*サイズ比較
──俺たちは生き残りを探そうと発電所をあとにした。
敷地内にあった電波塔でつながっていたネットは、遠ざかるにつれて弱くなり、とうとうどこにもつながらなくなる。
「他の地域に行けばまたつながるさ」
確かに、発電所はここだけじゃない。他から電気が流れている地域にいけば、まっとまた電波はつながる。
生き残りがいるかどうかは解らない。けど、じっとしてなんていられない。
相変わらずゾンビどもは彷徨いていて、俺たちはスーパーや工務店に寄っては武器になるものはないかと模索しあった。
それにつれて車も大きくなっていく。
食料だけでなくひと通りの生活用品や、武器になりそうなものを片っ端から積み込むためだ。
ゾンビを見つけては倒していき、そんなことを十日ほど繰り返した。
今ではモリスだけでなく俺や
一口は教習所に通っていた途中だったから、俺よりも早くに運転を覚えた。
頑丈な車を選んで、路上にいるゾンビには勢いをつけて轢いてまわった。寄生虫に脳を食われてはいても、見た目は人間だ。
なのに、俺たちは何も感じなくなっていた。少しずつ、俺たちは何かに麻痺していたのかもしれない。
それでも、生き残りを探す旅を止めようとは思わなかったし、
彼女だけは、どうしてもゾンビ(虫)を殺すことが出来なかったのだ。それが、俺たちの唯一の光になったんだろう。
本屋で野草の本を探し、山を通るときは山菜を採った。ただ、きのこだけはいくら沢山あっても紛らわしいと思えるものは一切、取らなかった。
これはモリスの言いつけでもある。
「きのこだけじゃなく、他にも紛らわしいと思える野草には手を付けるな」
「なんでだよ」
「食用で食べているきのこによく似た毒キノコがある。見分けられる自信がない」
本を見ると、確かにシイタケやしめじに似た毒キノコが載っている。見分けるのはプロでも難しいと書かれていた。
「よく知ってたね」
「テレビで何度か間違って食べたニュースを見たことがあるし、オレの友達は過酷なサバイバルゲームをやっていた」
誤食して死ぬような目に遭ったこともあって、それからキノコは食べないようにしたとか。
世の中には色んな奴がいるもんだなと感心しつつ、シイタケ農家のシイタケをもぎ取る。
──こんな状況なのに、早苗に何の感情も湧かないのは不思議かもしれない。種の保存において、絶滅の危機的状況にこそ発揮される生殖能力がまったく発動されない。
生き残りは必ずいるという想いからなのか、男が三人いると無意識に牽制し合う形になっているからなのか。
「これって、逆ハーレム状態だよね」
などと、早苗のふざけた言葉に俺たちは怒るでもなく、互いに苦笑いを浮かべる。
モリスの友人も食われているのか寄生されているのか、やり取りをするたびに一人ずつ減っていっているようだ。
それに、やりきれなさは感じても、どうすることも出来ない。そんなもどかしさがモリスから伝わってくる。
俺たちは生き残るために互いに協力し、利用しあっている。それを充分に理解している。一人より二人。二人より三人だ。
──深夜
「んっ。──んん」
夜の番をしている俺は、うなされている早苗を見下ろした。悪夢でも見ているのだろうか。
奴らは火を怖がる。そのため、工務店でアウトドア用品をしこたま詰め込んできた。いわば、俺たちの命綱でもある。
雨が降らないと頭から出られない虫どもも、さすがに水中は無理なんだろう。海や川で釣りをして魚には寄生していないことが解った。
先日には、
「なあ。あれ、食べられないかな」
「あれが本当の牛でもさばけねえよ」
牧場で放牧されている牛につぶやいた一口に顔をしかめる。
「オレがさばけるのはウサギまでだ」
モリスのそれも凄いとは思うが、牛をさばける奴がこの中にいる訳がない。食べたい気持ちは痛いほど解るがあれは無理だ。
そんな話をしている最中にも一頭の牛が突然暴れ出して、他の牛にかぶりついたのを俺たちは唖然と眺めていた。
「寄生した動物の食べ物を継続したりはしないんだね」
「そりゃそうだろ」
「でも、そうしないと上手く栄養が取れないよ」
自分の消化器官に合った進化してきたのに。
言っていることはもっともだ。しかしな一口、相手は虫だ。脳を残して記憶を得るタイプのやつじゃあない。
虫は虫として動く物にかぶりつく習性しかなかったんだ。だから俺たちは今でも生きている。
こうしてゾンビ牛を前にしても平然としていられるんだ。
虫は寄生しても、しばらくは宿主の脳を食わないらしい。だから、目の前の牛はさっきまで牛だった。
突然の暴走を見るに、神経をくっつけてから脳を食っている可能性がある。脳を食われていたら、さすがに苦しむだろう。
潜伏期間は環境によって異なるんだと思う。
「あの虫ってさ。どのサイズまで寄生対象になってるんだろう」
「トイプードルは寄生されてたな」
「それより小さいってなんだろ」
「イエネコ?」
小首をかしげる早苗が可愛いなと思った矢先に牛の闘争が視界に入って素に戻る。
「誰かゾンビ猫は見た?」
それには一人も返さなかった。
「小型犬までっぽいな」
モリスが唸り、林の中から出てきた猫に一同の目が注がれる。
そして、
「猫までだな」
おぼつかない足取りの猫を見やり、俺たちはさっさと牧場から離れることにした。
遠ざかる牛に視線を向けると、そいつは見事にゾンビ牛に勝利し雄叫びを上げているのが見えて希望はあるんだと胸が熱くなるのを覚えたものだ。
──そんなことを思い出しつつ、俺は早苗にシーツをかけてやった。
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