みがき抜かれた翡翠の如き文章で綴られた、《白蛇の神》と《人の娘》の数奇な運命の噺です。
白蛇の神は水脈と天候を支配する神であったが、実に気紛れであり、暴れては里にわざわいをもたらしていた。人は祟りをおそれて神の住処である泉には決して近寄らなくなり、長い時が流れた。
だが白蛇の神は巧まずして、山賊に襲われていた旅の娘を助ける。母親を賊に殺された娘に白蛇はひとつの選択をせまった。曰く、「生きたいか」「喰われたいのか」娘は喰われることを願った。
神は娘に「十年経ってから、あらためて喰われにこい」と言い、麓の里で娘が暮らせるように手はずを整えてやった。
言葉だけの約束。白蛇の神とて期待も信頼も寄せてはいなかった。だが、その護られるはずもない約束が果たされた時に、神と人の運命が動きだす。
この物語の素晴らしいところは、神のこころの動きが実に繊細に書かれているところです。祟るだけの気紛れな神がいかに娘に惹かれ、いかに変わっていくのか。そうして神に愛される娘もまた、無垢なばかりのこどもではありません。特に十年後の娘は、神がこころを傾けるにふさわしい清廉なる魂を携えていて、物語の流れに強い説得力があります。そう、物語の細部に「こうなって然るべき」と読者を納得させるだけのちからがあるのです。それは著者さまの豊富な語彙と細緻を極めた描写の賜物でございます。
人外と少女という組みあわせは昨今多数ありますが、なぜ人外が相手を愛するに至ったのか、という部分がしっかりと書かれている創作は、さほど多くはございません。そのなかで、こちらの小説は実に見事です。
ここから物語は現代に移る様子……更新を楽しみに致しております。