第381話 星系強襲上陸 その5

 キュバッ! っと猛烈な大爆発が生じ激しい熱線と衝撃波が吹きおこると同時に機雷源にドンッ! と穴が開きます。爆発はそれにとどまらず、小型の爆発がキュババババババッ! っと十字型に巻き起こって、機雷源の端が抉るようにして切り開かれました。


 そして大変な熱量を持つ地獄の業火のような爆炎の中心部から、赤熱化した600メートルほどの物体がズゴゴゴゴゴゴ! と現れます。出現地点は破滅的な熱線と放射能が渦巻いており、普通の生き物であれば決して生存出来ない環境にありながらもそれは明確に生物としての特徴を表していました。


 巨大な目にギラギラとした怪しげな光、あんぐりと開けたとんでもなく大きな口、なにやら100メートル以上はある大きな鉄の塊を振り回している両腕、真っ赤に燃える翼をブワリブワリと翻しながらその生き物は――


 ヴオオオオオオオオオオオオオオッ! 


 と、雄叫びを上げるのです。


 その咆哮と相まって、その生物は巨大な竜や宇宙怪獣が怒りを露わにしながら荒ぶっているかのようですから、神々しさを感じたり、別の者であれば禍々しさを抱いたかもしれません。


 グォォォォォォォォォォォォォォッ!


 竜種の様な生き物は、周囲の空間を重力の波でガタガタと震わせるていますから、明らかに縮退物質と縮退器官を備えていることが分かります。実のところこの宇宙には天然の縮退炉を有する生き物も稀に存在するのですが、600メートルの巨体をに縮退炉を備えるそれは、ある意味一種の化け物じみた存在です。


 ギャォォォォォォォォォォォォォッ!


 もうこうなると、何物にも止められない――そんな印象を持つかもしれません。でも、実のところ、その叫びを翻訳するのであれば――


「あちちちちちちちちちぃ――――ッ! 燃えてる燃えてる――!」


 と、機雷源にあぶられたナワリンが絶叫しているだけだとわかります。


「て、”盾”が燃えてるうぅぅぅぅぅっ!」


 彼女は赤熱化を越えてドロドロに融解した盾の残骸をポイっと投げ捨てました。彼女は機雷源を抜けるため、艦橋がボロボロになり総員退艦する他なくなった巡洋艦を盾として用いていたのです。


 これはいわゆる盾艦戦術というもので、デュークがメカロニア戦役において行った戦法を真似て彼女はダメージを軽減していたわけですが、それにも限界はあり全てのダメージを無効化できていたわけではありません。


 「だぁぁぁ、カラダにも火が火がっ!? レーダーアンテナもぶっ壊れてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ⁈ 消火消火ぁ――!」


 ナワリンはところどころ赤熱化した装甲にブシューと冷却剤をふりまき、チロチロと燃え上がる場所に消火剤を撒いて「消火消火――!」とダメコンを行い、高熱でドロドロとなり融解している艦上構造物をクレーンで叩いて「ぱぁぁぁぁぁぁじっ!」と放棄します。


「はぁ、はぁ、はぁ――とにもかくにも、なんとか機雷源を抜けたわね……」


 必死のダメコンによりなんとか消火作業を済ませた彼女は荒々しい排気を漏らします。思わず「本当にご苦労様」と声を掛けたくなるような大変な状況にある彼女ですが、ここは戦場ということで――


「あ、いけないっ! 忘れてた! 電子戦対策ジャミングMAX!」


 とコマンドを打ち込みました。機雷の爆発の影響が少なくなるとともに、彼女は自分に向けられている圧力――海賊帝国からの測的用のレーダー波をビシバシ感じていたからです。


「この感じだと50隻くらいに狙われているわね。ジャミングにも限界があるから、もう少ししたら集中砲火が飛んでくるかしら」


 ナワリンの有する強力な電子欺瞞装置は、通常であればかなりの欺瞞状態を維持できるのですが、機雷源をド派手な感じに突破していまだ熱を持ったカラダは赤外線を盛大にまき散らしてもいます。彼女は敵に居場所はほぼ露呈しており、あまり時間をおかずして確かな諸元を掴まれて集中砲火がやってくるのは時間の問題と考えました。


「部隊の戦闘艦はこのまま続いてもらうとして……ああ、戦艦ハツーセが中破してるわ」


 後方には彼女が率いる重武装艦がいるのですが、先導艦たるナワリン自身が機雷被害を大よそ担当したとはいえ、少なからぬ被害を受けていました。


「仕方がないわね、敵の初撃はこのまま私が担当ね」


 そのようにしてナワリンはまもなく飛んでくる射撃に備え、部隊を指揮しつつ防御態勢に入るのでした。


 一方そのころ、海賊帝国先遣隊コンコスン男爵一家は、機雷源をぶち抜いて来たナワリンの姿を認めて、それぞれちょっとした感想を漏らしています。


 末の妹アンリエッタは「あの目と口がついてるフネって生きている宇宙船ってやつよね。だけど機雷源を踏みつぶしながら突破だなんて……あれって宇宙怪獣の一種じゃないの?」と言いました。


 次男ロイスは「アレは宇宙怪獣よりもタチが悪いかもしれないね。生体戦闘艦ってことだけど、装甲もバリアも共生宇宙軍の標準戦艦の三倍はゲインがあると思っておいたほうがいい」と技術屋らしい言葉を漏らしました。


 長男シャルルマーニュは「龍骨の民――奴らは化け物じみた性能をもっているからな。いや、まさに化け物だ」と忌々し気に罵りました。


 そして女頭目たるドロレスは「なぁに、化け物だって血を流す、血を流すなら殺せるさね。ガハハハ!」と貫録を見せました。


「ふむ、敵戦力は20隻くらいだが、あの先頭艦に各艦の連動射撃で集中砲火を浴びせよう。後続のフネには高速機動艇で光子魚雷を叩き込むのがよさそうだ。いいかな、ママ?」


「シャルルの好きにしな。戦術はあんたに任せてるんだから」


「アイ、ママ。各艦縮退炉安定、全艦弾庫開いた。重ガンマ線レーザー装填良しだ。前衛艦50隻射撃位置に進出。射線確保」


 コンコスン海賊団は数十秒ほどの時間をかけナワリンを狙い撃ちにする準備を完成させてゆきました。その速度は共生宇宙軍と比較しても遜色ないものですから、彼らの練度は恒星間勢力として十分なものだと言えるでしょう。


「アンリエッタ、測的データはまだか?」


「ちょっとまって、共生宇宙軍って厄介な欺瞞をしてくるんだもの」


 レーザー射撃は敵艦位置を正確に捉えることが重要で、集中射撃ともなればなおのこと必要になるのですが、ナワリンが行っているジャミングはバクー側の測的に大きな悪影響を与えていました。


「こっちのコンピュータの性能は劣るからねぇ」


 技術者ロイスは「バクーの量子コンピュータはいまだ第二世代程度なのに、あっちはは量子縮退コンピュータだものね」と言いました。量子縮退コンピュータとは、縮退物質を量子コンピューティングの素子にするという高性能なものです。


「撃てば当たる距離なのに、まったく共生宇宙軍ってやつぁ――」


 ナワリンに搭載された電子欺瞞装置は電子欺瞞の為だけに制作された量子縮退電算機であり、これを用いることでバクーの艦艇からはその位置情報の特定を困難なものとするのです。


「ママ、あと少しまって」


 この時アンリエッタのカラダはチカチカポワワとした薄い発光に覆われています。実のところ鉱物生命体であるバクー人の一部は体内に量子電算機状の器官を有しており、用途を特化した独自のアルゴリズムを走らせることで、量子縮退コンピュータに匹敵する演算処理を行うことも可能です。


「分析完了――敵艦の位置を完全に捉えたわ!」


 アンリエッタはその30秒ほどの時間をかけ共生宇宙軍のジャミングパターンを分析し、その位置情報を完全に捉え、最適な射撃を可能とするデータを供給しました。これは平均的なバクー人の体内コンピューティングと比較して、数倍になるものであり、彼女が持つ測的アルゴリズムが際立って強力なものであることを示しています。


「測的データ各艦に共有完了、連動砲撃戦用意良し。ママ、いつでもどうぞ!」


「よぉし、ドロレス海賊団の力を見せておやり!」


 そのようにしてドロレスは速やかに射撃開始を命じたのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

少年戦艦デューク~生きている宇宙船の物語~ 有音 凍 @d-taisa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ