*哲学的に
「殺すときは先に言えよ!」
珍しく
ゾンビを見つけていきなりのショットガン炸裂では、目を逸らす暇もなく視界いっぱいに炸裂したゾンビヘッドが広がる。
俺たちは、スマートフォンの充電が出来そうな場所を探して発電所内を彷徨っていた。ようやく敷地の地図を見つけ、社員が休憩か着替えに使う建物に向かっている途中だ。
俺も一口と同様に吐きそうになってへたりこんでいる。叫ぶ気力のある一口の方がまだ元気だ。
「とにかく、急ぎましょ」
しれっと言い放つ早苗に感心すら覚える。
なんにしても、もうすぐ充電が出来ると思うと嬉しい。モリスが軽く調べたところ、発電所内の電気は流れているそうだ。
ということは、外に流れる送電線に何かあったのかもしれない。充電を終えてから調べてみようということになった。
「あ。あそこじゃない?」
早苗が指さした建物に目を向ける。二階建てのプレハブは、いかにもな装いだ。
「地図には食堂もあったね」
「あとで行ってみよう」
食べられるものがあるかもしれない。
──おかしい。充電を済ませてみんなで向かうはずだった食堂に、どうしてだか俺とモリスの二人だけが向かっている。
「時間が勿体ないと思わない?」
そんな、早苗の言葉に
充電のあいだ、何もしないのはどうなの? と切り出され、早苗はロッカーを探って他の充電器がないか、一口は彼女を一人にしてはおけないので残るということになった。
どう考えても、俺より一口の方が強いんじゃないか。
強いというのは、モリスがふいに爆裂させるゾンビの頭部に対してだ。俺よりも一口の方が絶対に耐性が出来ている。
なのに、モリスは俺を指名しやがった。いざとなれば俺の方が強いとかどうとか言いやがって。
そりゃまあ、高校のときの体力測定では一口より平均的に上だったけど。俺を指名したのは、そういうんでも無いらしい。
「あそこだ」
なるほど、さっきのプレハブよりも頑丈な造りになっている。頑丈なプレハブって感じだ。
玄関には受付があり、事務所は当たり前にもぬけの殻だ。
いくつかの扉を横目に通り過ぎ、サンプルが並べられた棚が右に見える突き当たりの空間にたどり着いた。
明らかに食堂だ。もちろん誰もいない。
食事中の人もいたんだろう。食べかけの定食やらラーメンやらがテーブルに散らばっている。
それらを見ながら厨房に滑り込む。
厨房も同じようなもので、調理途中の腐った食べ物が散らばっていた。
「缶詰とか乾物とかを探せ」
まずは保存食だ。持ってきたリュックに見つけては詰め込んでいく。それが終わったら今度は冷蔵庫を開けて賞味期限が切れていない食べ物を集めていく。
四人分と考えて期限が早いものを選ぶ。あとはメモをして、再びここに戻る可能性を考慮し冷蔵庫に戻した。
「最悪、虫を食べ──」
「やめろ。早苗が泣きわめいていただろ」
ここに来る前、モリスのひと言に早苗は絶対的な拒否をした。虫というのは、当然のことながら元凶である寄生虫のことだ。
食べ物がなくなれば死ぬしかなく、身近な食べ物となると奴らしかいない。人間を食べるか寄生虫を食べるか──究極の選択だ。
「そもそも、あんなものどうやって食うんだよ」
「生かもしくは焼くか揚げる」
「取り出すのも嫌だ」
「いい加減、オレにばかり頼るな」
さすがのモリスもうんざりしたのか、肩を落として俺を軽く睨んだ。
「解ってるけどさ」
「囲まれたら自分でなんとかするしかないんだぞ」
「解ってるさ!」
解ってる。自分の身は自分で守るしかない。モリスは強いけど万能じゃないんだ。こいつが俺たちの誰かを助けられなかったとしても、それを責めるべきじゃない。
「自衛隊はどうしたんだろう」
そうだ。自衛隊をまったく見かけない。
「自衛隊の敷地が隔離されてた訳じゃないだろ」
「あ──」
等しく虫にやられた。
みんな同じだ。そこに条件なんかない。運が良いか悪いかだけなんだ。俺たちはまだ、運が良い側にいる。
「死と同じだ」
全てが
「なんか、神父みたい」
「オレが?」
「普遍ってどういう意味だっけ」
「ネット辞書では、全体に広く行き渡ること。例外なくすべてのものにあてはまること。だったかな」
あごをさすって答えたあと、
「死はすべからく、誰にでも訪れるべきものである」
左手を胸に当て、右手を挙げて神父のまねごとをしたモリスに俺は思わず吹き出す。
「じゃあ、すべからくの意味は?」
「当然。なすべきこととして。ぜひとも。だったと思う」
全てとかみんなとかじゃないんだ。
死はすべからく。だと、死は当然。となるから間違いじゃないな。
「~べきである。や、~べし。とワンセットにするものなんだぞ」
「そうなの?」
「調べたときにそう書いてあった」
「勉強になった」
「日本人がアメリカ人に聞くなよ」
「本当だよな」
毒気を抜かれたのか、しばらく見つめ合い、ふいに大声で笑い合った。いま、ここには四人しかいないんだ。言い争っても何の得にもならない。
「戻ろう」
「おう」
俺とモリスは、いっぱいに詰め込んだリュックを背負って食堂をあとにした。
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