想像できるようです。
何だかもっと本を読みたくなるんです。
不思議なんですが、思ってしまいます。
物語を読む。そのことを感じるエッセイです。
文章に対する愛情がしみじみと感じられるエッセイ。
半端ない読書量(僕の百倍以上は読んでる)と、それに裏付けされた知識と感想を作者様の独特な切り口で綴られています。読んでいると「ああ、僕ももっとたくさん本を読まなきゃな」って気にさせられる。説教くさくなく、押し付けがましくなく、自然とそう思わせてくれるエッセイはそう無い。それだけ、郷倉さんが文章や小説、物語を愛しているのだと感じました。本当にすごい。
文章を書く時はひとり。読む時も一人。表現はたった一人の自分との闘いなんだ、っていう、そうした、物を書く人にとっての覚悟のようなものの存在を教えてもらった気がします。ありがとうございました。
百回連載、完遂おめでとうございます!
タイトルに惹かれて読み始めたこのエッセイ。第1話目はナイーブな青年が小説家になるべく、まず卵を割りますと宣言しています。
誰しも何かをしなくては、
何かを始めたい!
と思うことってありますよね。
けれど躊躇してしまう。
でも、まずは卵を割らなくては
なにも始まらない。
そこにすごく共感しました。
そして、そこから作者さんのストーリーが始まるかと思いきや、
そこは本の知識も兼ね備えた図書館だったのです。
しかも、書評から村上春樹は勿論、
マンガまで揃っています!!
個人的に読んでいる本やマンガが沢山あったので、私はよく通うようになりました。
その図書館にて、
作者さんが語る言葉もまた魅力的でした。
「僕は僕を納得させる為の言葉を多く持っています」
4話の『悪と戦うということ』
に書いてある言葉なのですが、
誰かと言い争うよりも、
納得させるよりも
そちらの方が楽なのだと。
私も本当にその通りなのです。
ただ、作者さんの場合はそのままではなく
戦う道を選ぶ訳なのですが。
こんな風に図書館でありながら、
1人の青年の小説家へと向かうストーリーも読めるのです。
とにかく本がすごく好き。
色んな本が知りたい。
そんな方にオススメです。
そして、こちらを読んだ私もまずは卵を割ろうと思います。
この図書館に通いながら…。
ジョブズの言葉です。正確にはちょっと違うかもしれませんが、おおまかこんなことを言ってたと思います。この言葉を聞いた時、ジョブズのことを別に尊敬もしていないし、好きでもありませんが、うまいことを言うなあと感心しました。
郷倉さんの小説家への旅も、小説家になることで至福になるのではなく、夢を抱いて走り続けることが最高の喜びなのだと思います。そして小説家への旅が終わればまたすぐに次の旅に出るでしょう。よりおもしろい小説、人の心を揺さぶる小説、あるいは単純にベストセラーを狙うとか。
願いをかなえるもっとも簡単な方法はハードルを下げることです。人としてのこだわりや矜持を捨てればたいていのことは達成しやすくなります。ただし捨てれば捨てるほど、達成した時の喜びやその後の人生はつまらなくなるでしょう。うまくバランスをとらなければよい人生になりません。そして人によってバランスは違うものです。
郷倉さんが小説家を目指して10年かかっているのは、郷倉さんなりのバランスをとっているからだと思います。がむしゃらにいろいろなものを捨てればデビューできていたでしょう。でもそんなことをしてもおそらく郷倉さんにとってあまり意味はなかった。このエッセイをいくつか拝読すると、いろいろなこだわりがあるのがわかります。それらは郷倉さんの一部であり、人生にとって大事なものだと思います。捨てればデビューしやすくなるものもありそうですが、捨てなくて正解だったと思います。
長くなりましたが、よい旅を!