3.課金ができる奴は天才だ

 俺はこれまでTwi〇terに固執してきた。そこには仲良しワンダーランドが待ってるって信じてきたからな。俺は圧倒的に繋がりに飢えてたし、孤独に傷ついてた。つまり、お前らにもずっと言ってこなかったが、俺には……友達がいなかった。


 衝撃の告白に驚いた奴も多いだろうな。はっきり言って、俺も驚いたぜ。だが、落ち着いてくれ。俺はアクティブで、アグレッシブで、小池百〇子のような横文字ストを絶対許さない。友達を作る方法なら、Twi〇terの他にもあるってことだ。そしてそれは、わざわざ雀荘へ出かけるような手間もいらない。


 はっきり言って、俺はめちゃくちゃネットに詳しくなった。物事に詳しくなるってことは、要するに出会いだ。出会いはラブだ。俺は愛を知った。つまり、ソシャゲを知った。魔法を知って、ヤバいなんかを知って、美少女を知ったんだ。


 ソシャゲにも色々あるだろ、とツッコみたい奴は多いかもな。まあ、待て。焦んな。その前にデイリーミッションやっとけ。

 とにかく俺は、インターネットとかいう深すぎる闇の中から、ソシャゲなんていうヤバすぎるものを釣り上げちまった。これはゲームだから、世界だ。犬に小便をかけられるのも、Twi〇terで「巻きこみリプやめてください」と意味不明な文句を垂れられるのも世界。勘の良い奴はもうわかったと思うが、俺はこの時点で美少女と繋がったわけだ。


 その他にも、そもそもソシャゲ自体に、なんか交流するあれがあったりする。すごいよな。技術だ。マルチーズプレイとかもある。技術だ。だが、気を付けろ。ああいうのは、基本的にザコは無視される。アホなことをすれば、道端のゲロ以下の扱いを受ける。まさにソーシャルゲームってわけだ。ナメてかかると心が折れる。孤独より辛いから覚悟しろ。挑戦には覚悟が必要だ。もちろん、タバコ屋の隣で酒瓶呷ってたおっさんの言葉だ。


 とは言っても、もちろんリスクは小さいほうがいいぜ。だから俺の言う繋がりは、第一に美少女で、第二にゲームスレッドだ。あそこも闇だが、多少は優しいところもある。詐欺師かと思うほど異常に親切な先輩がいたり、親切そうに振る舞って致命的なミスを誘導してくる外道もいるが、ここには繋がりがある。そもそも、同じゲームを楽しんでるから、「何から話そうか……」とお見合いじみた話題選択の必要がない。


 俺は完全にソシャゲの虜になった。美少女に染まった。もはや美少女だった。


 だがよ、世の中は甘くなかったんだ……。


 俺はすごいスキルとか魔法を撃ったり、美少女に感謝されたり、おっさんを仲間にしたり、美少女に感謝されたりしたもんだ。最初はちょろいもんだったんだ。スレの奴らも優しかった。


 でも、算数は易しくても、数学は易しくないみたいに、敵はどんどん強くなっていった。


 ミッションを失敗する度、ナビゲーターみたいな美少女はクソ以下のアドバイスを寄越す。ミッションクリアできなきゃ、美少女と仲良くなるためのアイテムは手に入らない。おっさんの経験値は安い。美少女に食われるおっさんが羨ましい。ナビゲーターの美少女とよろしくできないのはシステムの欠陥だ。俺はソシャゲが嫌いになりそうだった。


 ネットに詳しくなった俺だから、すぐに攻略サイトみたいなのは見つけたさ。「初心者のおすすめ攻略法」的な親切な項目を見つけると、希望も湧いた。

 だが、元来説明書を読まないタイプの俺だ。そんなもの読めるか? 読めない。仮に読んだところで、用語が多すぎて何を言ってるのか解らない。用語を調べだすよな。じゃあ、その次はどうする? 読む。もちろん、読めない。読まない。


 と言ってもだ。俺の本来の目的は繋がりだ。今度こそ仲良しワンダーランドを築くことだ。だから俺は、スレで質問しまくった。親切な先輩たちから攻略法を学んで、ゲームの楽しみをとり戻せば、孤独からの脱却は目の前だ。


 そして、ある親切な誰かが教えてくれた。

 SNSのどこかで、声優とかフィギュアスケーターとかが言っていたのも、同時に思い出した。


 強くなるためには、


「ガチャを引け」

「課金を惜しむな」


 ってな。

 

 それは神からの啓示みたいだった。魅力的で吸引力がすごかった。ゲーム内のなんか特別でいかにも神聖そうなアイテムを消費すれば、俺は、俺は……、



 新しい美少女をハーレムに加えられるんだ!!!



 俺はすぐにガチャを引いたぜ。持ってる神聖そうなアイテムを惜しみなく使った。

 おっさんが出て、強そうなおっさんが出て、可愛めな男の子が出て、ちょっと趣味じゃない女が出て、強面のおっさんが出た。


 スレですぐに訊いた。

 強い奴はいるか? いなかった。クソだ。でも、俺はまだ課金を残してた。課金は俺の希望だった。まだ見ぬ美少女が俺のハーレムを待ってると思ったら、待ちきれなかった。


 課金にはカードが必要ってことも教えてもらった。ゲームのカードだからかなんか知らんが、魔法のカードらしいし、無料でガチャが引けるらしい。コンビニとかにあるらしい。


 俺は急いでコンビニへ行った。パソコンを切らず、家の鍵も閉め忘れて。

 全速力で自転車を走らせた。途中でチェーンが外れて、押しながら走った。辛かった。でも、その苦労の甲斐があるはずだった。


 でも。

 見ちまったんだ。


 例のカードがありそうな、その一角に。

 無数のカードが吊るされてるのを。


 お前らならわかってくれると思うが、そのときの俺の頭は真っ白だった。

 普通、一種類じゃないなんて思うか? 思わねぇだろ。

 魔法のカードとも書いてなかった。ゲームのカードとすら書いてなかった。そもそも無料じゃなかった。


 俺の心は折れた。バキバキに折れた。俺の頭のなかで、美少女の笑顔が割れた。おっさんの笑顔だけ、やたらくっきり印象に残った。


 俺には無理だった。あの中から奇跡の一枚を選び出すのは。

 調べることもできなかった。スマホを嫌忌する俺だから。


 俺には無理だった。課金は、あまりにも高度すぎた。数学どころか、算数でつまずいた俺にとっては難問だったんだ。


 インターネットの闇の中で、俺はまた一つ学んだ。

 課金ができる奴は天才だ。

 

 俺は自転車の修理に向かった。

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時代についていけない! 笹野にゃん吉 @nyankawa

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