番外編3 座談会

2000PV突破記念にお遊びの気持ちで書きました。新米魔術師ノルマンが主人公二人に質問をします。本編終了後一年ほど経ったある日という設定です。



***



― 王国歴1029年 年末


― サンレオナール王宮魔術塔



 ここは王宮魔術塔の副総裁執務室、クロードが部下たちと小会議や討論を行う会議室である。長方形の卓にビアンカとクロード、その向かいには新米魔術師ノルマンが座っている。ノルマンが口を開く。


「副総裁様、ビアンカ様、お早うございます。本日はお二人に色々お話をお聞きしたく、こうして貴重なお時間を割いて頂きありがとうございます」


「早く済ませろ、仕事が山積みなんだ。何なんだ、これは一体?」


「『読者さーびすの一環』でございます。お二人に色々な質問をさせていただきます。主役のお二人に直撃インタビューと申しますか、僭越ながらこのノルマンが聞き手を務めさせていただきます。私はほんの脇役ですが、愛されキャラなのでこの大役に選ばれました」


「自分で愛されキャラと言うのか」


「まあ、楽しそう。ねえ、クロードさま。お仕事は少し休憩ということでよろしいではないですか」


「そうだね。ビアンカが楽しいなら俺も楽しい」


「……そ、それはようございました」


 新米魔術師ノルマンは心の中でそっとため息をついた。本当はこんなラブラブ夫婦の話を聞く役など嫌だったのだ。


 何故かまだ新米と呼ばれているノルマンである。魔術師としてはよっぽどビアンカよりも経験を積んでいるはずなのだが、いつまでたっても下っ端のうえ、同僚達の間ではいつもイジられている。


「では、始めさせていただきます。まず簡単な自己紹介をお願い致します」


「ジャン=クロード・テネーブル、公爵、王宮魔術院副総裁、性別は男、歳は30。出身はサンレオナール王都。貴族学院教授も兼任している」


「ビアンカ・テネーブルと申します。肩書は公爵夫人、所属は王宮魔術院です。歳は20です、もうすぐ21になります。出身は、生まれたのは南部ボション領と言われています。15までそこで育ちました」


「昨年、王国歴1028年はお二人にとって激動の年だったのは周知の事実ですが、本年1029年は振り返ってみるとどうでしたか?」


「確かに去年は俺たちの運命を変える怒涛の年だったな。今年は年初から年末まで一年を通して穏やかで幸せな年だった」


「そうですね、昨年は思ってもみなかったことが立て続けに起こって、私はあれよあれよというまに公爵夫人ですものね。今年は静かに幸せを噛みしめられる良い一年でした。実家のボション家にも喜びごとの溢れた年でした。私自身は魔術師としての仕事にもだんだん慣れてきましたし、おかげさまで仕事も楽しいです」


「ビアンカ様は何故か私などよりもよっぽど貫禄がおありですよ、既に。魔術師としては私の方が数年先輩なのですが……とほほ」


「お前はその気弱な自信なさげなところがいかんのだ。だから同僚達に甘く見られるんだぞ。だいたいな、先日の討論会で……」


「クロードさま、そういったお仕事のお話をする場ではございませんでしょう?」


「ごめん、ビアンカ」


「では、気を取り直して……ビアンカ様、御実家のおめでたい出来事とは何かお聞きしてもよろしいですか?」


「今年の春にすぐ下の妹が嫁ぎ、来年の夏には子が生まれるのです。彼女、リナが嫁いですぐは他の家族、特に父が寂しそうにしておりました。ボション一家には私の上京以来の大きな変化でした。もう一人の妹が嫁ぐのはまだ先のことになりそうですが、こうして家族の形態も年々少しずつ変わっていくのだなとしみじみ感じました」


「御実家が遠方にありますと御家族にもなかなか会えないので、より心配ですね」


「ビアンカは特に家族思いだからな。俺も兄弟が沢山居る賑やかな家族は憧れだ」


「クロードさまは一人っ子ですからね」


「俺はルクレール家の従兄弟三人と兄弟同然に育ったが、それでもやはりあの三人の絆の強さには時々入っていけなかった」


「ミラ王妃にジェレミー・ルクレール中佐とフロレンス様のことですね」


「出来れば私たちも子供はたくさん欲しいのですが、こればかりは授かりものですから」


「お二人は将来の夢や設計、目標などありますか?」


「そうだな。近年の俺は副総裁として学院の教授として、後に続く魔術師の育成に力を注いでいる。俺が一人突っ走って雷ばかり落としていても部下や学生たちはついて来ないという事がだんだん分かってきた。いくらしごいてもいつまでたっても中々進歩しないのも居るしな」


「はっ……耳の痛いことでございます」


「ところでノルマンお前、あの魔術具の案件は終わったのか? 早く見せろ」


「えっ、あの、それは……ただ今まとめ中でございまして……」


 先輩魔術師のマリアンヌに手伝ってもらっているなどとても言えないノルマンだった。


「クロードさま、何度申し上げればよろしいのですか? お仕事の話は後でなさって下さい」


「ビアンカ、ごめん。こいつの顔を見る度に未提出書類の催促をするのが癖になっていて……」


「だから僕こんな役回りは……ところで、副総裁様がそうして少し丸くなられたのはビアンカ様の影響も大きいのでしょうか?」


「もちろんだ。魔術塔全体を率いていく者の資格は魔力の強さだけでなないしな」


「そうですわね。フォルタン総裁は知識の多さと人望であの地位にいらっしゃるのですから。けれど決して彼の魔力が弱いと申しているわけではないのですよ」


「代々の総裁も、大魔術を持つ者よりは、統率力のある人間が就任している。だからまあ、なんだ、俺も良い上司になれるように努力をしているのだ」


「クロードさまもただ怖がられているだけではないのですよね。貴方さまを慕っている部下は大勢おりますから」


「では、ビアンカ様の方は将来の目標などはありますか?」


「はい、私は白魔術師として、クロードさまの片割れとしての手記を書きたいと思っているのです」


「自伝を書かれるのですか?」


「フォルタンもまとめているよな、白魔術や俺の覚醒時の様子や、片割れ誕生の仕組みなどを」


「フォルタン総裁さまとは別に、皆さまに読んでいただくようなものではなくて、ただ個人的な記録としてです。私が生まれてからクロードさまに巡り合えるまでの経緯や、クロードさまにお会いしてから何が変わったか、などを時々書き留めているのです」


「それは非常に貴重な資料となることでしょうね」


「でも、世の中の人に読んでいただこうとか、そんなつもりではないのですよ」


「最後にもう一つ二つ質問をさせていただきます。お二人はお互いどう呼び合っておられますか?」


「ビアンカと」


「私はクロードさまとお呼びしております」


「貴女は最近クロードと呼び捨てにすることもあるな。それはそれで嬉しい」


「まあ……」


 二人は見つめ合って赤くなっている。


 ノルマンは二人は絶対テーブルの下で手繋いでるに違いないと思っている。


「さて、この座談会の場は2000PV達成記念として設けられたものなのですが、実は次作の『貴方の隣に立つために』もほぼ同時に2000PV達成し、既に数値ではこちらの作品を追い抜いているのです。その点についてどうお思いですか?」


「あっちはサヴァンの奴がフラフラもたもたしているから話が長引いて話数で稼いでいるだけだろう。一話辺りのPV数はこっちの方が上だ」


「しょうがないですよね、あの二人は……とにかくこの作品も沢山の読者の方々に読んでいただけて私たちも光栄ですわ」


 クロードは先程から妻にでれでれとした笑みを向けている。


「もういいです、僕。ごちそうさまです……ではそろそろお開きにいたしましょうか。ありがとうございました」


「ああ」


「こちらこそありがとうございました。楽しかったです」


 そして立ち上がった二人はノルマンの予想通りしっかりと手を繋いでいたのだった。



***ひとこと***

遊びの気持ちで書いたこの座談会、本編のどの話よりも字数が多くなってしまいました!

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この世界の何処かに 王国物語1 合間 妹子 @oyoyo45

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