◆エンドスタート
*ややこしや
「充電どう?」
休憩所に戻ってきた俺は、さっそく
「ん~。ロッカー探ってみたら、結構揃ってたよ」
ずらりと並べられたスマートフォンは、みなコードがつながれて充電中になっている。充電のために置いて行ったのだが、こんな状況で手元にないのはかなり不安だった。
「収穫あった?」
一口が尋ね返す。
俺とモリスは、それに対してパンパンに詰まったリュックを示すと、二人は「おお~」と声を上げた。
「缶詰とか乾物とかがメインだけど、まずはこっちからだ」
手に提げていたコンビニの袋から賞味期限ぎりぎりの弁当を取り出す。二人はそれにも声を上げ、俺たちは弁当を前に日常を取り戻したようで口角が緩む。
「充電が終わったら送電線を見てまわろう」
食べ終わったモリスは、俺の言葉を聞きながらスマフォをいじる。ここに来るまでに、とにかく日本の外はどうなっているのか調べようと話し合ったのだ。
しばらく画面を見ていたモリスが驚きで目を見開く。
「どうした?」
「外も同じ状況らしい」
それを聞いた俺たちは愕然とした。
何故だろう、今までは漠然としつつも何かしらの希望があったんだ。日本が滅びても人類はきっと大丈夫だとか、島国だから外に広がらないとか。
「アメリカだけとかじゃなくて?」
「他の国も被害を受けていると言っている」
一口の問いかけに追い打ちがかけられ、早苗は呆然とした。
「これじゃあ、人類は滅びたも同じだ」
「いや、まだだ」
モリスの言葉に俺たちは凝視する。
「外がだめなら、内のゾンビを滅ぼせば良い」
生き残りはまだいるはずだ。一匹でも多くゾンビを殺せば人類は助かる。
広がらないなら、入ってもこない。対処法は大体、解ってきた。俺たちだけでも生き残ろう。
「そうだよな」
一口の口元に笑みが浮かぶ。
「まだ間に合うよね」
早苗も覇気のある声を上げた。
「奴らは足が遅い。だったらお前たちでも倒せる」
「何か武器になるものを探そう」
モリスに励まされ、俺たちは息を吹き返した。
「晴れた日なら、あいつらは脳から出れば死ぬ」
「雨の日はどうしよう」
それにハッとした。
雨が降れば、奴らの子どもが脳から出てきて寄生出来る生物を探して回る。小さな虫なら、どこから入ってくるか解らない。ここも安全とはいえないんだ。
「まずは一階以上がベストだろう」
「そうか。階段を上るのは苦労しそうだ」
「雨が降ったらとにかく、上にいけばいいのね」
「うん。そうしよう」
今ほどモリスがいて良かったと思うことはない。
充電を済ませた俺たちは、使えそうなものを集めて別のリュックに詰め込んだ。それを一口に持たせて休憩所から出る。
ふと、一人で彷徨いているゾンビを目にした。俺は休憩所で見つけた金属バットを見下ろし、意を決してゾンビに近づく。
「お、おい」
「やってやるさ」
狙うのは頭だ。殴るだけじゃあだめだ。破壊しなきゃ。
ごくりと生唾を飲み込み、狙いを定める。ゾンビは両手を前に出し、俺を掴もうとしている。
「俺は──生きるんだ!」
力の限りにバットを振った。
ゴキンという音と共にゾンビは倒れていく。ボールやスイカとは違う感触に、俺は震えている自分の手を見つめた。
「えいっ」
一口がとどめの一撃をお見舞いした。ゾンビはびくりと一度だけ痙攣したあと、動かなくなった。
こいつ、スイカ割りの要領で持っていた角材を振り下ろしやがった。
「緊張感まるでねえな」
早苗は後ろを向いている。やはり彼女には無理だろう。俺たちが守ってやるしかない。
「見ろ」
モリスが破壊された頭蓋骨を示す。
「あ」
そこには、確かに虫がいた。大きいのが一匹と小さいのが二匹。しばらくうねっていたあと、しぼんだ風船みたいに動かなくなった。
「本当だ。死んだ」
これなら、俺たちでもやっつけられる。さすがに一撃で仕留めるのは難しいが、頭を殴ればそう簡単には起き上がれない。
複数いれば、まず先に頭を殴っていって後でとどめを刺せばいける。
「よし。送電線を調べながらゾンビを倒していこう」
俺はなんだか吹っ切れた。現れるゾンビを次々と倒していき、英雄にでもなった気分だった。
「ここって発電所の西だっけ」
「たぶん」
「西のどのへん?」
早苗が撮影した地図を見て確認する。
「西の中のほう?」
「そこの東あたり?」
「どこだよ」
西じゃねえのかよ。そんなやり取りにふと思い出す。
大阪には
どこからの西のどこからの中のどこからの南なのか。
ぱっと考えると西の真ん中から南の方とかいう結論に至る訳だが、やはり「どこだよ」と思わずにはいられない。
二つの地名を合体させたものらしいが、阪急の南方駅は「みなみかた」と読むのに対して、こちらは「にしなかじまみなみがた」と濁る。
なんだってそこで変化球かましたのか。
もっとややこしいのは、南側にある「西中島南方駅前」交差点は「にしなかじまみなみかたえきまえ」と濁らないところだ。
何かの陰謀でもあったのか。
いや、今はそんなことで頭を使っている場合じゃない。つい逃避してしまった。
──送電線を調べるも、異常は発見できない。
と、思っていたら、
「あそこ」
一口の差す方を見やる。
「なんだ、あれ」
鉄塔から垂れ下がっているものに目を凝らす。後ろを向くと、敷地の外に高い鉄塔が見えて、そこにも何本かのケーブルが垂れ下がっていた。
しかし、鉄塔の反対側にあるケーブルはなんともない。
「なんてこった」
街へと伸びるはずの送電線が綺麗に切断されている。
「あいつだ」
モリスが指を差す。
「セスナ?」
少し離れた場所にセスナの残骸が転がっていた。
何かの原因でセスナが墜落し、送電線を切断したんだろう。これではどうしようもない。こうなればすっぱりと諦めて次を考えよう。
「おい。モリス、やめろ」
セスナに近づくモリスを制止する。しかし、あいつは言うことをきかない。仕方なく俺も後を追った。
操縦席のあたりをじっと見つめるモリスを怪訝に思い、視線を向ける。
「これ──」
「操縦している途中で食われたんだ」
墜落の衝撃で割れた頭から虫がはみ出て死んでいた。
「なんなんだよ。ほんと」
虫の正体は未だに解らない。
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