第8話 底辺の争い

男たちは、手に持った武器を構えながら、こっちに近づいてきた。俺はリューイを庇いながら、前に歩み出る。リューイは俺の後ろから、男たちに声をかけた。

「お前たち、東橋の連中だよな。ここは西橋の縄張りだろ、どうしてここにいるんだよ」


そう言うと、男の一人が言い返してくる。

「へへっ・・北通りにあった食堂が潰れちまってよう。俺たちが調達する場所が少なくなってしまったんだよ。悪いけど、今日からここは俺たち、東橋の縄張りにすることにしたよ」


それを聞いたリューイは怒りの声で、反論する。

「何言ってんだよ。そんな無茶苦茶通るわけないだろ」


リューイの言葉を聞いた男たちは、ニタニタと笑いながら、こう言い放つ。

「お前もこいつと同じこと言うな、それじゃ、同じように足腰立たなくしてやるよ」


そう言うと、武器で遅いかかってきた。それは恐ろしく・・・鈍い攻撃で、目をつぶっていても避けられそうであった。俺はあたふたと逃げ回る振りをして、一人は転んだように見せて、頭突きをお見舞いして、一人は、怖がって抱きついたすきに、あばらを砕き。一人は、豪快に転けたように見せて、足で顎を割った。そうやって男たちを全て倒すと、そいつらを指差して、こう言った。

「とりあえず、お前らゲスいぞ。暴力でなんでも解決しようとするんじゃねえ。まずは話し合いだろうが!」


男たちは何も言えずに、ふらふらと立ち上がると、よく聞く悪人の捨て台詞を残して去っていく。

「覚えてろよ!」


男たちが去ると、リューイが俺に一言。

「エイタってもしかして強いのか? でも偶然勝ったようにも見えるけど・・」

「無茶苦茶、強いぞ!」

「そう言われると嘘くさいな・・やっぱ偶然か」


本当のことを言ったのに・・・


「ジナのおっちゃん! 大丈夫か」

リューイは倒れている男に近寄ってそう声をかける。

「お・・リューイか・・」

そう言うと、ジナと呼ばれる男は、気を失う。

「エイタ、そっち持ってくれ、家まで連れて行くから」

「いや、運ぶなら俺がおぶった方が早いだろ」


そう言うと俺は、ジナのおっちゃんをおぶると、橋の下の家へ向かった。


「俺んちでいいか」

俺がそう言うと、リューイが反論する。

「馬鹿、あんな奇怪なところに運んだら、症状が悪化する。ジナのおっちゃんの家があるからそこへ」


そう言ってリューイが、ジナのおっちゃんの家へと案内してくれる。そこは、俺たちの家のすぐ近くだった。俺の家とは違って、変な形はしていなく、広さも、うちの倍はあった。


家の中に、薄い布団が敷いてあったので、そこへジナのおっちゃんを寝かせる。こう言う怪我人をどうしたらいいのか、全く知識がないので、戸惑っていると、リューイが濡れたタオルを持ってきて、それでジナのおっちゃんの顔を拭き始めた。俺はそれを見ながらリューイにこう言う。

「医者とか呼べないのか」

「そんなお金どこにあるんだよ・・医者なんか呼んだら五万や十万じゃ、きかないよ」


現実の厳しさ・・そうだよな、医者もお金がかかるよな。


とりあえず、俺たちにはこれ以上何もできないので、ジナのおっちゃんをそこに寝かせたまま、家の外に出る。リューイはそのまま、どこかへ移動しようとする。

「リューイ、どこ行くんだ」

「長老に報告しに行く。エイタもついでに紹介するから、ついてきて」


長老・・そんな人物もいるんだ。とりあえず言われるままに、俺はリューイについていく。


長老の家は、他の家とさほど変わらない作りで、大きさも控えめで、長老の家と聞かなければわからないようなものであった。その家の前で、リューイが長老を呼ぶ。

「長老いますか、長老、リューイです長老」


呼びかけてから少しすると、中からモソモソと、白いひげに顔を完全に侵略された物体が現れる。

「なんじゃリューイ。そんなに慌てて」

「ジナのおっちゃんが、大変なんだ。東橋の連中にボコボコに殴られて・・」

「なんと、ジナの奴は大丈夫なのか」

「生きてはいるよ。今、家で寝かしてる」

「そうか・・・東橋の連中の縄張りの店がいくつか、閉店して困っているとは聞いてたが・・そんな実力行使に出てくるとはの・・何か対策を考えんとな。それより、その男は何者だ?」

「こいつはエイタって、新しい仲間だよ。俺の家の隣に住むことになったんだ」

「そうかそうか、エイタとやら、よろしくな」

「よろしくお願いします、長老さん」

「さん、などいらんわ。長老と言っても何も偉くわないぞ」


気さくなその物言いは好感が持てる。長老をやってこの辺をまとめられるのは、その辺の人柄のおかげなんだろうな。






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