第3話 師匠現る。

空腹を誤魔化す為に、俺は公園の噴水の水に手をつけてしまった。綺麗なので多分飲めるだろう。ごくごくと勢いよく水を飲む俺を、周りの人々は、ちょっとアレな目で見ている。


うん、水で腹は膨れん。限界まで水を飲んでみたが、やはり空腹を満たした感じはしなかった。


「なんだ兄ちゃん、腹減ってるの?」

そう声をかけられて振り向くと、そこには12歳くらいだろうか、見窄らしい格好の少年が立っていた。

「おう。兄ちゃんは死ぬほど腹が減ってるぞ」

「金はねえのかよ」

「うむ。金があったら腹が減ったままにはしないぞ」


「そりゃそうだ。まあいいや、こっちきな、飯食わしてやるよ」

「何! 少年それは本当か!」

「本当だからついてきな」


俺は、先ほど騙され、この世界に対して、少し疑心暗鬼になっているのだが、さすがに空腹に耐えられず、その少年についていく。


少年が連れてきてくれたのは、街はずれの教会であった。教会の前では、見た目でわかる、あまり裕福ではない人達が、長蛇の列を作って並んでいた。


「ここで並べば食べ物をくれるぞ」

これは俗に言う、炊き出しというやつではないか・・俺は幸せな気持ちでいっぱいになる。

「ありがとう・・少年よ・・俺は今日と言う日を忘れない・・」


と、感謝しながら俺がその列に並んでしばらくすると、シスターらしき女性がトコトコと歩いてくる。シスターは列の人数を数えながらこちらにやってきて・・俺の眼の前に入り。こう言ってきた。

「はい。今日はここまでになります。申し訳ありませんが、明日おいでください」


「なぁ・・・何! どう言う事ですか!」

「はい。今日は人が多くて、もう食べ物が無くなりました」

「いやいやいや・・一人分くらいなんとかなるだろ。どうにかしてくれないか?」

「無理です。無いものは無いです」

「なんだよその冷たい言い方! あんた神に仕えるシスターだろ。ちょっと優しく言えよ」

「あんたみたいな人たちは、優しくすればつけあがるでしょ。そういう分別は、神もお許しになります」


「ぐ・・・このクソアマ・・」

「聞きなれない言葉ですけど、多分私を侮辱してますね・・」

「おう。だったらどうするクソアマ!」

「出入り禁止!!」


「え・・・」

「明日も明後日も、あなたはここへは来ないでください」

「ぐっ・・・・人の弱みに付け込みやがって・・・いいだろう・・ならばこちらにも考えがる! 見てろ・・その目でしかと!」


俺は高く飛び上がり、空中で土下座姿勢を取る。そしてそのまま着地すると、頭を地面に擦り付けてこう言った。

「申し訳ありませんでした!」


「ふん。最初からそういう態度をすればいいのですよ。まあ、今日は本当に食材がないから、明日来てください」


くっ・・この屈辱・・いつか晴らしてやる・・覚えていろシスター・・・


その姿を見ていた少年が、大爆笑で笑いごろげていた。

「あっはははっ・・ひ・・ひ・・腹が痛い・・・あんた面白すぎ」

「ふん。背に腹は代えられん。あれくらいの屈辱・・あえて受けよう」


「それより、炊き出しも貰えなくて、腹減ってどうしようもないだろ。いい場所があるから教えてやるよ」

「何! 本当か少年よ!」


さっきと同じように、少年についていく。そこは街の繁華街の路地裏であった。

「ここだよここ」

「うん。どこだ?」

「これこれ」


それは、木でてきた、丸い箱であった。俺が不思議がってると、少年がその箱の蓋を開けながら説明する。

「ここは料理酒場の裏口で、ここはそのゴミを捨ててる場所なんだ。まだ食べられるものがいっぱい捨ててあって、穴場なんだぜ」


「何! 俺にゴミを食えと言うのか・・貴様・・・」

「嫌なら食べ物ないぜ」

「なんて素敵な奴だ! ありがとう。こんな穴場を教えてくれて」

俺は少年を抱きしめながらそうお礼を言った。少年は俺に抱きつかれて、なぜか顔を赤くして嫌がる。

「やめろよ・・・くすぐったいって・・」


なんてウブな少年だ。とりあえず、少年に教えて貰ったように、ゴミを漁って、食べれそうなものを探す。


「ウオォーーーこの果物、種の周り果肉がびっしりついてるじゃないか・・この骨なんかまだ肉がこびりついてる。ラッキー」


ゴミ箱に捨てられていた食べれそうな物を、その辺に捨ててあった、麻の袋に詰めていく。袋がいっぱいになると、ニコニコ顔で、俺は少年に話しかけた。

「いや・・助かったよ少年」

「まあ、良かったよ。それより、寝床は決まってんのか?」

「ふっ、野宿だろうな・・」

「じゃあ、ついてきな。次は寝床に案内してやるよ」

「うお・・・・師匠! 俺は今日から君を師匠と呼ぶことにする」

「・・・・・勝手にしな・・」


呆れて少年は、捨て台詞のようにそう返答する。寝床に向かって俺を案内する少年の姿が、裏路地から大通りに向かう中、大通りの街頭のランプに正面から照らされシルエットとして見える。その影は、少年というより、若い女性の姿に見えた。ハーレムの夢が途絶えた俺の性欲が、少年を女として見ようとしているのか・・俺は首を激しく横に振り、正気を保とうと必死に頭を整理した。






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