異種族と人間の他愛ない、ただ一つしかない旋律

私個人の話ですが「口述文」、いわゆる会話や独白形式で物語を進める話が大好きです。
どんなに平凡な人間の語り口でも、それらはまるで年月を積み重ねたメイプル。聞く者に甘い樹液が溢れ出るような、そういった誰もが持つじっくりと熟れた人生の欠片を読者として体験出来る。この瞬間が大好きです。

閑話休題。

ヴァンパイアや人魚といった異種族と人間が共存している異世界、その舞台上で語られる一国民の物語を研究と称して主人公が聞いて集める……といった一話完結型のオムニバス形式です。人間から語られる異種族は、持たざる者が抱く羨望や憧憬はあるものの、異種族に対する不理解からなる偏見や嫌悪感、出会ったことで肉薄して感じた壁をそのまま綴られています。固有の文化を築き経てして外部から恐れられる者達、厭われる者達、しかしそれは「異種族と人間」だけではなく時に「人間と人間」でも起こりうるものであるという寓話としても必読です。
 「アーミクスの口述」、友愛の口述とも取れるタイトルです。ある人間の異種族との交流は、異種族のかけ離れた文化故に距離を置いてしまう結末もあります。
 ですが、その理解こそが歴史に組み込まれ続け、次の世代に更新されるのでは、そう言った読後感を得ずには得られません。
 (2019年1月10日時点で)全編通して、神様でもない同じ地に生きる異種族によって、変わらなかったり変わらなかったりする人間が登場します。それは過去ゆえに軽快でもあり儚く、小さな歴史という旋律でもある。平穏で時々凶暴な、時々切なかったり時々怖い、だけどほっこりするお話です。