聞かせてください。あなたの物語り。一緒に良い物語にしましょう。

名前:雪しおり
通称:しおり
誕生日:3月12日
座右の銘:月下推敲
紹介文:
夕暮れの太陽の光が、その店の奥にまでその手を伸ばし始めた頃。古風なたたずまいを見せる喫茶店で、一人の少女がその手の届かない窓際の席で景色を眺めていた。

「さて、こんなものかしらね。この方も、ずいぶんお変わりになられました。何か心境の変化でもあったのかしら」
透き通った白い指先が、淡い光を放つ画面をそっと弾いていた。自らの行為を確認した後、少女の口から安堵とも、落胆ともいえるため息がこぼれていた。

「しおり様。どうかなさいましたか?」
英国風紳士を思わせる白髪の男が少女の座るテーブルに、一杯の珈琲を持ってやってきた。

「いえ、マスター。なんでもありませんわ。いつものことです。読者である私は、色々な方の物語を少しでもいい形にしたいのです。けれど、それは私の自己満足。作者の方が生み出した物語に、わがままを押し付けているのかもしれませんわ。でも、聞こえるのです。言葉たちの声が……。彼らの声は、とても繊細で壊れやすく、そしてとても純粋ですから」
珈琲を受けとるために、さっきまで持っていたタブレットPCを脇に置いた少女は、その光が消えゆくさまを見届けていた。
待機画面になったのを確認した少女は、もう一度小さく息を吐くと、慌てた様子でマスターに向き直っていた。

「ごめんなさい、私ったら……」
「いえ、大丈夫です。あなたの行為は、何も悪くない」
驚きに目を見開いている少女に、マスターは珈琲を差し出していた。
その香りを存分に楽しむかのように、少女は受け取りながら目を瞑っていた。

「おいしい。そして、いい香り」
少女は一口飲んだ後、自然と言葉に出していた。

「私は、しおり様のその言葉を聞きたくて、その珈琲を煎れさせていただきました。それは、この店に来ていただける、他のお客様に対しても同様です」
「色々注文して、ごめんなさい」
にっこりとほほ笑むマスターに対して、小さく舌を出して謝る少女。先ほどとは違って、少し幼さが見え隠れしていた。

「なんの、そう言っていただける事こそが、喜びですよ。お客様一人一人のお好みと私の技術で満足いただけるものをお届けする。そのための努力は惜しみません」
少女を前にして、マスターはそうほほ笑んでいた。
ゆっくりと、店の奥まで伸ばしていた光は、何かをつかんだかのように、その手を引き戻していた。

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