この温もりを奪われぬよう、失わぬよう。寂しがりな二人の、ほの甘恋愛譚。

 主人公は卒業を間近に控えた大学生の女子、名前は葵でハンドルネームは「ユエ」。将来にほんのり不安を抱くお年頃の彼女は、自宅でひとり酒盛りをしていて(おそらく寝落ちて?)、気づいたら不思議な夢の中にいたのでした。
 頭上には大きな青い月、足元を流れる冷たい水、あまり考えず歩き始めた彼女は、ちょっとした事故で足元にあった穴に落下してしまいます。その先で出逢った青年に攻撃され、助けられ、何がなんだかわからぬうちに彼に連れられて、異世界らしきこの地に踏み込んでゆくことになるのですが――。

 物語の主観はほとんど主人公のユエに固定されており、生粋の日本人である彼女が見て感じる異世界を、彼女の軽妙な一人称で一緒に追っていけるようになっています。異世界転移モノらしく言葉は自動翻訳されるので、読者としても安心です。
 また、全体的には洋の世界観ながら和風の(日本的な)文化も深く根ざしており、馴染みやすい雰囲気です。それでいて魔法や剣も息づいており、人外生物も出てきたりと、しっかりファンタジー!

 ユエはこの不思議な世界で、どこか臆病で頑なな青年カエルレウムに守られつつ、様々な人と交友を深めてゆきます。
 女子としてはちょっとズレたところのあるユエと、とある事情によりなかなか素直になれないカエル、進展はゆっくりですが安定感のある二人でもあります。そこへ、個性的な登場キャラが横槍入れたり絡んできたり……。
 カエル自身が抱える事情はかなり重いですが、だからこそ二人を応援したくもなるのです。
 完結してますので、好きなタイミングで最後まで見届けられますよ。ぜひご一読ください。

その他のおすすめレビュー

羽鳥(眞城白歌)さんの他のおすすめレビュー964