東国より参りし女の覚え書

名前:各代霧蔦江式部(かくよむつたえしきぶ)
通称:しきぶ
誕生日:野分のまたの日
座右の銘:いとをかし
紹介文:
わたしくの郷国はここより遥かに東、皆様が"じぱんぐ"と呼ぶ国でございます。曾ては「我が一族に非ざる者は人に非ず」と言わしめるほどの権勢を誇っておりました。が、人の世は儚いもの。次々と反旗を翻す軍勢に都を追われ西へ西へと逃げ落ちていったのです。

一族の多くは戦に破れ、もはや滅亡も免れぬと覚悟を決めた、その時でございます。遠く異国の地より参った伴天連"ばてれん"衆が救いの手を差し伸べてくださいました。その中のひとり"ふらんしす"様はこう言われました。
「この国にはあなたがたの居場所はありませぬ。我らの国に参られよ」と。
その有難いお言葉に従い、わたくしは郷国を捨てこの地へ参ったのでございます。

わたくしの興味を引き付けたのは壮大な教会"えけれじゃ"でございました。極楽浄土も斯くやあらんと思われる崇高な礼拝堂。その中でも目を引いたのは祭壇に祀られた十字架"くるす"とその中心に磔にされた一羽の鳥でした。梟に似た優しく気高いそのお姿。"ふらんしす"様は言われました。

「あれは"とり"様です。わたくしたちが文字を使い始めた時に背負わされた文字原罪。その罪を贖うために天主"でうす"様がこの世に遣わされたのです。トリ様となって正しき文字を人々に伝えた後、悪しき文字を使う人々によって、トリ様は捕らえられ命を奪われました。しかし三日後"とり"様として復活し昇天されたのです」

わたくしは痛く感動しました。"とり"様のために、何かお役に立つことをして差し上げたい、そう思った時、突然"とり"様が光を放ち始めたのです。梟のようなお姿が鳳凰へと変化し天上から荘厳な声が響いてきました。

「書けよ、さらば与えられん。読めよ、さらば救われん。伝えよ、さらば開かれん」

それは紛れもなく"とり"様の"ぐろりあ"でした。こうしてわたくしは尼になる決心をしたのでございます。

尼の衣装は丈の短い小袖に扁平な烏帽子。膝を出す習慣のなかったわたくしにとって、この小袖は気恥ずかしいものでございました。されど"とり"様への信仰心がこの羞恥心を打ち砕きました。小袖の裾には様々な言語の書物が縫い込まれ、わたくしが正しき文字を"とり"様に捧げるたびに裾は少しずつ広がっていくのです。

この世に天国"はらいそ"を顕現させるため、今日もわたくしは悪しき文字を懲らしめ正しき文字を賛美しています。皆様にも"とり"様の恵みと恩寵があらんことを。あめん。

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