もちもちのアヤキ その2
アヤキと おたんじょうび
「アヤーッ! アヤーッ!」
朝ごはんを食べたアヤキが、ぴょんぴょんとはねてヒナコちゃんをよびます。
アヤキの大こうぶつのチョコレートの時間です。
「あはは、そんなにはねないで。はい、アヤキ」
「アヤッター!」
アヤキはチョコレートを包み紙のまま口にくわえて……食べません。
のったり、のったり、車イスに大事にしまいこんでしまいます。
最近のアヤキは、せっかくのおやつを食べていないみたいね。
「アヤキ、どうしたの? チョコレート、いらないなら返してよ」
「ヤッ」
「もう、ほかのところで、おぎょうぎのわるい食べかたしたらだめなんだからね」
「ヤンヤ!」
ヒナコちゃんがこう言っても、アヤキはいやがります。
いったいどうしちゃったのかしら?
「あれ? アヤキ、もうお外に遊びにいくの?」
「アーヤ!」
……どうやら、なにかヒナコちゃんにひみつがあるみたいですね。
アヤキが何をしてるのか、ちょっとだけおいかけてみましょうか。
「アヤ、アヤ、アーヤ!」
チョコレートを食べてなくても、今日のアヤキはごきげんです。
小さな車イスが、チリンチリンと道を進みます。
レネモンこうえんのとなりをぬけて……お店やさんのある道をぬけて……ヒナコちゃんのおうちから、ずっととおくの森につきました。
「アヤーッ」
森のなかにある木のねもとに、大きなほら穴が空いています。
小さな車イスが、チリンチリンとその中に入っていきます。
もしかして、アヤキのひみつのばしょなのかしら?
「アヤヤンヤ!」
ほら穴の中には……びっくり!
アヤキがためこんだ、たくさんのチョコレートが、だいじに並べられていました。
ぜんぶアヤキがためたチョコレートなの?
「アヤ!」
アヤキはうれしそうにさいごの一個をつみあげると、車イスからとり出したペンを口にくわえて、一まいの板にキュッキュと文字を書いていきます。
……『HAPYBITHDAY HIИAKO』ですって!
「アヤッター! アヤッター!」
そう、今日はヒナコちゃんのおたんじょうびなのです。
ヒナコちゃんにたくさんプレゼントしたかったから、ずっとチョコレートをがまんしてきたのね。
がんばったね、アヤキ!
「アヤーッ!」
車イスを荷車につないで、ヒナコちゃんをおいわいする板をその上にのせて。
ヒナコちゃんのおうちまで、チョコレートをはこぶ長い道のりがはじまります。
「アーヤ、アーヤ!」
ようきにはねながら、車イスはチリンチリンとすすみます。
けれど、にもつが重くて、風がふくと左にぐらぐら、右にぐらぐら。
「アヤ、アヤッヤヤ……」
小さなアヤキひとりだと、運ぶのもひとくろうです。
だいじょうぶかしら……?
「ヒエーッ……」
「マ」
あっ! だれかがうしろの荷車をささえてくれました。
ヒナコちゃんみたいに大きくて、うすくてのっぺりとしたレネモン。
たよりになる、ちからもちのヤマーです。
「マー」
「アヤーッ! アヤーッ!」
「マー……マ」
ヤマーはうなずきました。うしろからアヤキの荷車をおしてくれるみたいね。
大きなレネモンにもてつだってもらって、アヤキはらくちんです。
「アーヤ!」
そうそう、しんせつをうけたらお礼をしないとね。
アヤキは、プレゼントのチョコレートをみっつあげました。
「アヤーッ」
「マ」
小さくてまんまるなヤマーの目が、にっこりと細くなります。
えらいわね、アヤキ!
「アーヤ、アーヤ」
「マー」
ふたりが進んでいくと、さかなみたいなレネモンが、空をふわふわおよいで、ふしぎそうによってきました。
小さいアヤキよりもずっと小さな、おともだちのピノです。
「ピノーッ」
ピノはチョコレートにきょうみしんしん!
「アヤ、アヤヤ、アヤーッ!」
「ピノピノーッ!」
あらあら。ピノもチョコレートがほしいの?
「アーヤ」
「ピノ!」
「アヤーッ」
アヤキは、チョコレートをひとつあげました。
ピノはおおよろこびで、チョコレートをしっぽとはなさきでポンポンとはずませます。
ちいさなこにチョコレートをわけてあげたのね、アヤキ。
「ピノッノーッ!」
「アヤ!」
ピノをみおくって、アヤキはヒナコちゃんのおうちまでどんどん進みます。
しばらくいくと、ヤマーがこかげの下でぐったりしているレネモンを見つけます。
「マ」
「アーヤ?」
「チーッ……」
ねずみのようなすばしっこいレネモン、ツムムル。
けれどいつもみたいな元気がないわ。どうしたのかしら?
「アヤヤーッ、アヤーッ」
どうしたの?
「チーチー」
「アヤ!」
たいへん! ツムムルのおうちは、朝からなにも食べていないんですって!
アヤキもおおあわてで、荷車のチョコレートをツムムルにあげます。
「チーッ」
「アヤ、アヤーッ!」
ツムムルは、ポリポリとチョコレートを食べます。
すっかり元気になったみたい!
「チチッチーッ!」
「アーヤ!」
「チーチー」
えっ? まだお腹をすかせたいもうとがいるの?
「チーッ」
「チーチー」
「チ」
「チッチ」
「チー」
こかげのなかからポンポンと、ツムムルのいもうとがでてきます。
ツムムン、ツムッツ、ツムリン、ツムール、ツムツム……
「ヒエーッ」
アヤキもこれにはおおよわり。
みんなにチョコレートをあげると、残りはあとすこしです。
けれど、お腹のすいたともだちを放っておくわけにはいきません。
「チー! チー!」
みんながお腹いっぱいになって、ツムムルしまいはならんでお礼を言います。
「アヤアヤ!」
どういたしまして! けれど、荷車のチョコレートがふあんです。
ヒナコちゃんは体が大きいから、たくさんのチョコレートじゃないとおいわいできないかも……
「アヤ……」
「マー」
そのあともアヤキは、レネモンのおともだちにあってはより道をして、チョコレートをわけてしまいます。
じかんはすっかり午後になって、ヒナコちゃんのおうちにつくまでに、荷車はすっかりからっぽになってしまいました。
「アヤ、アヤーッ……」
あれだけあったチョコレートは、もう一つだけしかありません。
『HAPYBITHDAY HIИAKO』の板が、さびしくおかれています。
「アヤ、ヤヤ……」
「マ……」
ヒナコちゃんのおうちは目のまえですが、これではせっかくのおたんじょうびがおいわいできません。
だいすきなヒナコちゃんのための、とっておきのおいわいだったのにね。
「アヤ、アヤ」
ポロポロとなみだがこぼれます。
なかないで、アヤキ!
「アヤ、アヤ」
「マー、マー」
メソメソとなきながら、アヤキは家にかえりました。
ヒナコちゃんが、すぐにかけてきます。
「アヤキ! かえってきたの?」
「アヤーッ……」
なみだ目のアヤキを、ヒナコちゃんはやさしくだきかかえます。
「ありがとう、アヤキ!」
「アヤー……?」
「マ」
アヤキとヤマーは、家のなかに耳をすませました。
にぎやかな声がきこえます。
「ピノノーッ!」
「チーチー!」
「コーア!」
「チチーッ!」
どういうことかしら?
「みんな、アヤキにしんせつにしてもらったから、おかえしのプレゼントをもってきてくれたんだよ」
まあ! アヤキのしんせつに、みんなお礼がしたかったのね。
ヒナコちゃんは、アヤキの頭をもちもちとなでます。
「アヤーッ」
「えらかったね、アヤキ!」
アヤキはしっぽでなみだをふいて、何かをおもいだして荷車にもどりました。
「アヤヤ!」
『HAPYBITHDAY HIИAKO』の板をくわえて、ヒナコちゃんにわたします。
「わあ、すごい! ありがとう、アヤキ! にぎやかで、たのしくて、いちばんのおたんじょうびプレゼントだよ!」
「アヤヤーッ!」
「大きなチョコレートケーキもあるから、みんなでお腹いっぱいたべようね!」
「アヤーッ! アヤーッ! アヤッター!」
アヤキがとびはねたのは……もちろん、ヒナコちゃんがよろこんでくれたことが、チョコレートよりもずっとうれしかったからですね。
ヒナコちゃんとアヤキは、とってもなかよし!
レネモンのおともだちもいっしょに、すてきなパーティーがはじまります!
「アヤッター!」
よかったね、アヤキ!
それは人ならざる獣でありながら、充足と喜びを得る術を知る。
それは世界の外側に存在し、一切の逸脱を持ち合わせない。
それは戦いを知らぬが故に、決して敗北を知ることがない。
関わることなき故に知られざる、真に無敵なる強者である。
マスコット。レネモン。
もちもちのアヤキ。
異修羅外伝 第十六の修羅 珪素 @keiso_silicon14
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