No.5 十人の灯

 左右合わせて二十本。廊下の両壁にずらりと掛かるのは、三つ叉の燭台を肘を折って構えた女の腕であった。そこに火を点ける女はまた別にいるわけだが、今回は既に点いているので別の作業をしているだろう

 にょっきりと生えた腕をよくよく見てみると、細いチェーンと半分に割れたプレートが手首に掛かっている。プレートには丁寧に名前が彫り込まれていた。例えば左壁一番手前の腕には「さとう」、その向かいの腕には「いずみ」。肌の色合いや橙色のマニキュアが同じなので恐らく「さとう いずみ」の両腕だと思われる。生前は成績優秀の女学生であった。これが後ろにまだ九組続いているのだ。艶のある腕、健康的な印象の小麦肌、自傷痕が見られる手首─。そのどれもに名前があって、人生があって、そしてすべてを男が知っていた

 知り合いとも客とも取れる輩から頼みを受けた男が、書庫へ向かう。ずらずらと細かくタイトルが書かれた本のリストを持って廊下を抜けるのだが、その際に男はひとりひとりの名前を呼んで、いつもありがとうと礼を言った。別に特別なことじゃない。通る度にやっている、挨拶めいたものだ。しかしそこに全く愛情が無いわけでもない。もし注ぐべき愛情が本当に切れたなら、わざわざ温かい声音で言わないだろう

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綴さんと芸術品 蒼斑 済 @AO-zumi06

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