第5話 vs.シスター
リューイが連れてきてくれたのは、昨日、炊き出しを食いそびれた教会であった。すでに長蛇の列ができている。俺とリューイは、最後尾に並んだ。
少しすると、昨日、非道にも俺の眼の前で、炊き出しの終了をした、憎きシスターがこちらに近づいてくる。また、炊き出しを終了するのかと警戒したが、今日は列の人数も数えてないので、多分大丈夫かな。
「あら、今日も来たんですね。そんな暇なら働いてお金稼いだらどうですか?」
いきなり嫌味な一言で、俺の神経を逆なでするシスター。ここは冷静に言い返す。
「そうか、じゃあ、働いてやるから、仕事を紹介しろ」
こっちとら仕事ができれば働く気はあるのだ。ただ、様々な理由で、働けないから困っている。
「残念。あなたのような学のない人を紹介できる職場を、私は知らないです」
「そうですか、こんな人と接する仕事をしてるのに、意外と顔が狭いですね」
「ほほほっ、普通の人に紹介できる仕事なら、山ほど知っていますよ」
「なるほど、俺みたいな普通を凌駕する存在には、不釣り合いな仕事しか知らないってことですね」
「普通を凌駕するような人間が、こんなとこで炊き出し並ぶかカス!」
「いよいよ本性を現し始めたな、このクソアマ!」
俺とシスターが睨みあう。肘でコツコツとリューイがやめろと合図を送ってきた。師匠の言うことは聞かなければいいけない。仕方なく俺はプイと顔を背けて、シスターを無視した。シスターもそれに同調して、俺から顔を背けると、途端に満面の笑みになり、周りの人たちに挨拶して回っている。
犬猿の仲とはこういうことを言うのだろう。奴とはいつか決着をつけなければいけないかもしれない。
30分ほど待って、やっと炊き出しの順番が回ってきた。最初にトレイを持って、色々な食べ物を、その上に置いていってくれる、給食スタイルであった。温かい食べ物もあって、俺のテンションが上がる。
「おう、それいっぱい入れてくれ」
うまそうな肉料理の大盛りを要求すると、給仕係のシスターが、笑顔で拒否してくる。ここのシスターは、どいつもこいつも愛想はいいが、対応は厳しい。
配られた食事を全てトレイの上に乗せ、それを眺める。圧巻のその光景に、感動で涙が出そうになってきた。昨晩の残飯飯が、最高のご馳走だと思っていたが、これはそれを凌駕する。
「全ての父よ。あなたの施しに感謝して、この食事をいただきます」
リューイはそう言って食事に手をつけた。俺もそれの真似事をして祈りを捧げる。
「ありがと。神さん。飯、いただきます」
食事は、最高に美味しかった。欲を言えば、もう少し量があれば、良かったのだけど・・・
「どう。美味しかった? いや、不味いって言ったら殺すけど」
そう言ってきたのはあのシスターであった。
「美味かったぞ。良きに計らえ。後、デザートを持ってまいれ」
「・・・調子にってそうやって乗るのね。勉強になるわー」
シスターは白い目でそう言う。
「あ、そうだ。教会では、午後から懺悔もやってるから、あなた、どうせ懺悔だらけでしょう。暇だったらくるといいわよ」
「暇だが、懺悔することがないな、俺の人生、一片の曇りもない」
「私から見れば、淀んだ泥水ような透明度に見えるけど」
「お前の目は節穴だな」
「お前じゃなく、そろそろ名前で呼んでちょうだい。私はシュゼリヴェ。シスターシュゼリヴェです」
「呼びにくい名前だな。シュゼでいいか?」
「・・・まあ、学のないあなたにはそれが限界でしょうね。それであなたの名前は?」
「俺はエイタだ。呼びやすいだろ」
「呼びやすい名前ってのがあなたの唯一の長所のようですね」
「はははっ、そんなに褒めるなよ」
「褒めてない・・」
リューイが冷静にそう突っ込む。
「さて、そろそろ私も仕事に戻らないと」
「そうだな、俺もゴミを漁りに行かないと」
「・・・・仕事は探さないのですか」
「探したよ・・どこも雇ってくれん」
「・・・・頑張れ!」
そう言ってシュゼは教会の方へ走っていた。なんだかんだ言っても、俺を気遣ってくれてるのかな、意外にいい奴かもしれない。
「エイタ。仕事じゃないけど、お金を稼ぐ方法がある。一緒に来るか?」
「どこまでも、お供します師匠!」
そうだ、なんとかお金を稼いで、冒険者証明書を発行さいすれば、いくらでも稼げるようになるはずだ。仕事じゃなくても、お金さえ稼げば・・・そう思いながら、歩いていくリューイにひょこひょこと、ついて行った。
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