第5幕「主観と客観」

 人は美しいもの、かわいいもの、きれいなもの、カッコいいものを好む。

 人は醜いもの、ぶさいくなもの、きたないもの、ぶざまなものを嫌う。

 常々思っていたことだが、それは人の常で、世の常で、言い換えれば常識である。


 【能登崎のとざき 東喜とうき】は、そう考えていた。


 ならば、問う。

 美しいものと醜いものとはどう判断されるのか。

 きっと、個人ならば「主観」。

 ただし、社会ならば「主観の多数決というじつたる、名ばかりの客観」となる。そこには、純然たる客観性などない。どこにもない。多様性を認めない主観の集まりによる、欠陥だらけの客観だ。そして、社会はそのことに震撼するほど鈍感である。

 その社会的主観は、センス、流行、常識の偽りの主管・・となり、時に個人的主観を踏みにじり、個性さえも認めない。同性が好き、幼女が好き、変態が好き、そして醜いものが好き……マイノリティは、主管の判断により疾患とされる。


 簡単に言えば、「多いが勝ち」だ。


 能登崎は、その主管により「自分が疾患とされてしまった」と信じていた。本来なら自分が「カッコ悪い」「気持ち悪い」などと、言われるはずがない存在だと考えている。なにしろ自分は最高の男だと、敬愛すべき父がそう言っていたのだ。まちがいない。これぞ、まさに客観的事実なのだ。


 それなのに子供のころは、最高な自分に対して、周囲は最低で最悪だった。なぜなら子供は愚かで、おろそかで、真の価値に気がつけない愚鈍な存在である。いくら力をふるっても理解しない。よく言えば、素直すぎる。


 好きだと告白したら、クラスの人気者の男が好きだと断られた。陰では「きもい」と言われていた。

 プレゼントを贈ったら受け取るくせに、裏では他の男子と仲良くしていた。

 触れただけで嫌悪感をあらわにされた。


 たかが愚かな女のくせに、女のくせに、女のくせに……。


 たかが性欲のはけ口たる女のくせに、女のくせに、女のくせに……。


 たかが、女のくせに、女のくせに、女のくせに……。


 女のくせに、女のくせに、女のくせに……。


 女のくせに、女のくせに、女のくせに、女のくせに……。


 女のくせに、女のくせに、女のくせに、女のくせに、女のくせに……。


 女のくせに!


 女のくせに! 女のくせに!!


 女のくせに! 女のくせに!! 女のくせに!!!


 しかし、大人になれば違ってくる。父から受け継いだ力が、実に有効に働く。大人は、しがらみというのを正しく理解する。ならばられる。

 端的に説明すれば、自分のカッコよさを認めさせられる。それは社会的主観の修正だ。自分の周囲の人間が皆そろって「能登崎はカッコいい」と言えば、それがそのエリアの常識となる。


 簡単に言えば、「多いが価値・・」だ。


 されど、それだけでは足らない。広さも深さも足らない。

 すべてだ。すべての女に主観など不要だ。すべての女に、自分の主観を共有させる。そして、自分を褒め称えさせる、自分を愛させる、自分のものにしてやる。それが能登崎の望みとなった。


 それには、すべてをなくてはならない。

 それには、すべてをなくてはならない。


 あらゆる事をして金を稼ぎ、あらゆる事をして力をつけた。

 そして、次々と女を自分のものにしていった。

 だが、足らない。金も力もいくらあってもたらない。

 と、思っていた時、能登崎は新たなる力を手に入れる。


 それは、物語を現実に反映する神の力をもつカード。


 物語を作ることなど興味がない。

 だが、これをうまく使えば、自分の願いをかなえられる。すべてを正しく修正できる。世界中の女を服従させることもできるかもしれない。ペットとして、好きに扱い、好きにバカにし、好きに見下せるかもしれない。


 その証拠は、まさに今、目の前にある。


 無理やり引き裂いた制服と下着の下に現れたのは、褐色の健康的な肌。

 そこに白さを残した、張りのよい乳房が震えている。なんともきれいなピンクの先端。今までで見たペットの中で、もっとも鮮やかだ。

 くびれ、ひきしまった腰も、どんな体位もこなしてくれそうで楽しみが膨張する。

 さらに下。まくれ上がったスカートの下に覗く黒い茂み。その奥の穴は、はたして使用済みか、未使用か。それを自らをねじ込むことで確認できると思うと、それだけで下半身が膨張する。

 スタンガンで、いい感じに意識は残り、四肢が動かぬ人形のようだ。口も動かぬないのか、声も出ていない。唯一、目だけが涙をためてこちらを睨む。


(いい……これはいいな……)


 この凌辱されることへの屈辱、恥辱の表情を見ているだけで、能登崎は果ててしまいそうになる。いいや、これなら何度も果てられそうだ。一層のこと、このメスの眼前で一度、果ててしまおうか。

 そう思いながら、乳房を握りつぶすように揉みしだく。ぐにゅりと食い込む指の感触に、若さを感じる。すばらしい手触りに我を忘れそうになりながら、もう片方にも指をくいこます。

 少し硬めのビーズクッションよりもなめらかな弾力。少しひんやりとしながらも、吸いつく感触。それらが入り混じった刺激に昂る。


 その手に、水滴が落ちる。

 顔をあげれば、もともと大きくまん丸だった瞳が醜く歪み、耐えかねたように大粒の涙をこぼしていた。


「違うなぁ。醜く歪んだこれが美しい……。百人が、千人が、何万人が醜いと言えど、オレはこれが美しいと断言する! オレに力尽くで犯され、穢される女が本当の女の姿だ! だから、これが美しい! 気の強い女は特に最高だ!!」


 この瞬間がたまらない。能登崎にとって、絶頂を迎える寸前の時間。

 どうやって迎えようか。

 若い乳首に思いっきり歯を立てようか。

 まだ開いていない陰部に舌を差しこもうか。

 それをしただけで、きっと絶頂はやってくる。


 ああ。


 きっと、気持ちよくイクだろう。


 最上級にイクだろう。


 イクだろう。


 イクだろう。


 イク……イク……イクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクイクッ……。


「ああ! もうイクッ!」


 前歯で、そのピンクの乳首をかみ切る。

 そのつもりで頭を降ろした。


「――ぐはっっっ!!」


 刹那、激しい衝撃が股間から脳天へ向かって走った。


「い゛っぎゅ゛ゆ゛ゅゅゅゅ!!」


 下着の中で白い液をもらしながら、痛みと快感に悶え狂う。

 その能登崎の耳に男の声が響く。


「あなたのバッドエンドは僕が物語ってあげますから……1人で逝ってください!」

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