伍 雪月花奏

 己の写しをその目に映した時、何を思う。写しよりも己が劣っていると感じたのならば、己を捨てると同じ事。

 写しもまた、己を持つ。場所を探している。




「どっぺるげんがあ? なんだそれは」

 風貌に似つかわしくない言葉を使っている奴を見るとこんなにも違和感を感じるものなのか。

「自分と全く同じ姿の人間、ってやつ。あんま俺も知らないけど」

「ふむ、己の写しか……」

 俺は隠遁神社に来ていた。理由というのもさっき話したドッペルゲンガーについて聞くためである。

 どうやって来たかと言えば、前回同様。バスに乗って。そして俺は前と同じように同じ場所で吐き気に襲われた。吐くまでは至らなかったが。

バスで行ける所まで行ってからは、祭助の背に乗っての移動になった。

誤解されないためにも説明しておくが、あの小さい子供の姿の祭助ではなく、白狐。獣の姿をした祭助だ。その姿になった祭助は意外にも大きく、全長は俺よりも若干大きいと思う。

 速いが、乗り心地は悪いわ、揺れるわ、気分は悪くなるわ、で元より気分の悪くなっていた俺の胃にはかなりのダメージとなっていた。

 このせいで俺は結局吐くことになった。

 嘔吐した後に言える言葉では無いが、神社という神聖な場所の前を汚してしまったことはさすがに申し訳ないと思っている。だが、しばらくそこで休んでいる間にそれは消えてしまっていた。自然の力だろうか。

「聖斗はどうしたんじゃ?」

「あの人はなんか用事あるって」

 このドッペルゲンガーの話も元々は、兎野さんの店に来ていた女の人の話である。俺の後ろの席に座った女の人がその話を兎野さんに持ち掛けた。

 俺は他人の話なんて興味は無いし聞き耳を立てようだなんて思わなかったのだが、兎野さんがしかっりと聞いておけと言わんばかりに目線を送ってくるものだから、その話を聞いていた。

 その女の人が帰って後に、兎野さんはこの話を黒九尾にしてこいと言ってきたのだ。

 その事、女の人が話していたことを含め、黒九尾に説明をした。

「なるほど……。思い当たるもんはあるにはあるが深くは知らんぞ」

「そうなのか。まぁ、言われた事を兎野さんに伝えればいいだけだろうし、知ってることだけ教えて」

「うむ。その写しは双子豆と呼ばれるものかもしれんな。豆とは言っても妖でな」

 元々は、二つの豆がくっ付いたような見た目で、植物に紛れ込む。そして視認したモノの姿を自分の姿へと変えるのだという。

 しかし姿を変えてしまった双子豆を見つけ出すのは困難なことだそうだ。植物に見分けどうこうなんて苦難の業だろう。そっくりそのままの姿に変化するのだから。

「しかしこいつは植物と共に存在する妖。人の擬態するとは珍しいこともあるもんじゃのぉ。その女は農家か何かなのか?」

「そこまでは知らねぇよ」

 でもスーツを着ていたし、畑仕事をしている感じでも無かったな。どっかその辺の会社に通勤してて、その昼休みに飯食いに来たかなんかだろ。

 聞くことは聞けたし戻るか。長居をする必要もないだろうし。

「祭助。いくぞ」

 俺は外で遊んでいる祭助に声をかける。地面に木の枝で落書きしていたようだ。

「待て奏。お前さん書物庫で働いとるんじゃろ。そこに古いもんは置いとらんのか」

 書物庫……? あぁ、図書館のことか。

 古い本か。たしか閉鎖された部屋にはかなり古い本が置かれているというのを館長から聞いたことがあるな。俺は一度も入ったことは無い。黒九尾はそこで妖について調べろと言いたいのか。

 あの部屋にどれだけの本があるのかは知らないが、調べるには骨が折れそうだ。遅かれ早かれ俺もその図書館で調べられる程度には調べるつもりではいた。しかしあの部屋のことは視野に無かったな。

「お前さんの先祖が記したものもあるはずじゃ」

「え、なんで俺の先祖が」

 黒九尾はおっと、と失言してしまったというように目を逸らし口を隠す。

別に言えと共用はしないが、気になるな。これでどうでもいいと思うほど、親族に興味が無いわけじゃない。そもそも知らないことの方が多いのだ。

「図書館に行って自分で調べろって言いたいんだろ」

「ふは、よく分かったの。わしの口から聞くよりも己の事は己で知るのが良い。己を保つためにもな」




 念のため、喫茶店にも立ち寄ったがやはり居ないようだ。用事があるって言っていたしな。インターホンを押しても返答は無い。

 後回しにするか。

「いいの?」

「うん。夜ぐらいになったら居るだろそれまで少し図書館に寄ろうと思う」

「双子豆について調べるの?」

 先にそっちを調べた方が良いのか? どこにあるのかも分からないし……なるようになるだろ。

「人助けだねぇ」

 結果としてはそう繋がるんだろうけど、俺の行動してる一番の理由は先祖への興味にある。知らないことが多すぎるのだ。父さんの事でさえ……。

 俺の父さんが俺の親である時は極普通のサラリーマンだった。じゃあ、その以前は? どのようにして母さんと出会ったのか。

 普通、雪女となんて対面するだろうか。

 今、考えても意味は無い。故人となった人について考えても……。

 図書館に向かう道を歩きながら、俺は無意識に黒が並ぶ電線に眼が移る。

「やけに烏が多いな」

「鳥天狗の使いみたいなもんだよ。奏の事を見てるの」

「なんで」

「黒九尾さんにも言われたでしょ。奏は相手にとって警戒してる人物だって。ま、襲ってくることは無いと思うよ」

 よく見ると数匹は目が赤みを帯びてるようにも見えるな。眼球が赤いというよりも……。

「あっ、奏。前!」

「え? ッわ、と」

 烏に眼を奪われたまま歩いていたら、前方から歩いてくる歩行者に気付けずぶつかってしまった。少し距離を取って謝罪する。

「あれ、さっきの」

 ぶつかった相手は喫茶店に来ていたあの女性だった。俺よりも少し身長の高い長身の女性。

 あの時と変わらず、スーツ姿のままだ。

「……ん? どこかで会ったかな?」

 女性の言動からして俺の言葉を疑問に思っているようだ。

 俺は喫茶店でアンタを見た、という事を伝えた。しかし、女性は喫茶店には行っていないと言う。今日の事だ。それを忘れるとかあるのか。多少記憶力が悪いにしてもおかしい。

 ……もしかして。

「本当に喫茶店には行ってないんですか」

「うん、行ってないよ。あ、でも……」

 何か言いたげだな。俺は思い当たることがあるのかと聞いてみた。

「ううん。何でもない。気のせいかもしれないし……私、時間だから行かせてもらうね」

「え。あぁ、すみません」

 女性は俺の前から走り去って行った。

 さて、どっちが本物なんだ。双子豆というのは本当にそっくりに変身するんだな。あの人の顔見知りだったら違いが分かったりもするのだろうか。

「追いかけなくてもいいの? 偽物かもよ」

 疑っているにしても確信は無い。あの人の行動を制限するなんて俺にはできない。そもそも説明もどうすればいいか分からないし。偽物であったとしても、追いかけた所で対処法も無い。

 それに黒九尾は俺に双子豆を早く捕まえてくれとは言わず、調べろと言ってきた。ということは、急ぎではないのだろう。

「おいらも一緒に調べなきゃダメ?」

「邪魔するつもりなら外で待ってろ」

「……ひどいことを言うなぁ。おいらを外に放置しようだなんて。真面目に手伝ってあげるよ」




「でかい図書館だねぇ」

 祭助は図書館を見上げ、感嘆している。俺はここ以外の図書館を知らないから平均的な大きさは知らない。小さいこいつにとってはなんでも大きく感じるのかもしれないな。

 そういえば、こいつを図書館の中に連れて行っても大丈夫なのだろうか。俺はここの従業員だから良いとしても、普段立ち入り禁止の場所に入るのだから余計に難しいんじゃないか。

「お前やっぱ外で待ってて」

「えーっ⁉ なんで⁉」

「お前たぶん入れないと思うから」

 祭助はあからさまに不服そうな表情を浮かべた。仕方ないだろ。

「大丈夫だよ。おいら狐だよ、白狐なんだよ。化けることなんて朝飯前さ」

 そう言ってくるりと一回転。祭助は大きめの狐のストラップになって地面に落ちた。

 なんでもアリかこいつは……。

 まぁ、これでこいつも中に入ることはできるな。俺はストラップになった祭助をポケットの中に入れた。「むぎゃ」と声が聞こえたが気にしないでおこう。

 裏口から図書館に入る。そこには棚の整理をする館長の篠垣さんが居た。数日前に整頓されたはずだが……散らかるのが早いな。

「おぉ、奏。手伝いに来てくれたのか。丁度良かった、なかなか片付かんでな」

「いえ、少し調べたいものがあって」

「なんだ違うのか……にしても奏が調べものとは珍しいな」

 篠垣さんはまだ散らかった机に乗せられた本に肘を置いた。それによりその本の山は崩れ、篠さんもその勢いに流され机に倒れこむ。

「いッてぇな……。なんだ今日は厄日か?」

「篠さんが本の上に体重かけるからじゃないですか」

 篠垣さんとは結構前からの知人だ。なんでも父さんの旧友らしい。父さん曰く騒がしい奴だが、面白くていい奴とのこと。俺もこの人のことは信用できるし、頼れる人だと思っている。父さんの葬儀等でも世話になった。大柄な体系に伴い、心も広い人だ。

 よく父さんの話をしてくれる事もある。お前の父さんはこんな奴だった、こんな事をしていたと。俺の知る父さんと変わらないなと思った。父さんは若いころからずっと変わらないのだろう。

「こまめに整理した方がいいんじゃないですか」

「お前も言うようになったなぁ……で、なんだ。その調べモンってのは。わざわざ裏から入ってきたってことは表に出してないやつの事だろ」

 それを分かってくれたなら、話が早い。

 俺は古い本の置かれた鍵付きの部屋に入らせてもらえないかと頼んだ。

 すると篠さんはあっさりとそれを了承した。

「そろそろ時期だとは思っとった。いくらでも調べろ」

 時期……? 父さんが何か、この人に伝えていたのだろうか。ここでバイトすることも父さんに勧められたしな。まるでこうなる事を予測して……考えすぎか。

「ほら、これが鍵だ。こっちが扉の鍵で、この錆びた奴がお前の先祖のモンだ。この鍵は奏が持ってて良い。足元気を付けろよ」

 扉の鍵はシンプルなものだ。しかしもう一つの鍵には変な模様か文字かよくわからないものが書かれている。

「この鍵はどこで使うんですか」

 篠垣さんはすぐにわかると答えた。それはこの鍵はあの部屋で使うことになるということだろうか。

「ありがとうございます」

 俺はさっそく鍵付きの部屋へ向かおうとそちらへ足を向けた。しかし篠垣さんの声に一度呼び止められる。

「お前、ちゃんと慎が言っていた言葉を覚えているか」

しつこいほど言われた言葉だ。忘れたくても忘れられない。でもあの言葉には俺も同意見だ。そして俺にとってのプライドでもある。

「覚えてますよ」

「なら良い。その部屋の鍵もお前が持ってろ。あぁ、その狐小僧も別にあの部屋に入れていいからな」

「え、なんで」

「なんで気付いたかってか。感が良いんだよ俺は」

 感…か。いくら感が鋭いとはいえども、さすがにストラップに化けた狐人間が同行しているとは思わないだろ。

 いよいよ篠垣さんも並の人間じゃなさそうだな。でも鬼憑きでは無いだろう。鬼憑きであれば黒九尾が名前を直接出すはずだ。

 俺は再び鍵の部屋へ向かった。

 その部屋に向かう廊下を区切るのは錠前のかかった鉄の扉だ。いかにも何か大切なものを管理しているという雰囲気がある。

今までに入ったことの無い。それも長い間、施錠されていた部屋に繋がる扉だ。その扉を開けることに対して、好奇心が湧いてくるのを感じる。

 ……俺が鬼憑きとして神と戦うという選択をしなければ、ここまで知ることはできなかったんだろうな。とんでもないことに手を貸しているというのに変わりはないが、経緯として必要なことだったのかもしれない。

 俺はもらった鍵を使って錠前を外した。

 そして鎖を解き、重たく堅い扉を開く。扉を開いた先にはまだ長い廊下が続いていた。冷たく埃っぽい空気が奥から漂ってくる。電気をつけてみたが、付け替えがされていないのか、蛍光灯はチカチカと点滅している。その光さえ薄暗い。

 扉一枚を通るだけでまるで別の世界のようだ。床は軋み、天井は所々穴が空いている。壁にはカビや苔が散布している。

「どれだけの間放置されてたんだ……」

「湿っぽい感じだなぁ……ねぇ、気付かれてるみたいだし、許可もらってるし、戻っていいよね」

「あぁ、そうだな」

 ポケットから飛び出し、祭助は元の子供の姿に戻った。軽業師のような動きはこいつ本来のものなのか、狐のものなのか分からないが器用なものだ。

 祭助と薄暗い廊下を歩く。微妙に下り坂になっている気がするな。行く先は地下にでもなっているのか。

 予想は的中したようで俺の前には階段が現れた。

「暗いなあ……明かりはあるのかな」

 壁をみると配線が繋がれていた。雑に壁に掛けられ、階段を下った先にも続いているようだ。

「足元気を付けろよ。奥の部屋に付いたら電球くらいはあるだろ」

「それまで真っ暗ってこと?」

「だから気を付けろって言ったんだよ」

 俺が階段を降り始めると祭助もしぶしぶと俺に続いた。

 進めば進むほど、降りれば降りるほど、明かりが弱くなっていく。

ついには目を閉じようと開けようと変わらない暗さにまでなった。目では確認できないが、壁や床に変化があったことは分かった。

途中から足音がじゃり、と土を蹴る音に変わったのだ。

「祭助、歩きにくい。離れろ」

 服を掴んで引っ付く祭助を身体から離そうとしたが、祭助は頑固としてそれを許さない。

「やだやだ怖い!」

「お前トンネルの中大丈夫だったじゃん」

「おいらは狭くて暗いとこが苦手なの!」

 めんどくさい奴だな……。人に密着されるのはあんまり好きじゃないんだ。その時に感じる体温が俺は苦手だ。

さっきみたいに何かに化ければいいと提案したが却下された。意味が分からない。

 配線を伝っていくと四角い箱状のものが手に触れた。それにはスイッチらしきものも付いている。やっとこいつが離れてくれる。そう思いスイッチを押した。

 チカチカとついた明かりに目が眩む。そこまで明るい光では無いのだろうけど、真っ暗な中を進んだ目には十分眩しいものだ。

目が慣れ確認したところ、やはり電球いくつかの明かりがあるだけでそこまで明るくはない。

「もう大丈夫だろ。離れろよ」

「眩しいぃ……」

 祭助は何事も無かったかのように俺から手を離した。さっきまであんなビビってたのに切り替え早いな。

 図書館の地下にあった部屋はまるで広い洞穴のようだ。天井はそこまで高くないが奥行きはある。

 そしてなんだか湿っぽさがある。地面もなんだか地味に柔らかい。そういえば祭助が扉より先に進んだ時にも湿っぽいと言っていたな。

「おいらが人間として生きてた時には大人のひとはみんな大切なものは地下にって言ってたよ」

 じゃあこれもその風習に乗っとって作られた場所なのだろうか。

「お前が生きてた時代っていつごろ」

「知らない。おいらはかなでみたいにべんきょーするところに行ってなかったし」

 何時代か知れたところで俺は歴史は詳しくないし意味も無いか……。兎野さんが居たら別だろう。あの人は頭が良さそうだし。

 俺は入ってすぐの所にあった本棚にある本を手に取った。

「うわッ、なんだこれ」

「どうしたの?」

「一回水にでも付けられたのか? 文字が滲んでるし紙もボロボロだ」

 その本棚にある分は同じような状態になってしまっているらしい。よく見ると本棚も色あせてしまっている。

 念のため一つ一つ棚を確認していった。それにしてもなんであんなことになっているんだ。本当に水がぶちまけられたのか? 地面も湿っているし……何の嫌がらせだよ。

 奥にある四つの棚は少し違う形でできた本棚になっていた。これも汚れや痛みがひどいが、壊れている様子は無い。

 ここにある本もたぶん読めたもんじゃないだろうなと思って手に取った。

 しかし、その本は他の場所にあった本とは違い、文字の滲みも紙の痛みも無かった。

 その本棚にある分をいくつか確認してみたところ、どれも土埃を被っている程度で支障は無かった。

「なんでここだけ……」

 とりあえずここにある分を調べるしか無さそうだな。

 俺は祭助にここの本棚を調べていくぞと指示した。

「おいら文字読めないんだけど」

「……こういう文字があったら教えろ」

 地面に石で「双子豆」と「写し」と文字を書いた。これで分かってくれると良いが……。

「うーん、頑張ってみるよ」

「あとこの印みたいなのもあったら教えてほしい」

 篠垣さんからもらった錆びた鍵を見せる。小さく書かれたものだが特徴的な印だ。知ってもらっておいて損は無いだろう。

「あ、この印向こうで見たよ」

 祭助は一番奥にある本棚を指さした。

 そこにいくと確かに鍵と同じ印が棚の淵に刻まれていた。鍵よりもその印は大きくどんな形をしているのかが確認しやすくなっていた。

 左側は波線のようなものだが、右側のこれはなんだろうか。アルファべットのAを逆さまにしたようなものの下にワイングラスのような絵。その下には十が二つ。全く理解ができない。あくまで見た目の話であって、アルファベットやらグラスやらは関係ないだろう。関係あったら逆に驚く。

「じゃあここのを調べるか」

 適当に一冊を手に取り、表紙を見る。そこには読みにくいものの「妖此処に記す」と書かれているのが分かった。裏表紙を見るとそこにも例の印が書かれていた。他のも見てみるとその本棚にある分にはこの印が書かれているようだ。

 とりあえず俺は先に手に取った本を読んでみることにした。

 分厚く結構重さがある。片手で持つには辛い。俺は棚の開いたスペースに置いて読もうとした。

「そんなのも持てないの?」

「……気にするな」

 別にどう読もうが勝手だろ。ほっといてくれ。

 書物には表紙にある通り、妖について書かれていた。聞いたことのあるようなものもあるが、全く聞いたことのないものも書かれていた。一種の妖につき一ページ。ぎっしりと書かれている。妖の絵が描かれているところもあるが、無いものがほとんどだ。


 読み始めてから一時間ほどたっただろうか。

 普通に疲れた。読めない文字が多いから余計にだ。こんな長時間文字を眺めたのは何時ぶりだろうか。いや、これまでにこんな長時間文字を見続けるなんてことは無かった。

 それにしても読みにくいな。現代とは筆記がまるで違う。昔の人はよくこんなので読めたな。殴り書きみたいだ。

「ここで読んでたら目が悪くなりそうだな。一旦持って帰るか」

「帰るの?」

「なんか居心地悪いしな。兎野さんにも読んでもらったほうが効率良いだろ」

 重い本を抱え、その場から離れようとした時。ふと一つの箱が目に入る。その箱にもあの印があった。そして箱自体に鍵が付けられている。

「……これって」

 この部屋に入るためにもらった鍵ともう一つの鍵。その鍵がこの箱のものなのだろうか。

 俺は試しに鍵を差し込んだ。

 期待通り、箱は鍵の解かれた音を鳴らす。そしてその中には、また鍵が入れられていた。

 しかしもらった鍵よりは大きめのものだ。いったい何処の……何の鍵なのだろう。棚全体を確認するが、鍵のついたものはその箱以外は見つからなかった。

 それと紙切れ一枚が入れられていた。

「これって……」

 本と同じ要領で事が書かれている。

 祭助も俺の手を引っ張って見ようとする。俺はしゃがんで祭助にも見えるようにした。

「なんて書いてあるの?」

「……雪女だ。それに他のと違って何枚かあるみたいだ」

「雪女って奏についてってこと?」

 いや、俺のことというより母さんについてだな。最初の一枚以外は筆記が現代の人間が書いたもののようだった。

この文字は……たぶん父さんの字だ。

 きっとそうだろう。この文の中で雪女の事をとは書かず、千雪と書いてある。

母さんを千雪と名前を付けたのは父さんだと、俺の母さんが雪女であることを教えてくれた時に聞いた。それが証明だ。

父さんの書いたものはまるで、思い出話のようだった。

 読んでいたら長くなりそうだ。俺はその箱も持っていくことにした。



 太陽は隠れてしまったが、まだ明るさを残している。たしかこういうのを黄昏時っていうんだっけ。兎野さんの店に続く小道はその光をほとんど通さない。

 喫茶店に戻ると喫茶店である一階の電気は消えていたが、二階には電気が付けられていた。兎野さんはここの二階を住居としているらしい。

 俺は裏に回ってインターホンを押した。それから少しして建物の中から足音が聞こえる。外灯の電気が付けられると同時にドアは開かれた。

「ごめんなさい。一人で行かせることになってしまって。どうぞ上がってください。そうそう今日奏くんが店を出た後に、本物の双子の姉弟が店に来られたんですよ」

「どうでもいいわ」

 兎野さんの家の中は整頓されていて、無駄なものが無く、スッキリとしていた。

「それで……何か知れましたか?」

「黒九尾の案でバイトしてるとこの図書館の地下に行ってきた。とりあえず妖について書かれた本でそこにあった本で一番厚い本を持ってきた」

「本当に分厚い書物ですね。僕が呼んでもいいんですか?」

 兎野さんは本を開かず、本を持ち上げ見回しながらそう言った。

「好きにしろよ。確認する必要ないだろ」

「それが必要なんですよ」

そう言って本を開き読み始める。

 重たい本を兎野さんは片手で軽々と持ちながら読んでいた。祭助に言われた言葉を思いだす。なんか地味に腹が立った。

「難しい漢字が多いですね」

「兎野さんでも読めないか」

「いえ、これは読めますよ。ただ複雑なものが多いなと」

 なんだよ。天才アピールか。

「まぁ、この書物が妖についての本で間違いではないでしょう」

「他にも似たようなのもあったけどな」

「奏くんが手に取ったほんというのなら、間違いはありません。紙の主が今は奏くんですからね」

「は?」

 紙の主って何だ。

 ……兎野さんはとことん物知りだなと思う。知識が豊富というよりも――知識が豊富なことに変わりは無いが――見抜かれているというか。見抜くよりももう一つ上というか……。

 俺が考えている間に兎野さんは書物を束ねていた紐が解き、半分ほどに分けていた。手分けして双子豆について書かれたもの探そうということらしい。その半分が俺に渡される。

「おいらは?」

「お前文字読めないんだろ。疲れるだけだぞ」

「むー……」

 祭助は頬を膨らまして俺を見る。ここで俺だけが非難されるのは間違いだと思う。

「そんな祭助くんにこれをどうぞ」

 兎野さんはあらかじめ机の上に置いてあった紙袋から数冊のテキストを取り出した。

「わざわざ買ったのかそれ」

「この子にとっても文字が分からないことは不便でしょうからね」

 小学一年生くらいの子供が使いそうなレベルのテキストだ。祭助はそれを嬉々として受け取った。

「まさとありがとー!」

 こいつ今兎野さんのこと呼び捨てで呼んだな。兎野さんに対して敬語を使っていない俺が言えたことじゃないだろうけど、兎野さんはそれでいいのか。十歳にも満たすか分からない子供に呼び捨てされてるんだぞ。

「いえいえ、いいんですよ。僕達が調べものしてる間もそれで勉強しててください」

 あ、良いんだ。相変わらず心の広い人だな。

 という訳で俺と兎野さんは妖について調べ始めた。

「今、必要な情報は双子豆についてですが……一枚一枚軽くは目を通しておいてくださいね。これから遭遇する妖がどんなものであっても対処できるように」

「あぁ。分かった」

 パラパラとページをめくる音でも静かな部屋ではよく聞こえる。

 その時、目に留まったのが牙童子という妖だ。たしかこれは隠遁神社に行くとき山で見たやつだな。何でも食うって、じゃああの時俺が吐いたやつも、もしかしてこいつが片付けたのか。あんまり知りたくなかった情報だな。

しかし俺が見たものとこの絵では見た目がまるで違う。いや、どこもかしこも違うというわけでは無いが……絵の牙童子は頭部に口があり、その口には大量の牙が並んでいるというものだ。

俺が見た牙童子は一つ目の白い愛嬌のある生き物に見えたが、本来の姿はなかなかに凶暴性のあるもののようだ。

めくるにつれて目に入る妖。危険そうなものから縁起の良いものまで様々だ。どのようにして人と出会うか、人に憑くか。

 鬼というのも妖という括りに入るのだろうか。だが鬼というのは黒九尾が術のことをそう名付けているだけのものであって、角の生えたそれ等ではない。

 そういえば黒九尾も妖だろう。兎野さんも黒九尾のことを妖怪さんだとか言っていたしな。雪女も、黒九尾も、妖であることに違いは無い。

 だが神であるとも言っていた。神と妖の違いとはなんだろうか。

「考え事ですか?」

「……黒九尾も妖なんだよな」

「ええ。そうですよ」

「じゃあなんで神って呼ばれてんだ」

「色んな説があります。人が崇め称えるから。本物の神様が妖の努力を認めたから。または、大きな罪を償うために人を守る存在として神となったから……神と名付けられた、詞の力は偉大ですからね」

 人がそう呼べばそれが定着し、詞で縛る。鬼という言葉で黒九尾が俺や兎野さんを縛っているように。

「難しいな。よく分からない」

「いつか分かりますよ。……いえ、分からせられます。必ず」

 何の根拠があって行ってるんだ。

 ……長いこと読みふけってしまったようだ。今日はいったいどれだけの文字を見ただろうか。

「ちゃんと集中力保てたんですね。双子豆についての資料、見つけましたよ」

「は? いつ」

「三十分前くらいですかね」

 言えよ。と言ってやろうと思ったが、そういえば双子豆以外の資料も見ておけと言っていたな。そのためだろうと思い口に出すのはやめた。

 兎野さんが飯を食っていかないかと提案してくれたため、ご馳走になることになった。

 俺はそこまで世話になる必要はないと思い断ったのだが、祭助がどうしてもと駄々をこねたためそうせざるを得なくなってしまった。

「まさとのご飯楽しみだね」

「お前我儘言うなよ」

「いいじゃーん別に」

 良くない。家に帰って俺が出す飯にケチ付けたり、あれ作れこれ作れと言うなよ。こんな人が作る料理を作る自身なんて俺にはないぞ。普通の家庭料理だけだ。文句言ってきたらクツシタの飯を食わしてやろう。

 兎野さんが飯を作っている間に俺は双子豆についての資料を読んでいた。読む、とは言っても何が書いてあるのか分からない部分もあるため目を通すだけだが……。

 読めるところを読む限り、ドッペルゲンガーの噂そのものといった感じだ。ドッペルゲンガーを見たものは死ぬ、と。

 資料にはこう書いてある。

双子豆は本来植物に紛れ存在している。だが、稀に生物にも化けることもある。理性などは無いが、知識を持つ。人間の写しとなった双子豆は人に強い不信感、劣等感を与える。自分を見失うことがあれば、その人間は死を迎えるだろう。

 見失ったら……か。あの双子豆の話を持ち出した女性はそんな負の感情を持っているようには見えなかったけどな。

「かなで、そういえばなんだけどさ。あのお姉ちゃん、いったいどっちが本物なんだろうね」

「さぁな。兎野さんは喫茶店に来てた女の人に違和感とか感じなかったのか?」

 飯を作りながら兎野さんは答えた。さすが料理人なだけあってその姿は後ろから見ても手際が良いという事がわかる。

「特別そんなものは感じなかったですけどねぇ」

「図書館に行く前にあの人と出会った。でもその人はここには来ていないって」

「その人は何か言ってましたか? ドッペルゲンガーがいるとか」

「いやそんな事は一言も」

 ぶつかって少し会話した程度だから詳しくは聞いてないけど。

「うーん……それでしたら喫茶店に来た方が双子豆かもしれませんね」

「なんで」

「あの人は何故、僕にドッペルゲンガーの話をしてきたのでしょう」

 言われてみれば、そうだな。

 わざわざ、喫茶店の店員にそんな話はしないだろう。常連なら話のネタとしてするかもしれないが、あの人は常連ではないみたいだし。

「そういえばあのお姉さん、何か言葉が詰まった感じあったね」

「そうだっけ?」

 そこまでしっかり覚えてない。

 でも喫茶店に現れたのが双子豆だとしたら、なんでそんなことを……。わざわざ自分の存在を示したんだ。自分に災難が降りかかるかもしれないというのに。

「そんな考えこまずとも、双子豆はまた現れますよ」

 えらく自信をもった言い方だな。

 目の前に美味しそうなオムライスが出される。テキストに書き取りをしていた祭助はそれを見て子供のようにはしゃいだ。……いや、もとより子供だったな。

「悪いな」

「いいんですよ。むしろ、いつもは一人で食べているのでこうやって誰かと夕飯を食べられるのは嬉しいです」

 兎野さんは優しく笑った。

 何故、この人はこんなにも俺に世話を焼くのだろうか。鬼憑きという繋がりがあるにしてもここまでするだろうか。

 聞いたとしても、普通のことをしているだけ、と返されそうだ。

「美味い」

「ふふ、自信作ですよ」

「奏の作るご飯は地味だったんだよねぇ」

 和食って言え。派手なものとか凝ったものとか作るのは苦手なんだ。作れたら毎日グラタンしてるわ。

「奏くんのお父さんも和食を作っていたんですか?」

「うん。洋食系はほぼ朝のパンか外食ぐらいでしか食べなかったな」

 休日とかたまに着物で過ごしているのを見たことがあるくらいだしな。和風なものとか、そういうのが好きなんだろう。思い出してみると懐かしく感じる。

「少し、聞ににくい事なんですが……奏くんに血縁者は」

「居ないな。母さんは俺を生んだ時に亡くなったし父さんも事故で。父さんに兄弟は居ない。祖母も祖父も俺が生まれたころには他界したらしい」

「そうなんですか……すみません、こんな質問してしまって」

「別に、聞かれて困る質問でもない」

 何をそんなに気を遣っているのか。いつもは図々しいくらいに言葉を投げかけてくるくせに。

 オムライスは食べ終わるころにも温かかった。どういう作りしてるんだ。俺は食べる速度は遅いし食べ終わるころは結構冷えてしまっていることが多いのに。

「ごちそうさま」

 いつもよりは多く食べたな。おかげで満腹だ。

「はいはい、お粗末様です。奏くん明日は学校ですよね。遅くなってしまいましたが朝起きられそうですか?」

「あぁ、うん」

 また一週間始まるのか。……めんどくさい。主に隣の席のやつが。兎野さんをはるかに超える喧しさの人間が俺の隣の席のやつだ。俺が黙っていようと一人でべらべらと話している。明日もあいつのマシンガントークを聞かされることになるのだろう。席替えしてくれないかな。

「はぁ……」

「どうしたんですか、憂鬱そうですね」

「いや、なんでもない。夕飯ありがとな」




 家が見えてくる道に入った時、家の前に誰かが立っているのが見えた。明らかに俺の家をじっと見つめている。不審者か?

 この場合、通報した方がいいだろうか。無意味に話しかけたくもない。

 この距離とこの暗さじゃはっきりと姿も確認できないな。門の電気なんて常時付けているわけじゃないし。不審に思いつつも俺はそのまま足を進めていた。

 家の前を不審な影。その影はポストに何かを入れ、その場を離れようとしていた。

「あの人なんか入れたねぇ……かなで?」

「父さん……?」

 月明りが濃くなり、はっきり見えた後ろ姿に思わず声が出る。

 俺の父さんは俺が高校に入学して半月ほど経った頃に事故で亡くなった。もうこの世には居ないのだ。

 じゃあ、もしかして幽霊だろうか。ミントさんと同じようにこの世に未練を残して……。

 俺の声に気づいたらしく、その人物も立ち止まり俺の方へ顔を向ける。

 白い髪に緑の瞳。それは父さんと同じものだった。しかし、その人は父さんではなかった。似ているが、その人は父さんよりも目は細く、眼鏡を付けている。髪型も後ろから見たらよく似ているものの、前から見ると父さんとは違う形をしていた。

 なんだ、他人の空似か。いや、それにしても……。

 あれこれ考えているとその人は突然俺の方へと歩いてきて、俺の両肩に掴みかかってきた。

「こんな夜遅くまでどこに行ってたんだ! 心配したんだぞ。ここ最近帰りが遅すぎる」

「……は?」

 なんなんだいきなり。掴まれた肩の骨が音を立てる。随分強い力で掴んでくるな。腕を折る気か。

「ッ……あの、痛いんですが」

「あぁ、すまないね。つい」

謝るなら掴んでる手を放してほしい。力を緩めただけだろこれ。俺はその腕を振り払った。

「奏この人だれ?」

「俺も知らん。お前は家の中に入っとけ、そんでクツシタの飯も入れといて」

 俺は祭助に鍵を渡して先に家に戻らせた。

 なんでこの人に心配される必要があるんだ。初対面だぞ。

 ……まさか、この人があの変な手紙を送ってきていたやつか。さっきの言葉もそれらしきものだった。

 うわ、これ本気で通報した方がいいやつじゃねぇか。

「怪しいものではないんだ」

「十分怪しいです。俺の家に何か用ですか」

「悪かったね、驚かせてしまって。自己紹介しておいた方がいいかな」

 おい、会話しろ。俺の言葉を無視してその人は話を続ける。

「私はお前の叔父にあたる人間だ。私は君の父、慎の兄だよ」

「は?」

 たしかに似ているとは思った。でも父さんは兄弟は居ないって……。

 その人は澄宮明と名乗った。

「知らされていないのも無理はない。私はあの家とは縁を切ったからね。紙の上では私とお前は全くの無関係の人間だ」

 ここ最近、急な話が多すぎないか。俺の頭はそんな急にあれこれ処理できるようなものではないぞ。

「なんで急に関わってきた」

「こうやって会うつもりは無かったさ……本当は慎が死んだと知ってすぐに奏を我が家に迎えようかと思ったんだがね。篠垣って人に奏が混乱するから止めろと止められたんだ」

 篠垣さんが? いったいなんで。

 たしかに突然こんな人が出てきたらびっくりするけど。

「ならば影で支えようと思ったのさ。お前は使っていないようだがね」

「あの通帳か。あんな怪しいもの使う方がおかしいと思います」

 この人がまだ怪しいことに変わりは無いが、篠垣さんのことも知っているみたいだし……。普通に父さんの兄弟と言われても納得できる外見だ。信じようと思えば信じられるものだろうけど。

 頭の整理が追い付かない。

「……今日は帰ってください」

「やはり混乱させてしまったか」

 この人の言葉が本当なら、この人は俺にとって唯一の血縁者ということだ。父さんが死んだと知った時、俺は天涯孤独というものになったのだと思っていた。

 ……何とも言えない気分だ。でも混乱した中、少し安心感もあった。この人のしていた行動が不審者じみた気持ち悪いものという意識は変わらないが、それでも親というわけでも無いのに心配してくれていたのだ。

 信じたいという気持ちは確かにあった。父さんや篠垣さんが言わなかった理由があるにしても、さっきまで不審者という意識があったにしてもだ。

「また来週とか、それぐらいにまた来てください」

「いいのかい?」

「だから不審者みたいな行動はもうやめてください。普通に来てくれればいいんで」

「わかった。ではまた来週に来るとしよう。私にとってお前は唯一の存在だ。家と縁を切った私が言える言葉では無いが、甥のお前は私にとって何よりも大切なものだよ。できれば小さな傷だって作ってほしくない」

 この人は父さんに似て過保護だな。

 明さんの視線は、前に物の怪と戦った時にできた傷に向けられていた。しかしそれは長袖の服で隠れている。いったいどこまで知っているんだ。さすがにゾッとするわ。

 明さんはじゃあ、と言って帰っていった。

 血縁者との初対面が不審者疑惑から始まるのって何だかな。

「かなで。さっきのおじさん帰ったの?」

 家の入口から祭助が頭を出していた。なかなか家に俺が入ってこないから気になって見に来たのだろう。

「さっきの人、俺の叔父らしい。父さんと似ているし、嘘ではないだろうな」

「そう……でも、おいらあの人苦手かも。妖払いのにおいがした」

「なんだそれ」

「妖を寄せ付けないお香のこと。おいら狐だから余計に匂いにはさ」

 家と縁を切ったとはいえ、それに関するものを持っててもおかしくは無いだろう。でもそれが祭助にとっては有害になってしまっているようだ。

「一応伝えとく。明さんと会うときは別に付いて来なくてもいいんだぞ」

「うん……」

 俺は風呂に入ろうと浴室へ向かった。その時もまだ祭助は後ろから付いてきていた。

「かなではあの人を信じるの?」

 今その質問をされると困る。整理ついてないんだ。そこまでなんでもかんでも受け入れられるほど寛大じゃない。

 振り返ると祭助は不安そうに俺の目を見た。なんで、そこまで不安そうにしているんだ。

 その目から目を逸らし、俺は「まだ分からない」とだけ答えて浴室の扉を閉じた。




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隠遁神社 きま細胞 @saibou10

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