番外編2 倒錯
本編「第十三話 招待」と「第十四話 姿絵」の間のお話です。泣く子も黙るクロード副総裁の崩壊ぶりと王妃&ジェレミーの暴走にお気を付け下さい。
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ビアンカがクロードの黒雷を止め、魔術塔で騒動になった後のことである。ミラ王妃はビアンカからは少しその時の話を聞いていたが、今度はクロードを呼びつけた。むしろ国王の方が最近のクロードの変わりように興味津々だったので、王妃の部屋で夕食を一緒にとることになったのだ。
王妃の弟で近衛騎士のジェレミー・ルクレールも国王の護衛としてやって来た。彼も脆弱化したクロードを是非見てみたいなどと言っている。
「副総裁の黒雷を止めた魔術師が居るって、王宮中で噂になっているよ」
「そうよ。アンタが落としかけた雷をビアンカが止めて、逆に雷落とされたって聞いたけど。ビアンカは少々感情的になってしまった……なんて言っていたわね」
「いや、別にそういう訳じゃない。ただ、ビアンカは動植物と話せるから、彼らに危害を及ぼす者には厳しいだけだ」
「だから彼女にしっかり雷を落とされているじゃないか」
結局ジェレミーも夕食に同席している。
「いや、まあそういう事になるか。でもな、ビアンカに叱られるのでさえ嬉しくてな」
「クロード、それ分かるよ。公爵位を継いで、二十代で既に副総裁に就任して、人から注意されたり叱られたりなんてまずなくなったからだろう?」
「そういうものかしら? 私なんて未だに父に会うたびに叱られているわよ。あ、リゼット女官長やレベッカにもしょっちゅう怒られているし」
食卓の側に控えている侍女レベッカの表情はどなたか私の代わりに王妃さまにツッコんで下さいましと言っているようである。
「それは貴女の日頃の行いのせいです、姉上」
ジェレミーがナイスなツッコミをしている。
「何よ、アンタだって未だにセバスチャンにいつも叱られているの、私知っているのよ!」
セバスチャンとはルクレール家の執事である。この姉にしてこの弟ありである。
「君達とクロードを比べてもねえ。で、鬼のテネーブル副総裁閣下は十歳も年下のビアンカには敵わないのだね」
「はい。ビアンカは『クロードさまがよろしいのであればいくらでも叱って差し上げます。』なんて可愛いことを言うし……」
クロードは少し赤くなった。
「はあ? クロードお前ホントに骨抜きにされてんな。陛下、コイツ要するにただのMですよ。恋人にお灸をすえられて快感覚えるなんて」
レベッカは惚気るクロードを微笑みながら見ていたのに、ジェレミーのその一言にさっと血の気が引いていくのを感じていた。彼にとって実姉の王妃だけならともかく、国王の御前で会話が下品な方向に向かっているのである。
「えむって何だ? というより、そうか恋人かあ、恋人と呼ばれる間柄なんだよなぁ……」
クロードは何故かM呼ばわりされたことより、というか彼には意味不明なので、ビアンカと恋人という所が重要だった様子で、一人で照れている。国王は笑いを噛み殺しながらウケている。
「君逹、ホント最高……」
「私ずっと昔からクロードはドSだと思っていたけど……」
「俺は絶対Mだって気付いていましたよ……めくるめく倒錯プレイの世界へようこそ、クロード」
その後王妃とジェレミーは、クロードが知らない俗語を並べたてながら、えむがどうでえすがなんとかでと熱く語り合っていた。
クロードには全くもって理解不能だったが、王妃とジェレミー姉弟とは旧知の仲である。レベッカの今にも卒倒しそうな様子から察するに、いかがわしい内容に違いないことだけは分かっていた。国王は先程からお腹を抱えて涙を流さんばかりに笑っている。
クロードは彼らの会話を理解したくもないし、ビアンカには絶対に教えたくもないと思った。そして純真なビアンカをこの二人のような汚らわしい大人からはなるべく遠ざけておかなければ、と改めて心に誓っていた。
***ひとこと***
四月五日におかげさまで1000PV突破し、その記念に書いた話です。ここでのある登場人物が次作「貴方の隣に立つために」でも活躍し始めたので丁度良かったです。
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