第7話 遠い夢は生活保護
初の物乞いで得た収入は27ゴルドであった。冒険者証明書の発行で二万七千ゴルド必要だから、毎日、物乞いしても、千日かかる・・いかん・・無理だ。ちなみにリューイは五百ゴルドほど稼いでいるので、それくらい稼げるようになったら、お金を貯めるのも現実味が出てきそうだ。
リューイの話では、この国にも、生活保護に似たシステムがあるそうだ。しかし、それを受けるには、この国の市民にならなければいけない。市民になるには幾つか方法があるようだけど、一番現実的なのは、お金で市民権を買うことだそうだ。矛盾している。お金が欲しいから、市民になりたいのに、その市民になるのにお金が必要では意味がない。
「他に方法はねえのかよ」
「う・・・ん。あるにはあるけど、無理だよ・・王族や貴族に知り合いがいれば、紹介文でなんとかなると思うけど・・そもそもそんな人たちと知り合いだったら、生活保護なんて考えないだろうしね」
そりゃそうだ。どこの世界も、コネ、お金、身分のある人間は勝ち組である。勝ち組は勝ち組同士繋がってるけど、勝ち組と負け組には、ほとんどその接点は生まれない。
仕方ね・・物乞いを極めるしかねえか・・
「そうだエイタ。激安の露店街があるんだ。少ないけどお金も稼いだし、ちょっと買い物に行ってみないか」
そう誘われたが、俺の所持金は27ゴルドである。これがどれくらいの価値かわからないけど、間違っても裕福ではないだろう。しかし、どんな物が売っているか興味があったので行ってみることにした。
激安の露店街は、繁華街を離れた、貧困層が住む区域の、さらに路地裏にあった。思ったより賑わっていて、多くの店が露店を出していた。売っているものは、日常雑貨や武器、家具や食べ物など多種多様で、リューイの話ではここで手に入らないものは無いそうだ。
リューイと露店を見て回っていると、美味そうな匂いがしてくる。見ると、肉の串焼きみたいなものが売っていて、すごく美味しそうだ。
「おっちゃん、それ一本いくら?」
俺が聞くと、おっちゃんは指を三本立てた。
「3ゴルドか!」
「バカ言え、30ゴルドだ」
ダメだ、当然のごとく足りない。するとリューイが神か仏か、奢ってくれると言い出した。
「マジか! 本当に奢ってくれるのか!」
「まあ、俺は今日、そこそこ稼げたから、一本くらいならいいよ」
やった。本当にこいつは良い奴だな。肉の串焼きは、牛と豚の間のような肉質で、多彩な香辛料で味付けされていて、かなり美味しかった。
で、この肉の串焼きを食べながら、少し思ったんだけど、ここで露店を出して、何か売ってお金を稼ぐってどうだろうか・・そう思ってリューイに話したんだけど、現実的な話をされた。
「残念だけど、ここで露店を出すのも無料じゃないんだ。この通りの元締めがいて、そこに多少のお金を払う必要があるんだよ」
「それは、いくらくらい?」
「知らないけど、一万や二万はすると思うよ」
何でもかんでも金ばっかかかるな・・・ちょっと現実的ではない金額みたいなので、別の方法を考えたほうがよさそうだ。
とりあえず、それから露店を少し回って、二つ、買い物をした。歯ブラシみたいな歯を磨く道具と、ゴワゴワの安いタオルである。歯ブラシが2ゴールド、タオルが4ゴールドと、信じられないくらいに安かった。
石鹸とか、他にも欲しいものがあったんだけど、手持ちのお金の都合で、購入をあきらめる。石鹸は一個100ゴールドもする、どうも話を聞くと、結構な嗜好品のようだ。そんな嗜好品を、リューイは購入していた。男のくせに、身だしなみを気にしてるようだ。確かにホームレスなのに、リューイは近づくと、ほんのり良い匂いがする。
買い物が終わると、その後は、いつもの料理酒場のゴミ箱に向かった。今日の夜食は何かと、ワクワクしながらその場所に行くと、そこには、血だらけの男が倒れていた。倒れている男の周りには、複数の人間が、棒や角材を持って立っている。どうやらリンチ現場に居合わせたようだ。俺が倒れている男と、暴行している連中を交互に見て、戸惑っていると、リューイが声をかける。
「ジナのおっちゃん!」
倒れているのは、どうやらリューイの知り合いのようであった。連中はこっちを見て、明らかに友好的ではない、目つきで、こっちに近づいてきた。
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