第6幕「陰部と陰謀」

 金的を背後から思いっきり蹴りあげて、邪魔な中年男をどけると、詠多朗の前には落花のあられもない姿があった。着衣は乱れて、両胸ともははだけて、彼女が自分にしか見せていないと言っていた陰部までも露わとなっている。そして四肢をだらしなく放りだし、瞳は泣き濡れ、頬を痙攣させるように震わしていた。


「――落花!」


 詠多朗は黒いスーツのジャケットを脱ぎながら、落花へ駆けよった。そして、身体を隠す様にジャケットをかぶせてやる。

 だが、その間も落花は身体を震わすばかりで、ジャケットを受けとろうともしない。


「落花、大丈夫ですか!?」


「体が麻痺しているみたいね」


 背後から静かに歩みよってきたのは、黒いゴスロリ調の服を纏ったリディだった。彼女は落花の額に手を伸ばすと、人差し指の腹でかるく叩く仕草をする。


「――詠多朗っ!!」


 途端、体を動かせるようになった落花が、詠多朗に飛びかかるように抱きついてきた。

 彼女は「ご主人様」と呼ぶのも忘れて、詠多朗の名を連呼しながら顔を彼の胸に貼りつくように押しつけた。


「怖かった! 怖かったんだ! もうダメかと思ったんだ!」


 鼻声まじりで訴える彼女に、詠多朗は優しく腕を回す。

 そして彼女に大丈夫だと声をかける。


「怖かったんだよ! ボクの体は詠多朗の……ご主人様の物なのに! あと少しでアイツに……」


「遅くなってすいません……でも、最悪には間にあったみたいですね……」


「で、でも! でも、アイツにボクの胸を揉まれちゃったんだ! すごく嫌だった! 気持ち悪かった! だから……」


「うん?」


「だから……だから、帰ったらいっぱい、おっぱい揉んで! アイツに揉まれた以上にいっぱい揉んでよ!」


「……え、ええっ!? そ、それは……」


 両手でシャツの胸の部分にしがみつくように迫る落花に、詠多朗は逃げることもできず、たじろぐことしかできない。

 それをいいことに、彼女は感情のまま激しく迫ってくる。


「揉んでくれないの!? もうアイツの手垢がついちゃったから嫌いになったの!?」


「きっ、嫌いにななんてなるわけないですよ! 揉みます!」


「ホント? ちゃんとおっぱい揉んでくれる?」


「も、もちろん。おっぱいを揉みますから」


 傷つき涙声の彼女の言葉を否定して突き放すことなど誰ができると言うのか。ここはあふれるばかり愛情をもって接するべきだ。詠多朗は、これも彼女のためと言い聞かせながら笑顔を見せる。

 もちろん、そこだけで見たら「笑顔でおっぱいを揉むと断言した男」と言うことになってしまう。しかし、そうではない。おっぱいを揉むのは、彼女のためだ。この笑顔も彼女の笑顔のためだ。だから、笑顔でおっぱいを揉まなければならない。などと、混乱した詠多朗の頭で、よくわからない三段論法が繰り広げられた。


「ちゃんと、いっぱい気持ちよくなるまで揉んでくれないと嫌だよ? じゃないと泣くぞ!」


「わかりましたから、揉みますから! たくさん揉みますから安心して……」


「そ、それにボクの大事なところもアイツに見られたの……ご主人様にもまだちゃんと見てもらってないのに……」


「そ、それは恥ずかしい思いを……」


「だから、帰ったらご主人様もちゃんと見てよ!」


「――えっ!?」


「よーく見せるから、よく見て! 奥まで見て! 表はアイツにも見られちゃったけど、奥までは見られていないんだから、ご主人様が最初だぞ! 最初じゃないと嫌なんだから!」


「そ、それは……あの……」


 躊躇う詠多朗に、感情が爆発している落花は遠慮がない。すぐにまた涙顔になり、「ボクが嫌いになったんだ」と自虐し始めてしまう。

 そんな彼女に詠多朗が逆らえる余地は、やはりなかったのだ。


「見ます! ちゃんと奥まで見ますから!」


「ホントだね! ちゃ、ちゃんとじっくりと奥まで見てくれるんだね!?」


「じっくり奥まで見ます! よーく見させていただきますから泣かないでください!」


「……えへへ……じっくり……奥まで…………あふっ!」


 落花が一瞬、体をなぜか痙攣させてから、蕩けるように詠多朗に体を預けた。

 安堵したのかと思ったが、その瞳の高揚感がどうにも納得いかない。荒い息が納得いかない。たまにピクンッと震える躰が納得いかない。


「……落花さん? あなたまさか……」


「はいはい。もうカテゴリーEに呑まれたギャグはそこまでにしなさいな」


 詠多朗のあきれ果てたツッコミをとめたのは、リディのさらにあきれ果てたツッコミだった。

 振りかえれば、彼女が顎先であの中年男【能登崎のとざき 東喜とうき】を指し示す。


「ほら、詠多朗。あの男、話せるようになったみたいよ」


 詠多朗は落花を壁によりかからせると、スクッと立ちあがって能登崎を睨みつけた。

 すると対抗して、能登崎も睨み返してくる。話せるようにはなったようだが、股間を抑えたまま立ち上がることはできないようだ。


「きっ、貴様ら……どうやってここに入った!?」


「ちょっとした手品よ」


 リディが惚けた返事をすると、能登崎が髪の毛を逆立てる。

 もちろん、手品のわけがない。そんなタネも仕掛けもあるものではなく、ここに来たのはまさに魔術や魔法といった超常の力。一度は足で探そうかと思ったのだが、リディが途中で協力を申し出てくれたのだ。落花の場所まで連れて行ってくれると。


「まあ、普段は手出ししない主義なのだけど、物語士カタリストとして戦いもせず、裏技的なことばかりしているカスに、我が家の奴隷を好き勝手されるのは、ちょっと許すわけにはいきませんわね。物語士カタリストにとって、物語ることは対価。語らず得られるものなど何もないのよ」


「ふざけんな! 何を言っているのかよくわらねぇが、とにかく貴様たちも物語士カタリストだな!」


「もちろん、そうですよ」


 詠多朗はすぐさまそう答える。


「ふ、2人がかりとは、ふざけたマネを……」


 たぶん、リディのことも物語士カタリストだと思っているのだろう。だから詠多朗はこれ幸いと使わせてもらう。

 能登崎が「拒否パス」を多用することは、情報屋から聞いていた。たぶん落花との勝負も、この様子ならば拒否パスを使ったのだろうと推測できる。ならば、拒否パスを使えるのは最大であと1回しかない。エンディングカードをなくすことはできないのだから。

 しかし、この場に敵対する物語士カタリストが2名いるとなれば、そうはいかない。1人は拒否パスをして逃れても、次は逃れられない。その上、エンディングカード1枚で戦わなくてはならなくなる。

 そう考えれば、もう実質的に、拒否パスなどしないはずだ。


「クソが! 次から次へと来やがって……貴様たちも、まさか話しあいに来たとか抜かすんじゃないだろうな! その女や凉子のように!」


「……え? 凉子さんという方も?」


 落花が話しあいに来たのはまだわかる。そもそも彼女には、自分で戦わないようにと注意しておいたはずだ。だから彼女が戦わずに、話しあいですまそうとしたことは理解できる。

 しかし、凉子という女性が、能登崎に話しあいをもちかける理由がわからない。落花の話では能登崎から売られたケンカ・・・・・・・を買い、「わたしが倒す」と息巻いて勝負したが、けっきょく負けたという話のはずだ。「話しあいに来た」では、まるで凉子から接触したようではないか。


「い、いい加減なことを言うなよ! なんで凉子さんがお前に話し合いなんて……」


 背後で聞いていた落花がジャケットで身を隠しながらも立ちあがり、能登崎のことを燃える瞳で睨みつけている。

 だが能登崎は、そんな視線を意に介さない。


「バカめ! だから女は愚かなんだ。クソ女子高生、貴様は騙されてたんだよ!」


「……騙されてた? なにを言ってんだ!」


「凉子はな……あのクソビッチの目的は、お前を倒すことだったのさ!」






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カタリスト~僕たちは物語を紡ぎ主人公を召喚する!( #物語士 ) 芳賀 概夢@コミカライズ連載中 @Guym

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