第4話 我が家という名の何か。

少年が寝床として案内してくれたのは、大きな川にかかっている、橋の下であった。橋の下には、多くの小さな建物が並んでいた。ベニア板のような素材でできたそれは、ひどく脆そうである。


「とりあえず、俺ん家の隣のおっちゃんが、先週死んだから、そこに家を作るといいぜ」


なるほど・・なんか嫌な感じの場所だけど、背に腹は代えられん・・俺は師匠に言われるままに、そこに家を建てることにした。

「師匠。材料がありません」


「あそこの山から適当に取ってくるんだ」

そう言って師匠が指差したのは、ゴミが山積みにされてる場所であった。俺はそこに行って、なんとか壁になりそうな板を見つけて組み立て始めた。


「できた!」

ちなみに俺は信じられないくらいに不器用である。小学校の工作の時間に作った彫刻が、あまりにも異常な作りだった為に、精神に異常があるのではないかと、親を学校に呼ばれたほどである。なので、今、目の前に作った家は、まさに現代芸術の極みであった。そのあまりの出来栄えに、師匠が絶句する。

「マジか・・・ここで寝るのか」

「ダメかな?」

「いや・・ダメじゃないけど・・」


とりあえず、中に入ってみる。いびつな形なので、足を思いっきり伸ばせない。さすがに欠陥があることは認めたが、俺は妥協することにした。

「いける! こう曲げれば寝れる!」

「そうですか・・それは結構で・・」

呆れ果てた師匠はそう言った。


とりあえず、寝床の用意ができたので、夕食にすることにした。メニューは、果物の芯、少し果肉付き。肉の骨のほんのり身がこびりつき風味。しなしな野菜の粉々サラダ。カピカピの米の塊、少しソース染み込みライス。となかなか豪華な食事となった。あの料理酒場のシェフは相当の腕だと思う、どの料理もかなり美味しい。


ニコニコ残飯を美味しく食べる俺の姿を見て、師匠は呆れてるのか感心してるのか、微妙な意見を言ってきた。

「お前、残飯食うの初めてじゃないのか? 普通、最初は残飯食べるのかなり抵抗があるもんだけどな・・」

残飯を口いっぱいに含んで俺は答える。

「もんばぁいない。すげぇうめえよぉ」

「・・・お前は天性のホームレスかもしれないな」


「それより師匠。まだ名前を言ってなかったな。俺は四ノ宮瑛太しのみやえいた。まあ、エイタって呼んでくれ」

「おう、エイタ。俺はリューイだ。よろしくな」


「よろしく、リューイ師匠」

「なんか師匠ってのは嫌だな・・リューイって呼んでくれ」

「わかったリューイ。そうだ飯食ったら喉乾いたな」


「あっ、水場が近くにあるぞ、教えてやるから水はそこで汲んだほうがいい。間違っても川には近づくなよ」

「どうして?」

「川には凶悪な殺人魚が泳いでんだ。近づくと食われるぞ」

「怖えな・・・」


「だからこの辺はホームレスの住処になってんだ、普通の人は近づかないんだよ」

「なるほど・・・」


納得したとこで、水場を教えて貰った。それは橋の下から少し上流に行った場所で、岩の間から豊富に水が溢れていて川に流れ込んでいる所であった。水も汲みやすく安全らしいので文句なしである。


それにしてもなんて住みやすい環境なのだろうか、川に近づかなければ安全も確保できそうだし、俺はかなりここが気に入った。


とりあえず、新しい寝床で寝てみる。やっぱり狭い。足を伸ばせないのはキツイが、自分で作ったものなので慣れることにする。しかし、今日は疲れていたのか、そんな状況でも、すぐに眠りにつく。


朝起きると、目の前にリューイが、俺の顔を覗き込んでいた。

「おはよう、エイタ。よくこんな場所で寝れたな」

「住めば都だ。俺に寝れない場所などない」

「その変な自信はどこからくるんだよ。腹減ってるだろ。とりあえず、朝飯食いに行くよ」

「うおぉーー飯が食えるのか。すぐにいこう、今行こう。」


先日汲んでいた水で簡単に顔を洗い、出かける準備をする。さすがにそれくらいはしないと不潔である。


「おう。リューイ。飯行くのか」

俺とリューイが歩いていると、少し厳ついおじさんがそう話しかけてきた。

「おはよう、アルポネさん。そう、教会に炊き出しにね」

「そうかそうか。隣の兄ちゃんは新顔だな」

「エイタって言うんだ、昨日からここに住み始めたんだ」

「そうか。よろしくなエイタ」

「よろしくお願いします」

誰かわからないけど、とりあえずそう返事をする。おじさんは、その挨拶に笑顔を返してくれた。


後で歩きながらさっきのおじさんの話をリューイに聞いたんだけど、昔はこの街の裏世界のボスだった人で、今は権力争いに負けて、ここまで落ちてきたんだそうだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る