第2話 全てが無になる。
冒険者証明書が発行できなかった俺は、とぼとぼと冒険者ギルドから出てくる。なんとかこのドラゴンの爪を換金できないか、街をウロウロとしていると、一人の男が声をかけてきた。
「おい・・あんたそれ、ドラゴンの爪じゃないか」
俺の持っているコンビニ袋から少し出ているドラゴンの爪を見て、それに気がついたようである。
「ああ、そうだけど・・」
「おぉ・・すげえな。そんなレアなアイテム持ってるなんて、どうしたんだい換金しないのか?」
「いや・・しようと思ったんだけど、できなかったんだよ」
「ほほう。なるほど、兄さん、冒険者じゃないね。そうかたまにあるんだよ。冒険者が倒したおこぼれを拾って換金しようとする奴が・・」
「いや、俺は自分で倒して・・」
「まーまーそれはいいから。どうだ、そのドラゴンの爪、冒険者じゃない者でも換金できるところ知ってるけど持っていくかい?」
「それは助かる。教えてくれ」
「じゃあ、ついてきな」
俺は男についていく。男が案内してくれたのは、大きな通りから小道に入った裏路地の、人気のない場所だった。
ここだ、ここに換金したい物を入れれば、それに見合ったゴルドが帰ってくる。
それは、裏路地の壁に、四角い窓のような穴が空いているだけの場所であった。不審に思っていると、男はこう話してくる。
「冒険者以外のアイテムの換金は、違法な行為だからな、これくらいの用心はしないといけないんだよ。お互い顔を見せないようにしないと色々面倒だからな」
なるほど。確かにそうかもしれない。俺はドラゴンの爪を、コンビニ袋ごと、その穴へと入れた。
「査定する・・しばらく待て・・」
穴の向こうから、そう声が聞こえてきた。俺がその指示に従って、しばらく待っていたのだけど、なかなかそのあとの反応がない。痺れを切らして、俺は中の人間に声をかける。
「おい・・まだか?」
しかし、全然反応はなかった。
「おい。なにしてるんだ、査定はまだかと聞いてるんだ」
大声でそう言ったが、中からの反応が全くない。俺は嫌な予感を感じた。ここに案内した男に話を聞こうとしたのだけど、そこにはもう、その男の姿はなかった。
「うっ・・やられた・・」
どうやら俺は詐欺にかかったようだ。唯一の資産である、ドラゴンの爪も奪われて、途方にくれる。
いよいよやばくなってきた。このままでは餓死してしまう。なんとかお金を稼がないと・・
そうだ・・よくRPGとかであるクエストってのはどうだろうか、よく酒場とかで依頼とかが貼り出されてて、それを達成すると、お金やアイテムが手に入ったりするやつ・・あれなら直接依頼主から報酬を貰えばいいしな。
とにかく俺は、酒場を探して街をうろつく。なんとか、それっぽい繁華街風の通りに、一軒の酒場を見つけた。
中に入って、店内を見渡すと、掲示板のような大きな板に、予想通りに無数の紙が貼り付けられている。しかもちゃんと文字も読めるので、内容を理解することができた。
「やった、予想通りだ。これを達成すれば、飯にありつけるぞ」
そう思い、掲示板の紙を見る。なになに・・屋敷の幽霊退治・・下水道の探索・・モンスターの討伐依頼・・なるほど・・俺の戦闘力なら、退治系の依頼なら楽勝だな・・よし、これにしよう。報酬金額が120万ゴルド・・よくわからないけど、おそらく大金なような気がする。俺はその紙を持って、酒場の店主に依頼を受ける旨を伝えた。
「へい。では冒険者証明書を提示してください」
「・・・まじですか・・それないとダメですか・・」
「何言ってるんだい。そんなの当たり前だろ。冒険者じゃない者に依頼は出せないよ」
うわ・・・なんなんだよ冒険者証明書、どんだけ必須アイテムだよ・・
「また来ます・・・」
俺はとぼとぼと酒場を後にした。
「仕方ない・・これは楽に金を稼ごうなんて、考えないで、最初は地道にお金を稼いで、冒険者証明書を発行しよう」
当たり前のようで当たり前じゃない選択を、渋々することにした。とりあえず、俺は仕事を探し始めた。
まず、訪れたのは、剣や防具など金属装備を製作している工房であった。
「何、ここで働きたいだって」
「はい。雇ってくれませんか」
「まあ、人手は足りてないけどな・・お前、ブラックスミスのスキルはいくつなんだ?」
「ブラックスミス? いや、そんなアイテムは持ってないですけど」
「馬鹿野郎! ブラックスミスも知らねえ奴が、鍛冶屋になんかなれるわけねえだろう。一昨日出直しな!」
うむ。鍛冶屋は無理か・・それでは・・・
次に訪れたのは木材を扱っている職人の工房であった。そこで仕事を出来ないか聞いて見る。
「おう。おめえ、働きたいのか?」
「はい。雇ってくれませんか」
「それじゃ、カーペンタースキルはいくつだ。3以上じゃないとうちは雇わないぞ」
「そんな食べ物は食べたことはないです」
「馬鹿野郎! カーペンターは食べ物じゃねえ! 一昨日来やがれ!」
うむ・・どうも職人は何かしらの技能がないとダメのようだ。それならと、俺は販売員になることにした。大きな通りに、商店があったのでそこで聞いてみた。
「何じゃ、お主、ここで働きたいのか?」
「はい。雇ってください」
「それじゃ、市民証明書を見せてくれ」
「市民も証明しないといけないのか!」
「何じゃ、声のでかい奴じゃな、当たり前じゃろ、身分の証明も出来ん、得体のしれん奴など雇えんわ」
待て待て待て・・これはまずいぞ・・どうしたらいいんだ。俗に言う八方塞がりではないか・・普通に職につくのも難しいとは・・そんな状態においても、非常にも、俺の腹は空腹の音を奏でる。もはや動くのも辛くなり、その場で座り込んでしまった。
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